前回最高のエモが抽出されて呆然状態になってしまったかと思いますが、ついにここからは岡田脚本。本気でやってやらないと命を落とします。致死量のエモが襲ってきます。やってやりましょう。
第23話 この気持ちは誰のもの
汐留家の庭。晃と遊ぶまなかを見つめる光。回想。まなかを助ける方法について。「答えはわからん」とうろこ様。「光、わかったじゃろう。世の中にどうにもならんことは確実にある」回想終わり。涙を浮かべている光。美海に呼ばれてオープニングです。
海岸沿いの道。「お前、大人ぶんなよ」と光。先ほどの美海の呼びかけは嘘によるフォローだったようです。しかし続く言葉は「ありがとな」です。だいぶ前、大人ぶったちさきに感謝したことがあったように、光もすくなからず成長しています。「近ごろの光、泣き虫だから。どうしたってこっちが大人になる」と美海。
それから「おふねひきが終わったら」の約束について美海に話します。「あれ、紡に告白しようとしてたんじゃないかなって」と光。「なんでそうなるの!」と美海。しかし光は確信を持って「それはないから。絶対に、ないんだ」
「みんなに相談しよう。うろこ様に聞いたこと」と美海。みんなとはまなかも含めたみんな。けれど光は「それはどうしてもできない」「それも、絶対?」
紡の家。まなかを除いた6人で相談。しかし全員がまなかの感情について光のように飛び込むことは考えていません。紡は冷静です。「好きになる感情を失うって、どれくらいのダメージなんだろうね」と要。「まなか楽しそうに見えるし、失ったことでなにか困ってる様子もない」それに対しちさきは「わたしだったら、すこしほっとするかもしれないな」とやはりちさきです。しかし「勝手なこと言うな!」とさゆ。涙を浮かべています。
「好きな気持ちがないほうがいいとか、勝手だよ。まなかさんに聞いてもないじゃんか」
「さゆちゃん」
「なんなんだよ。知らなくてもいいとか、大人ぶんな! あんただって子供のくせに! ばっかみたい!」
去っていくさゆ。追いかける美海。そして紡、要、ちさきの3人を見て「なんかさ、お前らおかしいぞ。気色悪りいよ、なんか」と出ていく光。造船所前。「好きは大事じゃん。好きはあったほうがいいじゃん」とさゆ。そこで解散。
代わりにやってくるまなかと晃。まなかは海に光っているものを見つけます。光が潜って取ってくると、赤ウミウシの吐き出した石だとわかります。「そうだ、前にわたし、赤ウミウシになにかを話したなあ」とまなか。「なんて?」「ん? あれ、なんだっけ。そこまで思い出せないけど」ウミウシの言い伝え。白い石だと思いは正しい。黒だと間違っている。「これ、お前が持っておけ」と光。「大事に大事に持っておけ」
汐留家。「あれ、まなかの石だ」と光。「まなか。ウミウシになにを話したか思い出せないって言ってたよな」「うん」「ってことは、きっとまなかがウミウシに話したのは、人を好きになる心に関係あることなんだ」
そして「やっぱ、紡に頼むしかない」と光。「ウミウシに話すほどの強い気持ちならさ、きっと思い出せると思うんだ。好きな相手の手助けさえあれば、絶対」その感情に対し一方的に葛藤を抱く美海。しかし口にすると、こないだと言ってしまえる光。「好きにならなければ苦しくならない」は5年前に家出した美海が光に語った言葉でした。
夜。まなかに声をかける美海。具合が悪いわけではなく、「耳の奥で波の音がすごいする感じ」がするとまなか。また「ひーくんはわたしのことで、なにか一生懸命になってくれている。でも、どうしてあんなに必死になってくれてるのかな」と気づいています。そして「黙ってるってことは、きっとひーくん、言いたくないことがあるんだと思うから。この石は綺麗だけど、見てるとなんかわからなくて、変な気分になるんだ」
(まなかさんのなかの、誰かを好きになる心が持っていかれて。好きのあった場所が、ぽっかり空いて、その場所が叫んでるんだ。寂しいって、叫んでるんだ)
そう思い石を貸してもらうように頼む美海。「もっと大事にできるようにするから!」
翌朝。紡の家。朝食をつくるちさき。そこにやってくる紡。「大学に戻っても、ちゃんと野菜食べなきゃ駄目だよ? 紡なにかに夢中になると、ご飯食べるの忘れるんだから」「わかってるよ」「睡眠もちゃあんと取らなきゃ駄目だからね。ソファとか床とかでごろっと寝ちゃうの禁止。疲れ取れないから」「わかってる」長年お互いを知っている言葉。ラブコメですね(そうか?)。「俺からも聞いていい?」と紡。「どうして、好きな心がなくなったらほっとするんだ?」なにも答えないちさき。
