なかなか複雑な展開を見せている『凪のあすから』ですがまだあと10話もあります。着実に、油断せずやってやりましょう。今回からまた岡田脚本ではなくなります。だからといって気の抜けないのがこのアニメです。よそ見していると刃物で刺されます。
第16話 遠い波のささやき
中学校の教室。光がふたたび通うようになります。だれも突っ込みませんが、手を豚のかたちにしているのは1話の再現ですね。オープニング。
教室に馴染む光。前回とは違って地上側にも受け入れる空気がありますね。光も邪険にしませんし。気を遣ってやるさゆ。(光は、いつもの光だった。いつもの光のふりをする、光だった。それならわたしも、いつものわたしのふりをしようと思った)と美海。
下校する光と美海。身長の話をしていると自転車で通り過ぎる峰岸くん。乱暴な運転をする車からかばってくれる光にどきどきしているのを見られます。追いかける美海。「もうあれ、教えてくれなくていい。もうわかったから」そのやりとりを遠くから見て勘違いする光。「違うから」と美海。ラブコメですね。だれがなんといおうとラブコメなんですよ。
帰宅するふたり。ちょうど紡が出るところ。制服を貸しにやってきたようです。しかし制服の丈が合わず、新しいものを買う話に。「電車に乗って、デパート行って、みんなでオムライス食べようねー」とあかり。にやつく晃。
翌朝。熱を出した晃。制服を買いに行くのは光と美海にふたりだけに。
駅前。待っているさゆ。やってきたふたりに声をかけますが、届きません。
遅れて美海がさゆに気づきます。ちょっとだけ不機嫌になるさゆ。電車のなかでは「あのとき食べたイカスミチップスあったでしょ、黒いの」「美味かったよな、あれ。いまでもあんの?」と楽しそうにするふたり。8話の出来事ですね*1。さりげない会話ですが、話題によってあきらかにさゆを蚊帳の外に放っています。そもそもさゆは8話の遠征には参加していません。
町。シャッターが下りた場所がいくつか。いちゃいちゃする光と美海。「ねえ、用事あるんだよね?」とさゆ。怒り気味。
テーラー。サイズを測ってもらう光。いっぽう「あたし、なあんでこんなとこにいるんだろう」とさゆ。ごもっともです。浜中の制服を仕立ててもらうことに迷う光ですが、「いえ! 波中で。波中の制服つくってください!」と美海。
外に出て待っていると、さゆが出てきます。「お店の人困ってなかった?」ととげとげしくいいます。そして悪い雰囲気に。それから「ねえ知ってる?」(…)「叔父さんと姪って結婚できないんだって。三親等だから」*2
「どうしてよ……」
「なにが?」
「喜んでくれたよね。よかったね、って言ってくれたよね、さゆ。なのにどうして!」
「それとこれとは関係ないじゃん」
「ある! なんかさゆ感じ悪い!」
「感じ悪いのは美海じゃん! どうしてわざわざ買い物に呼ぶの? ふたりでよかったじゃん! いちゃいちゃ見せびらかしたかった?」
「いちゃ……そんなのしてない!」
「してる! 自分はいいよね! 好きな人、目ぇ覚めて。美海ばっかり。いいこととかいいこととか、全部美海じゃん。ずるいよ! あたし、今日いったいなにしに来たの!?」
久々に感情のこもった言葉です。小学生のときにはできなかった応酬がこうしてなされているのがいいですね。いや、これもいたたまれないんですが『凪のあすから』ってこういうアニメですもんね。どんどんいたたまれなくなっていきましょう。
やっぱり波中の制服をつくるのはやめる光。店を出ると、口論になっている美海とさゆ。「ごめん! 先帰る!」と美海。その場で泣き崩れるさゆ。駅前の広場あかりに連絡し、ずっと泣いているさゆを見、「お前ら、全然変わってねーのな」と光。すると車のクラクション。狭山です。
造船所。以前美海が家出したときのことを思い出します。案の定足跡が。「お前、全然進歩ねーのな」と光。落ち込む美海にさゆとの仲を取り持ってやることを伝えます。しかしそのタイミングでクレーンが崩れ、視界を悪くした美海が海に落ちます。
溺れるかと思いきやなにかの音が。美海の肌にも胞衣ができ、息ができるように。そこに光が飛び込んできます。
(海の中で見る光はいつもの光と変わらないはずなのに、いつもよりまぶしい、特別な光だった)
光自身は「いつもの光」であって特に問題も解決してはいないのですが、美海のほうでは変化があった言葉です。そして陸に上がると靴を持ったさゆが。「よかった」と仲直りです。
いっぽう喫茶トライアングル。「すみません。今日っていつですか」と裸の人物。要の声ですね。
というわけで今回もエンディングです。美海とさゆの友情を中心に描かれていたのが今回の話ですが、「お前ら全然変わってねーのな」や「全然進歩ねーのな」という言葉にあるとおり、前回の中心にあった変わってしまった人々に対する印象を光が改めていることがわかります。
前回が紡とちさきの回だったと考えると、順当な流れといえるでしょう。13話まで蚊帳の外にいた小学生組の美海とさゆが、これからは本格的にキャラの関係に絡んできます。オープニングのタイトルカットを思い出してもいいかもしれませんね(まなか不在の6人が立っているカットです)。
