2014年2月

昨年から途切れがちになってしまっているが、なるべく気になったものは書いておく。月ごとなどにせず、読んだらすぐ書くほうがいいかもしれない。

砂の海を進む巨大な漂泊船で生活する共同体のなかで、記録者の役割を担う少年の記述をもとに描かれた漫画という体裁であったり、短命の種(感情をもとにした念動力が使える)と長寿の種族(能力はないが、共同体の意思決定をおこなう)の区別であったり、感情を表に出すことを忌み嫌う風習であったり、設定は終末SFプラスエスパーものといった印象。ボニータで連載しているということなので、このまま設定重視のSFふう漫画になるのか、それとも別の要素が入ってしまうのか、気になるところ。


屍竜戦記 (トクマ・ノベルズedge)

屍竜戦記 (トクマ・ノベルズedge)

魔法も物理も効かないドラゴンをどう倒すか、という問題に、ドラゴンの死骸を死霊術(ネクロマンシー)で操って戦わせればいいという発想の逆転がスタート地点になっているファンタジー小説。ただ設定の出オチ小説にさせないよう、宗教対立や貴族の事情のせいで大勢の人が死んだりと、いわゆるハイ・ファンタジー的な世界で実際にどのような問題が起きうるか、という思考実験が緻密になされている。とくに中盤、主人公の国の司教が密室で火炙りにされるというあまりにも推理小説的な暗殺事件が起こるのには、面食らった。けれど、全体を通して見てみると、その部分が世界観の描写として、また人間と竜との対比を主人公がつよく感じるための説得力をもつようになっている。ダークで、売れていない、という話を聞いていたが、むしろファンタジーにおける細かい描写を含め、正統派すぎてしまったために間口が狭かったのでは、と思う。ジャック・ヴァンスは恥ずかしながら読んでいないのでコメントはできない。緻密な戦略・戦争ものではなく、個人の葛藤や世界の謎といった要素が強いので、『テメレア戦記』とは違ったゲーム的アプローチ。



ガリレイドンナ 月光の女神たち

ガリレイドンナ 月光の女神たち

上記の片理誠が今度はSFアニメのノベライズをおこなうということで、早速読んでみた。原作となるアニメのほうは寒冷化し、燃料資源が枯渇しつつある地球で、ガリレオの子孫である三姉妹が、先祖が残した新エネルギーをめぐって世界各地を冒険する、という話。けれど、その脚本がかなり説明不足であったために、終盤に起きる出来事の理由がいっさいわからないまま終わってしまっていた(反転:具体的には、主人公の一人が新エネルギーの反応によってガリレオのいた時代に飛ばされてしまう)。どう料理するのだろうと思っていたら、主人公の持つ悩みや、その人がなぜ先祖に感情移入をするのかといった、アニメでは描写が三姉妹に三等分されていたために不鮮明だったところを一人のキャラクターの視点に絞ったことで、ジュブナイルものとして読者が理解できる小説になっていた。もちろん、省かれていた説明もかなり面白い視点から描かれていて、その発想・発明がいかになされたのか、という驚きも得られる。しかしこのお話、キャラクターが可愛らしく描かれているせいで忘れられがちだが、19〜20世紀にかけての都市なみに孤児や浮浪者がいたりするし、資源を独占しようとして、エネルギー会社が他の会社の資源採掘場をメカで強襲したりと、さらっとエグい社会。


本格ミステリディケイド300』で紹介されているのをみて、気になっていたところ、年末にたまたま手に入ったので読んだ。二作とも密室がメイントリックとなっていて、それ自体はよくできている印象なのだけれど、それ以上にストーリーが強烈。思春期の少年がひたすら高スペックな探偵役や周囲との差を広げられていくということが二巻にわたって描かれている。本来なら、自分の持っている尺度を複数にすることであったり、理解者を得たりするという救いのようなものがあるはずなのだけれど、それを受け入れられないゆえの重みが書かれている気がする。それも思春期ゆえか。最近めっきり作者の名前を見なくなったけれど、公募などには出しているようであるし、どこか拾ってくれないだろうか。