ここにきて新展開、というほどではありませんが着実に話は進んでいる『凪のあすから』です。しかしキャラクターの配置や矢印の整理はまだ終わっていません。話はさらに広がっていきます。やってやりましょう。
第18話 シオシシオ
海に降り立った光、要、美海の3人。音を頼りに進みます。村には幕のようなものが。さらに潮流が邪魔をします。おそらくこれによって地上の人間も海の人間も入っていくことができなかったようです。
しかし飛び込んでいく美海。追うふたり。美海のモノローグ。
(それは、不思議な音だった。しゃらしゃらと、砂がこすれ合う音のような。まなかさんの胸がどきん、どきん、って波打っているような。)
潮流を抜け、汐鹿生村に到着してオープニングです。
機械を設置する光たち。「ほんとうはこんなんじゃない」と美海に伝える光。ぬくみ雪が積もり、以前に見えたような極彩色な騒がしさはありません。
村を探索する3人。みな眠り、いっさい動く気配がありません。「なに怖がってんだよ」と美海にいう光。「冬眠してるだけだって言ってるだろ。そんな驚いたらみんなに失礼だろ」「お前みんなのこと、死んでるみたいだって思ってるのか!」さすがにナーバスになっています。要に制止され、謝ります。
そこから光と要はいったん自分の家へ。「俺のわがままなんだ」とこぼす光。「美海の生みの母ちゃんは、海の人間だったろ。やっぱせっかくなら綺麗だって思ってほしかったんだ」
自宅に着いた光。社殿は倒壊しています。鳥居(らしきなにか)もぼきりと折れていますね。
住居のほうは無事のようです。眠っている灯。話しかける光。美海のおかげで汐鹿生に来れたことも。「そうだ。俺、言ってなかった。連れてきてくれてありがとうな、って美海に、言ってなかった」
いっぽう、音を聞き、それを追いかける美海。「待ってまなかさん!」と思わず声に出します。着いたのは波路中学校。教室を見てまわり、廊下の柱にある身長の記録を発見したことで在りし日の学校を幻視します。「ここだ。わたしの思ってた、憧れてた、海のなかだ……!」それから自分の身長を柱に書き足します。それから音楽室では木琴を鳴らします。
外に出るとうろこ様が学校の屋根に。どうやら美海に幻視させたのはうろこ様の仕業のようです。「探しものは見つかったかのう?」そこでまなかの行方を訊ねる美海。ほんとうに探していたものなら教えるそうですが、「まなかさんです!」「嘘じゃな。神の使いに向こうて嘘をつくとは、とんでもない子供じゃ」と返されます。「子供じゃありません!」しかしそこに光と要がやってきて、うろこ様はどこかへ。
「まなかさんは近くにいる」と美海。(おそらく)音を聞き、知らない場所にたどり着きます。見ると、これまで海に流されたであろうおじょしさまが積まれています。おじょしさまの墓場。その中央に近づく光と要。まなかが眠っています。
それを遠くから見ている美海。そこにうろこ様。「あれがお前の探しものというわけじゃな。わたしは汐鹿生に行きたかっただけ、などというのは子供のたわごと」先ほどの会話からの皮肉ですね。「なにかが現れるとき、なにかが失われる。さすれば、足し引き同じになるというわけじゃ」
美海の聞いた音の正体はまなかの胞衣がはがれる音だとわかります。「そんなことになったら、まなかが死んじまう」と光。崩れだす周囲。海神様が怒っているのではないかと考える要ですが、まなかを優先する光。墓場を抜け出すとき、なぜか美海を見つめているうろこ様。さきほどの台詞の意味するところは……。
というわけで今回はここでエンディングです。基本的に探索のみで人間関係に対する変化等はほとんどないため、こちらでも取り立てて言及するところはありませんね。しいていうなら、木琴のくだりがうろこ様の「足し引き」とリンクしているだろうと考えられるところでしょうか。これが単純に胞衣の足し引きなのかについてはもうすこし見ていただければと思います。
第19話 迷子のまいごの…
ちさきの回想。(子供のころ、まなかとふたりで道に迷ったことがあった(…)歩き疲れ、お腹も減って、泣きそうになっていたとき、わたしたちの前に現れたのは光だった(…)だから、光がまなかを見つけたと聞いても、あまり驚かなかったように思う)
