2014年12月

澤木喬の短編目当てに。90は「鳴神」、91は「火取虫」を所収。唯一の単著になっている『いざ言問わむ都鳥』とは特に作品間のつながりはないものの、あの独特の考察を重ねていく文体はこちらでも健在で、人によっては苦手かもしれない伏線の拾い方をおこなう推理の方向性もやっぱり近い。本になっているものと比べるとさらに解決の唐突さが増しているので出来としては難しいのが惜しいところ。ただ読んでいて感じたのは、澤木作品の場合は探偵役を配していながら、小説自体は推理小説的な(お約束的な)演出の上に立たせようという印象があまりない気がするということ。「鳴神」は地方にやってきたとある人物が文字通り雷に打たれた死体に遭遇するものなのだけれど、最終的には事件そのものよりも現場となる地方の集落の環境全体を見据えるような構成となっているし、「火取虫」も植物観察をおこなっている学生との遭遇を発端として、住んでいる環境と人の行動がどのような結びつきを持つかを明らかにしていくもので、謎を解き明かすという推理という側面にほとんど接近していない(明確なかたちでの謎の提示がされていない)。これは『いざ〜』にも言えることで、お話の視野をいったん広げることで、本当はなにがあったかを「発見する」という態度に近い。結局それを導き出す態度が『いざ〜』の最終話での戸惑いへとつながっていくことになるのだけれど、「鳴神」と「火取虫」には犯人を断罪する探偵役がいるために、その距離感にどこか噛み合わなさが生まれている印象がある。このあとも作品を出し続けていれば、それへの解答もあったんじゃないかと思うのだけれども。


鷲見ヶ原うぐいすの論証 (電撃文庫)

鷲見ヶ原うぐいすの論証 (電撃文庫)

登場人物のほとんどが特殊な技能を持っているうえで、クローズド・サークル化した館での殺人。かと思ったら意外にもオーソドックスなオチを用意されたことと、予想していたほどタイトルにあった論証が推理とあまり変わっていないということがあったので、消化不良な印象。たぶん期待していたのはもっとゴテゴテしい状況設定や煙に巻くような演出なのであって、『トリックスターズ』のキャラクターとの関連があったためにそう思ったのかもしれない。推理ものに対するツイストがこの作者になら期待できるという気持ちが強いので、引き続きほかの作品も読んでいきたい。まだ読んでいないのは時間SF要素のある作品ばかりなので、アプローチも気になるところ。


異端の神話 (山村正夫自選戦慄ミステリー集)

異端の神話 (山村正夫自選戦慄ミステリー集)

巽昌章が学生時代に中世ヨーロッパもののミステリを書くようになった理由に、山村正夫の「獅子」があると言っていたので読む。謀略を成功させるためにおこなわれた不可能殺人的な演出がどのようなものだったのかといった「獅子」はその舞台設定に比べて、思った以上にその事件背景の情報が整理されているかつ、謎が最後に明かされたときと物語のピークが同じになるという質の良すぎる本格ミステリ。神々による人間を裁くための裁判の結果を描く「疫病」は趣向それ自体が凝っているし、サスペンスちっくなストーリー展開は今読んでも奇想ファンタジーっぽさがあるので十分楽しめる。若干落ちてしまうのが「ノスタルジア」と「断頭台」で、両方とも現代の人間があるきっかけによって過去と同期・タイムスリップしてしまうというもの。オチの想像がついてしまうのは、いま読んでいるためだろうから仕方ない。とはいえ「疫病」と「獅子」の二本が翻訳もの歴史もの的な窮屈さをドラマ部分一本で吹き飛ばしているくらいには面白いので、総じて良書。