木工室。石をペンダントにしている美海。その横にさゆ。「やっぱりわたし、好きがなくなるのは嫌だって思うんだ。それが片思いだって。やっぱり好きはあったほうがいい」「人を好きになる気持ちがなくなったら、楽だったろうけどさ、いまのわたしじゃなくなってる。きっと。だからさ」「わたしさ、要に告白する」
完成したペンダントをまなかに渡す美海。「これならほんと、もっと大事にできるね。なくさない! ずっと一緒!」とまなか。それを聞いて泣き出す美海。「まなかさんが綺麗で……。綺麗で、優しくて、楽しくて。まなかさんは全部持ってる。そんなまなかさんがなくしものなんかしちゃいけない……」
氷の上。テントなどの設備を畳んでいる紡。大学に戻ることを光に伝えます。光はまなかの心を取り戻すための協力を願いますが、拒否する紡。
「悪いけど、向井戸にはそういう欲求を持てない」
「そんなのフリだけでいいんだよ。嘘でもいいじゃんかよ」
「向井戸が好きなのは、本当に俺なのか?」
「そうに決まってんだろ。お前見ると顔真っ赤にしてさ、紡くん、紡くんって甘ったれた声出して」
「それが、好きな証拠になるのか?」
「まなかの気持ちを疑うのか!」
キレて掴みかかろうとする光ですが、簡単にあしらわれます。そしてその様子を偶然バスから見つけてしまうちさき。「止めてください!」と運転手に言います。光の腕を背中にやる紡。
「だからなんでなんだよ。お前が好きって言ってやれば、まなかは元に戻るかもしれねえのに」
「好きって気持ちは、どんな理由であれ、もてあそんでいいもんじゃない。それに、俺はちさきが好きだ」
「でも、だからってよ……え?」
「俺は、ちさきが好きだ」
それを聞いてしまうちさき。
思わず海に飛び込むちさき。それを追って飛び込む紡。彼は溺れそうになるなか音を聞きます。美海が以前海に落ちたときのように。
(聞こえる。懐かしい、声みたいな。向井戸の胞衣が。いや、それだけじゃない。多くのいくつもの感情が、この海のなかに漂っている)
そして紡も海中で呼吸できるように。「ああ。そうか。これが、胞衣があるって感覚なのか……! そうか……!」同時にうろこ様の呪いも解けます。そして光に「悪いけど、ここから先はひとりで行かせてくれないか」と告げます。「きちんと、ちさきと向き合いたいんだ。でないと、先に進めない」
汐鹿生。ちさきに追いついた紡。困惑するちさきですが、紡の肌に胞衣ができたことに気づきます。そこで紡は語りはじめます。
「俺の親は、海が嫌いだった。海から離れたがらないじいさんを置いて、町へ出て、でも、俺は海が好きだった。海のそばにいたかった」
「紡……」
「覚えてるか。5年前、江川たちがおじょしさまを壊したって光が勘違いして」
「あ、うん」
「あのとき、ほんとうのことを知って、お前は光をかばおうとした。なんて……愚かだって思った。人って、誰かのために、あんなにみっともなくなれるんだって。いつもは静かで、穏やかで、なのにときに激しくて、手がつけられないくらいになる。あのとき俺……お前のこと……海みたいなやつだなって思った」
というわけで感情の乗った言葉とともに今回はここでエンディングです。まなかの真実を知ったそれぞれの感情が動いたというか暴れることになった回でしたね。
今回、直接の言及がされることはありませんでしたが、光の根っこの部分にはおそらく5話の「だけど、よう。誰かを好きになるの、駄目だって、無駄だって、思いたくねえ」があると思います。さゆも明らかにこの方向から物事を捉えていますね。そして自分の問題にけりをつけるため、さゆは告白を決意しています。
そして今回のラストは紡の持つ海への憧れがそのまま恋愛感情にオーバーラップする実にエモーショナルな言葉ですが、5年前から間接的に描かれていた彼の人生とオーバーラップしているのもまたいいですね。「海が好きだった、海のそばにいたかった。」がそのままちさきのそばにいようとしていた5年間に重なります。年季の入った告白ならではの重さがあります。中学生にはなかなかできないところ。
むろん告白以外の感情も台詞のエッジが利いている印象がありますね。「大事に大事に持っておけ」とかふつうの言い方ではしませんが、感情の乗りによってパワーが生まれていますし、まなかの前で泣き出す美海の感情の決壊は複数の言葉によってが全体のパワーを引き出しています。多くは言及はしませんでしたが、木工室で自分語りするさゆも恋愛を肯定したい感情が乗った台詞になっています。やはり岡田脚本は強い。言葉に感情の具体性がある。
こうしてドシドシ感情に訴えかけてくるであろうアニメがあと3話も残っています。相変わらず世界がどうなるかは全然わからないというのに。彼/彼女らの恋愛もまったくわからない。いやあ『凪のあすから』ってほんとうにいいものですね。
この先も油断せず見ていきましょう。
続く。