すごいですね。回想と前話の顛末が語られただけなのに(しかも序盤はちさきも見つけてもらう側だったはずなのに)、彼女のフィルターを通すだけでなんとなくちきさはもう光に見向きもされないのでは、という雰囲気が立ち上がっています。1話でまなかを探す光を見て、「敵わないな……」とつぶやいていたのが思い出されます。彼女はずっとそういう立ち位置です。告白の件についても変わった変わらないの話のせいで5年越しにスルーされていますし……。
汐留家で医者の先生に診てもらうまなか。健康体。騒ぐ光と晃。「光、まなかが見つかってほんとうにうれしいのね」とちさき。なんともいえない表情の美海。
先生を見送ってちさきが屋内に戻ると、まなかに話しかけている光。それを見ている美海。視線に気づき、逃げ出す美海。
(そっか。美海ちゃんも光のことが好きなんだ。可愛いなあ……。好きってことにただ一生懸命で、でも踏み出せなくて。ずっと子供だって思ってたけど、もうそうだよね。あのころのわたしたちと同い年なんだもんね)
(そっか。わたしのほうは、あのころのあかりさんとすぐ同い年になっちゃうんだ)
病院でまなかのことを聞くおじいさん。「海神様とおじょしさまの話には続きがある」「語るもんは少ない。なんせ悲しい結末を持った話だからな」
紡の家。黙々と食べる要と紡。「帰ってきてからずっと口聞いてないよね。どうかしたの?」(…)「当分公表するつもりはないんだってさ」「納得できないね」と要。紡がいうには、論文にしなければ地上の危機を回避する研究の助成金が下りないし、美海のところにマスコミがやってくるのを避けるためでもある。紡の肩を持つちさき。「大人だね、ちさきは」
自室にいるちさき。「大人、かあ……」波中の制服を見つけます。着替えるちさき。転ぶちさき。駆けつけるふたり。制服姿であられもないポーズになっているのを見られるちさき。サービスカットです*1。
ふたりを追い払うちさき。鏡に映った姿を見て、ため息。
夜中(深夜?)。コーヒーを切らした紡が台所に行くとちさきが。「お、おじいちゃんの梅酒をね、探してたの」「お前、未成年だろまだ」「いいでしょ。飲んでみたい気分なの。どうせ大人だし、団地妻だし!」「待ってろ、用意してやるから」
梅ジュースで酔うちさき。「無理に大人ぶんなよ」と紡。今日会ったことをちさきは話します。「光、眠ったままのまなかに一生懸命話しかけてたの。それはあんまりショックじゃなかったんだ。でも」(あんな目……きっともう、わたしはできない)と美海を思い出します。
「身体は勝手に膨らんで、なのにいっぱいこぼれ落ちて、大人になるって、いろんなもの、なくしてくこと?」
「たぶんいっぱいなくす。でもなくしたぶんは、新しいもので満たせばいい」
その言葉を聞き入れることなく眠ってしまうちさき。
「お前と一緒のこの5年は、俺にとっては、そういう時間だった」
そこにやってくる要。しかし紡は動じず、布団に運ぶのを手伝ってもらうよう言います。そしておふねひきのとき助けてくれた礼を述べます。対して要は紡を助けなかったかもしれないことを告げます。
「見過ごせばお前はいなくなる。そして、僕はちさきと一緒にいられる」
(…)
「あそこで見過ごせるようなやつだったら、絶対にちさきは渡さない」
「言ったね」
「ああ。でも、お前たちが戻ってくれて、ほんとうに感謝してる。ずっと宙ぶらりんだったからな。俺もちさきもこれで、やっと前へ進める」
紡は年をとっても嫌なやつにはなりませんね。変わった点といえば彼の行動原理にちさきが組み込まれていることでしょうか。15話でちさきが光に会いに行かないのを美海に糾弾されたときも基本的にかばう言動をしていましたし(あくまで態度は中立でしたが)、14話や17話でちさきの家事労働が増えたときも「布団ぐらい自分で敷かせる」や「大丈夫?」と声をかけています。
翌日。ジュースなので二日酔いにならないちさき。汐鹿生に向かいますがコンパスが利かなくなり潮に流されそうになります。すると「ちさき!」と声。光です。
どうにか汐鹿生に着くふたり。ちさきのモノローグに言葉が続きます。(さっき、抱きしめられたとき驚いた。ちっともごつごつしてなくて、実習で触る大人の男の人とは全然違ってて、そうだよね。笑顔も身体も心も)
「5年前のまんま、なんだよね」
(…)
「でもお前だって変わってねえ。ふつうにちさきだよな」
「そうかな。自分では……変わったつもりなんだけど」
「いやあ全然。人の話を聞いてるようで実は聞いてねえのもまんまだし」
「そんなことないわよ!」
「あと、ちょっとからかうとムキになるとこも」
