最近読んだ本も復活します。

- 作者: 青崎有吾
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 2016/04/08
- メディア: 単行本
- この商品を含むブログ (11件) を見る
けれどもここで面白いのは、この思考の癖が、キャラクターのパーソナリティの問題(ハウ>ホワイという事件構図に対する鬱屈)として、いつの間にかストーリーのなかに取り込まれていることだ。そういう意味では続巻でどういう謎解きが描かれるのかということに期待。それと物語後半に登場する敵・チープトリックは、少ない手数で不可能犯罪を成立させるという短編向きキャラクターとして理想的。クール。

- 作者: 円居挽
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2016/05/21
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (9件) を見る
いわゆる「日常の謎」系統の作品と本作が大きく違うのはこの部分で、視点人物となる彼女たちは(ある程度の勉学ができるくらいには)利口であり、世界がどういうものかということに対してもすでに自分なりの枠組みを獲得している。ゆえに知識や考察の先をゆくような探偵役(先導役と言い換えるべきだろうか)が、彼女たちに見えていなかった世界の広がりを一方的に説く筋書きにはならない。それは舞台となるカルチャーセンターの講師たちが、人生の先輩でありながらも彼女たちと同様に挫折を経験したり、一計を案じたりする存在として描かれていることからも示されている*1。
彼女たちは自身の見ている世界を、自分あるいは自分たちが気づくことによって、わずかながら更新してゆく。その不可逆な経験が彼女たちの持つ悩みとの向き合い方を変えさせ、やがてはその後へと直結していく兆しを見せながら、物語の幕は下りてゆく。
自分なりの小さな答えを見つけていく彼女たちの姿がどこか眩しいと思えるのは、彼女らが、読者のうちにもあるような苦い経験や、思春期と呼べる時期の悩みを乗り越えることができるだけのタフネスをもって描かれているからだろう。だからこそ、それを読んだ読者は、過去の自分はどうであったか、という思いに自然と胸を打たれてしまう。そういう意味で本作は素晴らしい青春小説であるとともに、読み手の感情を静かに揺さぶってくる小説でもあるのだと思う。

- 作者: 瀬川コウ,赤坂アカ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2015/02/28
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (9件) を見る
肝心の謎に関しては、連作5話中3話はハウダニットをメインに置き、その推理についても「困難は分割せよ」方式でつくられているので、わざと登場人物の頭を悪くするような針小棒大になっておらず、がっかり感がないのがうれしい。ライトノベル的なレーベル*2ながらも、本格ミステリとしての骨格がしっかりしているといえる。またその謎解きの過程は主人公と後輩ヒロインの推理合戦じみた読み合いになっており、ひとつの事件をこねくりまわすタイプのミステリが好きな人であればさらに買い。なかでもカンニングの問題を扱ったニ章はそうした推理小説の思考をうまくつかった構図になっており、小技でありながらもそれだけで作者の手筋の良さを感じられる出来になっている。引き続き続刊も読む予定。

- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/07/10
- メディア: 文庫
- クリック: 13回
- この商品を含むブログ (20件) を見る

- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2012/07/10
- メディア: 文庫
- 購入: 1人 クリック: 6回
- この商品を含むブログ (15件) を見る

- 作者: 津原泰水
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2015/11/11
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (3件) を見る
そうして文章のたくらみについて川崎大先生の口から語られていくうちに、自分の読解力の低さに打ちのめされて嫌になってしまうが、大先生は久生十蘭の研究者でもあらせられたなと思いだし、なら仕方ないことだと自分に言い聞かせながら二冊目にとりかかるとその作者のあとがきに冗談じみたタイミングで十蘭の名が出てくるものだから、これはもうやられたと思うほかはないわけで、よくよく考えてみればこの無国籍にちかいごった煮感というか、そもそもなにを読んでいるのかわからないままなぜか急にエモーショナルな(そのじつ必然性のある)オチに向かっていく展開といい、妙に気合の入った食い物の描写といい、素性の分からない人物の異様な多さであったり、ありえないけれど不思議と納得できてしまう風景であったりと、文章を読んでいるあいだに想起されるその実感はたしかに十蘭を読んで憶えるものに酷似していたのだった。参りました。

- 作者: 山田章博
- 出版社/メーカー: 幻冬舎コミックス
- 発売日: 2016/01/23
- メディア: コミック
- この商品を含むブログを見る

- 作者: 山田章博
- 出版社/メーカー: 幻冬舎コミックス
- 発売日: 2014/11/21
- メディア: コミック
- この商品を含むブログを見る
*1:たとえば数ヶ月ほど前に同じ版元から発売された放課後スプリング・トレイン (創元推理文庫)で、探偵役となるのは植物の研究をしている大学生だ。高校生である視点人物の知らない世界や答えを示しつつ、彼女の持っている学問への憧れや好意を背負うように描かれていることからも、その違いは明確であろう。
*2:出版レーベルは新潮文庫NEXだが、本作は小説投稿コミュニティサイトのE★エブリスタで掲載・受賞したものを改稿し刊行している。