というわけでこの先も見ていきましょう。
第17話 ビョーキなふたり
前回の続きから。
帰宅する光と美海。「要くんが、目を覚ましたって!」とあかり。漁協に向かうふたり。着くとそこには要が。「やあ、おはよ」とオープニング。
漁協にやってくるちさき。「ほんとうに地上に残ってたんだ」と要。近づこうとすると紡もそこに。若干の間。「なんでもない」なんでもなくないですね。
教授に事情を聞かれる要。ほとんど覚えていないとのこと。「そういえば、音が聞こえたような気がする」に対して「わたしも聞きました」と美海。さらなる聴取が必要なようですが、海村の目覚めが近いかもしれない、と教授。まなかたちを案じる光。それを見つめるちさき。さらにそれを見つめる要。この矢印の連鎖も久しぶりですね。温まってきました。「変わらないものもある」と要。
形見分けリスト(10話に登場)を見ているさゆ。大事に取っておいたのでしょう。
紡の家にやってきた要。「ちさき、ほんとうにここで暮らしてるんだ」「そう言ったでしょう」「漁協にふたり揃ってくるからびっくりした、そういうことなのかなって」と気さくに言ってますが半分は本心でしょうね。要は紡の家で世話を受けるようです。
台所でなにもいわず、阿吽の呼吸でコーヒーの準備をしていくちさきと紡。紡のほうに砂糖がなければすぐにそれを差し出すちさき。パジャマについて紡が話せばもう用意しているちさき。それを目の当たりにする要。人の心がない*3。
翌朝。要も中学に通うことになる告知。要は女子に人気。動揺するさゆ。光はもう制服ですね。結局つくったのか、紡の丈を直したのか。「あのころはさ、遠くから見ているだけだった。一緒にいたけれど、すっごく遠くて、近づけば近づくほど離れていっちゃう感じがして」とさゆ。それを聞いた美海は「でもいまなら、あの輪のなかに入れるかもしれないよ」
海を見つめる要。思い出すのは光を見るちさき、紡と息の合っているちさき。「変わってない……のかな」
下校する美海、光、さゆ。さゆは途中で別れ、偶然要を見つけます。しかしわからない要に逃げ出すさゆ。「ひょっとして……」しかしちさきがやってきて追うことはできないまま見失います。
話ながら帰り道を行くちさきと要。
「ちさきは、変わったのかな」
(…)
「要は、変わった?」
「変わってないよ。寝てただけだし」
「そうなんだ」
「……変わるわけない」
このふたりのあいだにも変化に対する思いが生まれています。
数日後。精密検査の結果、美海に胞衣ができたことがわかります。晃に対して「俺とおんなじだ」という光。嬉しそうな美海。
翌日の教室。浮かないさゆ。「要さんのところいつ行く?」「行かない!」
放課後。さゆを探す美海。いっぽう光は学校に来た要と会います。水場が使えるように。「美海たち、掃除してくれたらしいぜ」そして要を慰める光。「ほんとうに光も変わった」と要。対して光は「だったらもう変わらねえ。これ以上変わったらまなかが起きたとき、びっくりさせちまう」その宣言を聞いてしまう美海。彼女はこういうパターンが多いですね。後手に回りやすい性質。まあじっさい後手ですし、胞衣ができたからといってそう簡単に光には近づけません。
造船所。さゆを見つける美海。話すうちに口論になるふたり。「決めた。わたしも変わらない」と美海。
「病気でもいい、漫画でも構わない。気持ち悪くても、みっともなくても、それでもわたしは変わらない。変わらない!」
怒りながら帰るさゆ。先日要を見つけた場所で、今度は声をかけられます。キョドるさゆ。「相変わらずだね」と要。泣きそうになるさゆ。(わたしも……病気だ)
夜。家を出ていく光。「汐鹿生に戻れるかもしれねえんだ!」
漁協。教授によれば要と美海が聞いた「音」を頼り汐鹿生に入れる可能性があるとのこと。光と要がその調査に向かうことに。しかし「わたしも行きます」と美海。
翌朝(?)。氷に穴を開け、海に潜る3人。音を聞く美海。美海のまだ知っていない光の世界に入っていきエンディングです。
前回、今回と美海とさゆにクローズアップする回が続きましたね。そして一貫して変化についての話がついて回っています。要も登場してオープニングの6人がやっと揃いました。そして案の定感情の矢印が大変なことになっています。道理で第2部のオープニングでは全員浮かない表情をしているわけですね。それはそう。
展開についても作中時間を5年かけて配置したキャラクターに基づいておこなわれているので詰め込みすぎず、スムーズな感じがします。第1部で幾度かなされていた、問題→解決→人間関係の深まり、という一連の動きをもう取っていませんね。あくまで時間による変化と差があり、それを個々人がどう受け止めるかが話の核になっています。
いちおう世界の寒冷化というマクロな問題は依然として存在していますが、あくまでキャラクターたちは自身の恋愛感情というミクロな問題で動く部分が大きいです。つまり恋愛の問題と世界の問題がオーバーラップしている。だから『凪のあすから』はセカイ系の子孫なんですよ!(ここで突然机を叩き出す)
というわけで次回は久々の汐鹿生村です。まだまだ先は長いです。
続く。