光が5年間で変わっていないと判断する理由が内面にあるところは一貫しています。美海やさゆに対して変わってないと口にするときも基本的に内面を見ています。とはいえ、ちさきがそのことに気づけているかは微妙なところですね。変わってないといわれるのこれで二度目ですからね。人の話を聞いているようで聞いてない。
それから光が汐鹿生に来ている理由について。やっぱりまなかです。そこでおじいさんから聞いた話を伝えるちさき。
「海神様に嫁入りした娘はやがて子を成し、その子孫たちは栄えていった。だが、時が経つにつれ、娘はどんどんふさぐようになっていったという。なぜなら娘は地上に思いを寄せた愛しい男を残しておったから。その男のことが気がかりで、娘はいつまでたっても地上を忘れることができなかった。それを知った海神様は手を尽くして娘を喜ばせようとした。だが結局、娘は地上を忘れられず、万策尽きた海神様は最後には娘を地上に帰した。引き換えに、あるものを奪って」
「あるもの?」
「思ったの。もしかしたら、それが胞衣なのかもって」
それを聞いた光は、うろこ様を捕まえることを決意します。「実を言うと、すこし途方に暮れてたんだけど、これでどっちに行けばいいかわかった」と光。
「でもさ、つくづく勝手だよな、海神の野郎は。人間つくって言うこと聞かないと胞衣を奪ったり、逆に与えてみたり。子供かよ」
「そうかも。何百年何千年生きても、早々変わらないのかもね」
「ああ、きっとそんなの関係ねぇんだ。立場とか年とか、そんなんよか気持ちだろきっと」
「気持ち……」
「地上のことだって、やっぱ諦めねえ!」と光。手を握り、泳いでいくふたり。ちさきは幼いころの記憶に光を重ねます。(ああ、そっか。やっぱりわたし、好きなんだ。光のこと)とモノローグ。
(こうしてまなかが戻ってきたことで、5年間、ずっと止まっていたわたしたちの時間がとうとう動き出す。と、そのときは、そう思っていました。けれど、それから一週間経っても、まなかはまったく目覚める気配を見せなかったのです)
ささやかな幸福と思いきや突き落としてのエンディングです。半分くらいまでこれちさきが制服着たり酔ったりするサービス回なのではと思った方々もいらっしゃるかと思いますが、『凪のあすから』は残念ながらそれを長続きさせてくれるような作品ではありません。気まずい人間関係が基本です。
今回の構図としては紡の感情がより明確に示され、変化を求めるいっぽう、ちさきは光への感情を再確認し、変わらないことを選ぼうとしている、といったところでしょうか。
また5年前から要は紡を警戒していたこともここで明確になっています(そういえばあかりの衣装をまなか、ちさき、紡で買い出しに行ったとき、面白くない表情をしていましたね。ちさきをいらつかせる紡にも嫉妬していました)。
そして当然ながら、ちさきは紡の感情をほぼ理解していません。「話を聞いていない」という光の言葉はあたっています。9話では「俺はいまのあんた、嫌いじゃない」と紡は伝えてますし(伝わりにくいにもほどがありますが)、5年後の15話ではちゃんと「綺麗になった」と言葉にしています(泣いている相手に障子越しですが)。
ここでひとつ紡の微妙に報われていないシーンを思い出しましょう。12話。光への告白を決めたちさきの態度に気づいた紡は「なんか決めたのか」と訊ねていました。それに対するちさきの返答はどんなものだったでしょうか。答えは微笑みながらの「あんまり察しがいい男の子ってモテないと思うよ」
おわかりいただけたでしょうか。おふねひきのことがあったとはいえ、5年間なにも(でき)なかった紡くんもある意味でヘヴィ級のこじらせキャラといえます。味わい深いですね。このアニメには漫画連載のラブコメによくあるようなヒロインレース*2の側面はほとんどありませんが、代わりに行動ができない、あるいはしないキャラクターで満ちています。感情のビリヤードがまたすこしずつ動きはじめています。
ほかにも海神様とおじょしさまの縁起にも続きがあり、海神様の感情めいたものも語られました。神様の時代にも恋愛で気まずくなる人間関係があったこと。これは現在の彼/彼女らの関係とパラレルでもあります。
セカイ系の文脈を濃く引き継いだ作品でしたら上位存在は「足し引き」をするだけのものとして(ある意味理不尽なルールとして)描かれるような気がしますが、あくまで感情ベースのドラマとして描くのが『凪のあすから』のスタイルです。
こちらにも注目しつつ、今後も見ていきましょう。
続く。