2013年8月

理由あってかまいたちの夜シリーズを再プレイしたり、新刊を読んだり。

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)

『魔法人形』の作者。こちらが処女作らしいのだけれど、構成に無駄がない。そつなくベタベタな展開を最初の100ページでやり、ファイロ・ヴァンスはネタ扱いになり、探偵にはいっさいの不安がない。驚きのトリックというわけでもないし、これを楽しめてしまったら動物化といえるのだろうか。でも楽しい推理小説ってこういうものなんだろうな、とも思ってしまった。

水族館の殺人

水族館の殺人

鮎川哲也賞受賞第一作。個人的に思っていた前作の致命的な部分(反転:後から出る証言でほとんどの推理が要らなくなる)を回避するためか、容疑者は比較的、客観的な情報によって絞られる舞台設定になっている印象。今回も前作同様、一部の証拠を見た瞬間に、これがロジックになるんだなとわかってしまう部分もあったけれども、可能性を排除していくためには必要で。そういうロジックを組み立てていくタイプのフーダニットをやりたい作者の気概もよくわかるので、今後さらにうまい組み立て方を模索するのだと思う。前作でキャラが薄いとかストーリーがないとか散々いわれてた気がするけれど、それを拭うようなストーリーの一部挿入とキャラクターの配置をおこなっているし、作者としてはいろいろと思うところがあったのかもしれない。ただの深読みか。探偵自身の事件になるのは先だろうけれど、こういうタイプのシリーズ探偵の業は深くなる(なってしまう)気配がする。

真かまいたちの夜 11人目の訪問者(サスペクト) (特典なし) - PS3

真かまいたちの夜 11人目の訪問者(サスペクト) (特典なし) - PS3

ひさびさにやってみたら、有料シナリオが200円だったので犯人当て「魔女審問編」をプレイしてみた。
難易度は並以下なのだけれど、犯人当てに自己言及するというシナリオになっているのがとてつもなく面白い。犯人当てが当事者たちにとっては魔女裁判と変わらないということがシナリオの核になっている。基本的に犯人を指摘するために必要なのは、それぞれの証言とわずかな物的証拠(それも主人公が見ているだけ)のみ。そこからあとの解決編は主人公バーサス犯人の屁理屈合戦。結局主人公が勝つわけなんだけれど、それも屁理屈によることに変わりはない。じゃあなぜ全員がその解決で納得できるか、という二段オチがエンドロールのあとに用意されているのがクール。書いたのは汀こるものらしいが、本当かどうかはわからない。本人がそう言ったのだろうか。

最低限の説明で、最大限の説明をおこなう。快作。エピソードの挟み方や、キャラクター同士の関係性とかのクリティカル度が高い。立っている場所が同じでも、自分と相手で見えているものが違うっていうテーマが終始繰り返され、主人公の男女ふたりの視線がだんだん近づいていくプロット。あと人間以外のものを描くとぜんぶ人間の説明になるのってやっぱりクリティカル。

文庫化で「Cの遺言」が追加。ダイイングメッセージもの。もちろん大山なので、しっかり料理してくれている。むしろこの追加短篇が一番面白いんじゃないか。論理構築の楽しさでいえば一番。解説では褒め称えられすぎている気もするけれど、少なくとも偶然がロジックに絡むのでなく、ロジックによって偶然の可能性が導き出せるのであればそれは瑕疵ではないのでは。前者はバカミスかもしれないけれど、後者は空論ではないと思う。推理小説の世界では。


isolated city 02「ラナの世界」安倍吉俊
同人誌。このシリーズは結局二話しか出ていなくて、作者はあたらしいシリーズを書き始めたのできっと続編は期待できないのだろうけれど、二年ぶりに読み直したらやっぱり傑作なんじゃないかと思った。それについてはまたべつに書く。