今年読んだ創作本(再読含む)

 一度の小説の書き方について頭のうちで整理をしたいと思い、さいきんになって読み直すなどしていました。また、どういったシナリオ指南本を読んでいるのか、と聞かれることも比較的多くなったので、まとめることにしました。以下はそのリストとそれを読んだ所感です。
 主にミステリを書く人間が読んでいるので、全般的なエンタメ志向の人とはおそらく違った見方の感想を書いている可能性があります。また、こういうものでよく言及されるスクリプトドクターシリーズには手を出していません。最後に、指南書ということで、それぞれの具体的な記述にはあまり踏み入れないことにしています。悪しからず。

脳が読みたくなるストーリーの書き方

脳が読みたくなるストーリーの書き方

 この本じたいがどうしようもなく長ったらしく読みにくい、という自己矛盾について目をつむるのであれば、ある程度のレベルで使えるものとはいえそうです。日本国内との差異はあるものの、目標点としては「読者を退屈させない」の一言に尽きるマニュアルですので、まずはそこから考えたいという人には参考になるかもしれません。
 といっても上述の問題点から考えるに、大きな見出し(太字の柱部分)とチェックポイント、あとはその周辺を読んでいくやり方がベターな気もしています。語り手の目的が伝わりにくい400p超の文章に(しかも学問的な実証性を説明せずに文章を引きつつ)だらだらと付き合わされた人間の気持ちを考えてください。殺意がわきますね。そういう意味では究極の反面教師です。
 またこの本ではいわゆる創作上における「神話退治」をおこない、自身のプライドによって陥りがちな視野狭窄を防ごうという側面もあります(たとえば美文こそ正しい、という神話概念を間違っているとし、ストーリーテリングこそ優先すべき題目とする、など)。そういう意味でも、第一歩から考えていく本ですね。もちろん本書がエンターテインメント作品に対する処方であるという前提に立っている点を忘れてはいけません。
「感情」から書く脚本術

「感情」から書く脚本術

 たぶんいままで読んできたなかで、いちばん実践的な本だと思います。むろん、ハリウッド式の脚本術であるわけですが、実際の書き方についてリストアップ形式で書かれている点は読み直すさいにも楽です。
 とりわけ、キャラクターをどのように設定・配置していくか、物語における(乗り越える)問題点のつくり方、つまりキャラクターやテーマの設定などですね。これらについて言及される前半部は、多くのひとが感覚的には思っていてもあまり明文化されていなかった内容ではないかと思います。娯楽映画作品に触れてきた人間であれば、なるほどと感じることが多いのではないでしょうか。
 たとえば「人間味あふれるキャラクター」で「動物好き、または動物に好かれる」人物像を描写することで、見ている人に共感を持たせる方法というのがありましたが、自分が読んでいて思い出したのはスターウォーズR2-D2やBB-8と主人公との関係です。多くは語らない二体の機械ですが、エピソード7の主人公レイとは一瞬で仲良くなる描写がありました。
 そういった形で、抽象論より個別論が多く、精神論に傾きがちな指南書に比べて実用的な印象を感じます。こちらも400p超の大著ではありますが、読み終えたあとにエンタメ映画を観ると、使われている手法について、比較的考えつつ観ることができるようになるのではないでしょうか。といっても脚本術ですから、後半部はじっさいに企画段階の脚本をいかにして下読みに次のページを読ませたいふうにするか、といった部分が多く、そちらはあまり小説に適用できるかはわからない気もしました。
小説作法ABC (新潮選書)

小説作法ABC (新潮選書)

 筆者の名前以外に、帯が蓮日重彦の推薦があるというあたりから、察する人は察することができると思います。
 作法、つまりルールというよりは、一種の分析と、執筆の実践への心構えに近い印象です。章が終わるたびに簡潔なまとめとして、〜してみてください、という提案・アドバイスのような語りの体裁によってワークブック的な側面もありますが、ある種の物語/描写/文体などに対する分析論といえるかもしれません。
レトリック感覚 (講談社学術文庫)

レトリック感覚 (講談社学術文庫)

 レトリック、と聞くとまず浮かぶのは、難しい言い回しを使うことによって相手を丸めこんでしまう、というイメージですね。おそらく歴史の授業でソフィストを習ったひとであれば、だれもが通る道だと思います。
 この本は、なぜ現代においてはそのようなイメージが蔓延してしまったのかについて、学術的に遡って分析していく本です。講談社学術文庫というだけでなかなかとっつきにくい雰囲気を憶えるかもしれませんが、文章における比喩の役割についてはとても参考になります。
 比喩といえば村上春樹、春樹といえば比喩、という固定イメージを持っているひと(わたしもそのひとりでした)や、文体について感覚や心構え的な(読者を意識して書く、というふうな)抽象論ではなく、その背景や構造といったものに興味を持っているひとにとっては、必読の書だと思います。 昨年からはじまったゲンロンでのSF講座、参加者に毎回梗概を書いてもらい、よいものは短編として執筆、優秀作品はデビュー、という夢のような講座ですね。今年もおこなわれれているようです。期間は一年。聴講料が98000円、講評込みの参加は168000円。
 若干割高な印象を受けますが、作家や脚本家、翻訳者が文化ホールや会議室などで講座をするさいも8000円くらい取っているものもありますし、12回に加えて、自作の講評もあるようです。デビューのチャンスと考えれば妥当なラインと考えるひとはいるかもしれません。SFの新人賞が多くないことも含めるならば、需要はありそうです。
 書籍は大森望と作家の対談、また参加者の梗概、実作例が一部掲載されています。といっても、初回から課された梗概が制限枚数800字を余裕で突破する勢いで、場合によっては設定注がつくレベルです。そのため、ほんとうに初歩の初歩から、といった印象があります。
 大学時代文章系サークルに在籍していた身としては、既視感を憶えるものが多くありました(相手がロボットだと思っていたら自分のほうもロボットだった!的なオチなど)。文中大事っぽいところは太字になっていますが、あんまり意味はなさそうです。創作実録本としては、いかにSF的なアイデア出発点として用意するか、またそれを物語にまで高めていくか、という課題が提示されているので、そこに興味がある方にとっては参考になりそうです。いわゆる実践的な技術本ではないので、それを期待すると落胆するかもしれません。
作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~

作曲少女~平凡な私が14日間で曲を作れるようになった話~

 小説の創作本ではないのですが、意外と響くものがあります。女の子が主人公のライトノベル形式で話が進みますのでラクチンです。
 創作は自分の好きなものを抽出するのだから作業スペースには自分の好きなものを並べろ、といった一風変わった精神論や、自分が思いついたメロディが傑作だと思っても実際にやるとヘボく思えるのは、勝手に自分が脳内で他のパートを補完しているため、などといった話は小説にもあてはまるのではないかと思いました。興味があれば手に取ってみるのもよいかもしれません。