映画『リズと青い鳥』で気になったシーンとそれに対する(偏った)解釈メモ

注:この記事はネタバレと偏見を含みます。インタビュー記事などを参照した作品解析ではなく、自分が作品から受け取ったものをメモすることを目的としています。原作は未読。



・冒頭部、校門に入り、階段に座り込む鎧塚みぞれ。
→その後、足音とともに女生徒が通り抜ける。ただしみぞれの待つ人(傘木希美)ではない。
→通り抜けた女生徒は脚を映したのち、顔も映る。
→ただし履いているソックスは白で、のぞみは黒のソックスのため、待ち人ではないことは最初に脚が映った時点で説明されていることになる。


・歩いていくみぞれとのぞみのふたり。
→横並びではなく、のぞみが前を、みぞれがその後ろを歩く(この物語はふたりが横並びになるまでの話であることが冒頭から暗示されている)。
→(のぞみの揺れるポニーテールや曲がるたびふわりと広がるスカートの裾が印象的に映される。青い鳥のよう)
→靴箱の前で、床に落とされる上履きの対比。のぞみはどこかぞんざいに左右に広がって落ち、みぞれはおとなしく整った状態で置かれる。
→三年の学年色はスカーフ同様に青。上履きは左右対称の物品(このイメージは羽ばたいていく青い鳥の形と相似している)。
→当然、階段にさしかかれば、上にいるのはのぞみ。下にいるのがみぞれ。口にはされないが、ふたりの力(上下)関係がそこに隠れて見える。しかし安定しているともいえる。


・すれ違いの明確化
→みぞれには髪をつかむ癖がある。
→『リズと青い鳥』の絵本を返すくだり。

→「きょうパートの子らとファミレス寄って帰るんだー」「……うん」
→手を伸ばすがオーボエを持っていたので髪をつかむいつもの癖ができない。崩れる均衡。
→このあと、彼女は自分の思い通りになるものを探し、生物室に入り浸るようになる。
→後輩に囲まれるのぞみ(動物に囲まれるリズとの相似)。


・disjoint(互いに素)のテーマ。
→1以外の最大公約数を持たない数字。
→a, b が互いに素であることを、記号で a ⊥ b と表すこともある、とのこと。

「パート練、行ってくる」

「わたし、ここの大学受けようかな……」「……じゃあ、わたしも」
 
→ならば、こうしたカット(学校の背景をつかった⊥の構図)は意図的なものか?


・生物室
→水槽のフグは映るたびに画面上の個体数が増え、最終的に3匹となっている。
→物品の管理番号(3,7,11…)も「互いに素」
→かざられている骨格標本は『リズと青い鳥』の物語に登場する動物たちか?

→フグに餌を与えているみぞれ。
→作品もしくは彼女の内面を反映したイメージに、何度か鳥を閉じ込めるための檻が描かれる。
→終盤、山場を過ぎた直後、鳥の剥製が映り込む。
→餌を与えつづけていたみぞれの思いは、たんに閉じ込める(生)だけでなく、骨や剥製にする(死)までのつよい執着を暗示する。

→才能の話になったときに映る、DNAのらせんモデル図(白・黒・赤)
→『リズと青い鳥』の物語では、リズが赤い実を授ける。
→才能を発揮させるようにしたのは、みぞれに声をかけたのぞみ。しかしのぞみの両足は自身の影によって閉じ込められてもいる。

→窓越しに鳥が飛んでいくシーンは何度も挿入されるていたが、みぞれが後輩に対し、すこしずつコミュニケーションを取ったときにも飛んでいたのは示唆的。リードには赤い糸。


・奥行き(の動き)を使った演出
→のぞみがカメラ(観客側)に向かってかなり近づくカットはすくない(明確な回数は不明)。
→いちばんわかりやすいのは、新山先生の薫陶を受けているみぞれを見たのち、逃げるように廊下を歩いていくシーン。
→「大好き」のハグは「また今度」といって断る。向き合えないのはのぞみ。

→そののち、カットは切り返る。みぞれの後ろからのカメラで、去っていくのぞみを映す。


・ラストシーン
→廊下を歩く、オ−ボエを組み立てるのは、冒頭の反復。
→ただし、のぞみは図書室で勉強。こちらは差異。
→足音はどのように鳴っていたか?

→階段を下りていくふたり(冒頭との対比。上昇から下降へ)。
→当然、さきを歩くのはのぞみで、その後ろにみぞれ。
→ただし、進行方向が逆のため、上に立っているのはみぞれになっている(物語を介してあきらかになった立場の明確化)。
→カメラ(観客側)へ歩いたのち、振り返るのぞみ。「支えるから」と決意を伝える。はじめて彼女が向き合った瞬間。
→その後、平らな道を歩いていくふたり。
→次第に、前後に歩いていた状態から、ふたりは横並びになっていく。ゆゆ式


■その他、気になった点
・絨毯を敷くシーン。
→みぞれが床に敷き、そこにやってくるのぞみ。窓を開ける。
→上下の関係。あたかも青い鳥であるかのように窓を開けるかつ、みぞれにとっての崇拝対象である作為的な描写。

・光がのぞみのフルートに反射し、生物室のみぞれに届くシーン。
→みぞれの身体に光があたる。鳥が羽ばたいているよう。
→宗教画じみた演出。「おめでとう、恵まれた方」*1

・街中を歩くリズの足元アップ
→ふたりのローファーとのオーバーラップ。

・なかよし川(中川夏紀と吉川優子)がおなじ大学に進むと分かったとたん、音が大きくなるみぞれのピアノ。

・青い羽根を両手で包み込むみぞれ(同様のしぐさをリズもおこなう)。

・「ハッピーアイスクリーム」をのぞみは知っていたか?
→みぞれの言葉に対し、ルール確認(おごる)といったことは口にしていない。
→単純に食べたいもの、という提案を聞いただけか?

・みぞれの「うれしい」の解釈
→いっしょに練習できて「うれしい」?
→青い羽根をもらえて「うれしい」?
→その他いろいろな「うれしい」?

・物語の舞台はほぼ学校内オンリー
→TVシリーズのさいは外部での演奏や、家庭問題などが扱われたが、そちらはオミットされる。
→プールに遊びに行ったことも、スマホの画面上でのみ説明。
→籠(学校)から外に出るのは最後になってから。

・演奏シーンにおけるキャラクター描写
→TVシリーズは群像劇であることを意識してか、それぞれのキャラクターの顔を映していた。
→今回はのぞみとみぞれ以外、ほとんど顔は映らず、楽器のみ映している。