2014年11月

先月はあまり読めなかった。

絶叫城殺人事件 (新潮文庫)

絶叫城殺人事件 (新潮文庫)

数年ぶりに再読。短篇集。以前読んだときはあまり意識していなかったのだけれど、それぞれの物語を通して語られるのはある人物がほかの人物に対しておこなう期待とその裏切り、すなわちディスコミュニケーションなのだとつよく感じた。ただそれは典型的なクローズドサークルにおける緊張状態がつくってしまう疑心暗鬼とは逆で、解決編において相互不理解が決定的なものとして理解されるようになっている。なかでもとりわけ印象的なのは「壺中庵殺人事件」のラスト、告発ののち、それまで容疑者だったほかの人物が犯行時のある行為に対する解釈をぶちまけ、犯人は「判っていない」とくり返す場面。容疑者たちがその行為の理由をある種感情的な、内的要因として求めるのと対照的に、火村はあくまで現場の状況から導かれる外的要因によるものだと提示する。ここで解決それ自体が犯人/他の容疑者との断絶を示して、探偵がその線引をしているかのように思われるのだけれど、じっさいはそれだけではなくて、同時に前述した「判っていない」という言葉自体も、正確には他の人物の解釈に対する返答ではなく、ただべつの言葉を紡ごうとするモノローグの一端でしかなくなっている。だからラストシーンにおいては、他の登場人物の言葉もじつはモノローグ的なものになりうるはず。犯人側−探偵側および他の容疑者のモノローグ同士が交互になされることが、あたかも会話をしているかのように読者には見える。けれども、それぞれは別個の位相の言葉としても読める。さらに行為に対する理由の解釈の立場の違いを見るならば、この断絶は、犯人/容疑者たち/探偵役/ワトソン役、にまでおよんでいることになるのでは、と邪推してみる。

読楽 2014年 10月号 [雑誌]

読楽 2014年 10月号 [雑誌]

青崎有吾の短編目当てに。「ノッキンオン・ロックドドア」ということで、密室もの。二人組の私立探偵が主人公なのだけれど、片方が不可能(ハウ)を扱い、もう片方が不可解(ホワイ)を担当するという多重(あるいは分割?)推理。意図的に推理の分割をキャラクターごとに任せるのは最近は古野まほろがやっていた*1けれど、古野のほうは、それぞれを独立したルートで推理をおこなうというパータンのため要素の連関が薄く、それが全体でプラスな演出になりきれていなかった印象がある。逆に青崎のほうは、真相がどちら向きの事件であるか、という視点でそれぞれのキャラクターが推理するので、事件の見方が転がるようになっている。要はどこに焦点を向ければいいかがよく見える。ただ続編のほう*2も読んで感じたのが、「ホワイ」というのは独立して存在しない限り「ハウ」に従属してしまうのでは? ということ。というのも、有栖川有栖が「トリックはロジックに優先する」と作中のキャラクターに言わせていたのを思い出したから。ロジカルなホワイの論証は、結局のところ、ハウになってしまうのでは。ホワイの目的達成のために妙に手の込んだハウが生まれることはあるけれども、推理の論証ではホワイよりハウを優先せざるを得ない(先にフーとハウの謎が解消されなくてはならない)し、そこから関連して導かれるホワイはもはや犯行計画(どのように)になるのでは? という素朴な疑問。だからといって独立したホワイとなれば心理描写なのであって、推理ではなくなってしまう。どうなのだろう。勉強不足のためこれ以上は踏み込んで考えられない。

トリックスターズL (電撃文庫 (1174))

トリックスターズL (電撃文庫 (1174))

トリックスターズD (電撃文庫)

トリックスターズD (電撃文庫)

トリックスターズM (電撃文庫)

トリックスターズM (電撃文庫)

トリックスターズC〈PART1〉 (電撃文庫)

トリックスターズC〈PART1〉 (電撃文庫)

先月に続いて、久住四季の『トリックスターズ』シリーズをひと通り読む。一作目がケレン味あふれる密室ものだったのに対して、二作目はクローズドサークルに魔術を使った密室とフーダニットで、そのロジックもしっかりとしたつくりの王道。かと思いきや三作目では一、二作目の内容を作中の出来事に盛り込んだメタミステリ(挿絵までもが!)になっているし、四作目は起きる事件の場所を推理するというウェアダニット(?)をやったりと、とにかく趣向に富んでいる。けれどミステリの伏線を多く配置する関係上、ストーリーをメインの軸であまり描くことができない問題もあって(一作目はそれがうまく噛み合っていた)、制限があるなかで読まされている印象があった。そういった部分はライトノベルならではなのかもしれない。ただシリーズが進むにつれて、探偵≠トリックスターズ(魔術師)、という図式が強調されていくのは興味深かった。探偵が推理小説で一部分の役割を任されているのに対して、魔術師は推理小説そのものを体現するような存在として描かれている。またシリーズ最終作で、登場人物のひとりがいきなりミステリの面白さを「男性的快楽」だと言い出すくだりは、考えると面白そうな話だと思ったり。けれどその両方とも、核心に触れることなくシリーズが終わってしまったので、こればかりは想像するほかない。作者ののちの作品も変則的なミステリーだというので、手に入れ次第、追っていこうと思う。


来年はパロディものでなく、もうすこしまじめなミステリを書こう。