
- 作者: 黒沢清
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2004/04/01
- メディア: 単行本
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反対に、シナリオ・プロットについては一般的な小説指南書とも違った部分が多く、参考になった。たとえば映画撮影という集団行動をじっさいにするためにはどうしても周囲がおなじヴィジョンを共有する必要があるため、企画面や情報の提出方法(つまりじっさいの映像をどう撮っていくか)などについてまで考える必要がある。
振り返ってみると、ふだん自分が小説を読むときはどのように読むか、という話でもある。たとえばチャンドラーの一筆書きのような文体は、周囲や人物の細かい点にまで言及するが、おそらくそれをカメラで撮ろうすればそういった情報を追うほどに時間が取られてしまい、テンポがかなり悪くなる。といっても一人称視点の文体だからといって読んでいる人間がその主体となる人物の視覚を共有するような読み方をしているとも思えない。どちらかといえばTPSのようにすこし後ろから追ってきては、適度なタイミングで切り返しのカットを用いていくようなカメラワークだろうか。これは作品の文体、語彙、テンポにおおいに左右されるが、むしろここには映画的な感覚に自分の思考が浸食されている証拠でもある。そういうふだんの考え方について、凝り固まった部分を揺らしてくれる体験だった。

- 作者: 津村記久子
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2013/06/10
- メディア: 文庫
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- 作者: 西尾元
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2017/03/08
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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- 作者: ジーンウルフ,青井秋,酒井昭伸
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2017/06/22
- メディア: 単行本
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ジーン・ウルフのファンであれば、この主人公であるEのつくスミス(Smithe)にウルフ(Wolfe)のEという共通点を見出すことはさほど難しくないとおもう。解説の若島先生が述べるように、その名前からはいくつもの作家のエコーを感じとることもできるはずだ。こうした言葉あそびはウルフの得意とするところで、作中に名前だけ登場する「アリス・キャロル」といった存在も、まさしくドジスンが自身をドードー鳥として登場させた夢物語を想起させる。これまで邦訳された作品群に比べて、大きな(かつ解釈の難しい)仕掛けはすくないものの、おそらく終盤になるにつれ、なぜあたらしい作品を書くことが許されなかった作家自身が「語り手」であるのか、という謎への答えが暗示されるのが、やはり肝だろう。向こうのウィキペディア*4によればジョン・クルートはE(アーン)・A・スミスという名前は並び替えることで別の意味にもなるということだが、そこまで考えるかどうかは読者の自由でいいのではないか、とも思う(気になった人は読了後にリンクを調べればいいとおもいます)。
物語の途中に出てくる「エメラルド」や「カカシ」といった存在は『オズの魔法使い』を思い出させるし、ファンであれば、初期作品である「眼閃の奇蹟」を思い出すかもしれない。本作は後者の作品にあるような象徴性は(あまり)見られないし、それと同じレベルの驚きを期待することは難しいかもしれない。とはいえ、ウルフ本人はこのシリーズ二作目を考えているというし、本にまつわる世界はもうすこしだけ続きそうだ。願わくばこの調子でウルフのほかの作品も邦訳がなされるとよいですね。