寂しいネットで拾遺する―ミステリ漫画落ち穂拾い―

 ミステリマガジン2017年7月号*1の特集のミステリ漫画50選があまりにも選出意図がわからず書店で戸惑ってしまった(『最終兵器彼女』や『ガンスリンガーガール』を紹介するのはちょっといかがなものかと思った)ので、自分の本棚から目についたミステリの漫画を紹介したいと思います。本格ミステリっぽいのはどうせネットでアレがない、コレがないと言った感じですでにいろいろいわれているのでしょうし、もうすこし視野を広く粗くしていけば落ちている穂も拾えるのではないでしょうか。

少年SF短編集 (2) (小学館コロコロ文庫)

少年SF短編集 (2) (小学館コロコロ文庫)

 収録の「山寺グラフィティ」がよい伝奇です。オールタイムベスト。

 伝奇ものつながりでいえば近年になって発表された諸星大二郎先生の「妖怪ハンター」シリーズの続編があります。独立した話になっていますので、ここから読んでも差し支えありません。表題作は夢が盗まれるという変わった趣向の幻想ミステリで、ここまで凝った話は小説のほうでもなかなか出会えません。

彼方より (諸星大二郎自選短編集) (集英社文庫(コミック版))

彼方より (諸星大二郎自選短編集) (集英社文庫(コミック版))

 諸星大二郎をひとつも読んだことがない! というひとにはこの短編集が読みやすいです。特にわらべ歌の歌詞がなぜ一部地域だけ違っているのかといった民俗学チックな謎解きもある「天神様」(これまた妖怪ハンターシリーズ)は圧巻です。北森鴻の蓮杖那智シリーズの元ネタがこのシリーズなわけですが、民俗学と謎解きの組み合わせの面白さがいちばん出ている作品だと思います。ハマれば文庫になっているシリーズを読むのもよいと思います。傑作ホラーSF「生物都市」が読めるのもこの本のおトクなところですね。

新装版 海帰線 (KCデラックス)

新装版 海帰線 (KCデラックス)

 伝奇といえば先日劇場公開された『夜明け告げるルーのうた』も伝奇チックな要素を組み込んだ作品でした。人魚伝説、漁師の町、リゾート計画……とだいたいモチーフはおんなじですね。謎解き要素はありませんがとにかく絵に吸い込まれます。

青い鱗と砂の街 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

青い鱗と砂の街 1 (マーガレットコミックスDIGITAL)

 人魚モチーフかつ伝奇らしさを残したままの少女漫画です。ジュブナイル感がすきなひとであれば楽しめると思います。

死人の声をきくがよい 1 (チャンピオンREDコミックス)

死人の声をきくがよい 1 (チャンピオンREDコミックス)

 伝奇だったりSFだったりホラーだったりバラエティに富んでいる死んだ僕の彼女系ラブコメです。ヒロインの早川さんはいわゆる最短で推理する探偵ポジションですね。いるだけで得られる安心感も含めて。

君が死ぬ夏に(1) (講談社コミックス)

君が死ぬ夏に(1) (講談社コミックス)

 死んだ僕の彼女系ラブコメその2です。ヒロインを死の運命から救うべくヒロインの幽霊(未来からやってきた)とタッグを組み謎を解き明かせ! というノリですね。なぜか古井由吉とダジャレが異様なほどにプッシュされています。

山田くんと7人の魔女(1) (講談社コミックス)

山田くんと7人の魔女(1) (講談社コミックス)

 死んでいない僕の彼女系ラブコメです。先日めでたく完結しました。連載長期化のためか、正直間延びした印象は否めませんが、アニメにもなっている(いわば第一部的な)部分は連載の勢いを借りつつも、ルール設定をうまく活用したロジックが楽しめます。予知された未来をいかに回避するか? となったとき、頭の良いヒロインの取る行動と主人公の反応がちょっとした見どころです。ジャンルとしてはいわゆる超能力ものなのですが、SFは売れない*2ので「魔女」と名付けたのは大正解だったようです。

 SFギャグミステリ、あるいはポスト流水コ(ズ)ミック。

見かけの二重星 (KCデラックス Kiss)

見かけの二重星 (KCデラックス Kiss)

 SF姉ミステリ。

 岩波少年/青い鳥文庫ジュブナイル姉ファンタジー志村貴子はなんでこんなに漫画がうまいんでしょうね。

 人が死なない(死んだら生き返る)世界のクライムバトルサスペンス。

 近未来ハードボイルド漫画の名作。もしあなたがこの表紙をみてグッときたならたぶん読んだほうがいいです。そういう話です。

成程 (楽園コミックス)

成程 (楽園コミックス)

 なるほどね(説明するのがダルくなってきました)。

爺さんと僕の事件帖 (1) (あすかコミックスDX)

爺さんと僕の事件帖 (1) (あすかコミックスDX)

 ほんとうは東京創元社で復刊する予定だった日常の謎シリーズ。男の子が割と怖い目にあいそうになったりするあたり、いわゆる”優しい”推理ものへの目配せがちゃんとあった作品だと思います。

 和製トワイライトゾーン。印象的だったのは、お坊さんが神の存在を数式で証明してしまう話とかだったでしょうか。コンセプトそのものが皮肉に満ちているというのは、たぶんこの作者ならではの味だと思います。

応天の門 1巻 (バンチコミックス)

応天の門 1巻 (バンチコミックス)

 菅原道真(探偵役)&在原業平(ワトソン役)のバディもの。この作者は以前BBCのドラマ、シャーロックの同人誌を描いていましたね。道真の登場シーンもホームズの推理パロディです。

ナゾトキ姫は名探偵 (1) (ちゃおフラワーコミックス)

ナゾトキ姫は名探偵 (1) (ちゃおフラワーコミックス)

 本格ミステリーまんがです。雑誌の都合上、読者がすぐ世代交代するので大長編的なお話はできない、かつ複雑なプロットはつくれないという制約はありつつもシリーズとしての人気を得るだけのものはあると思います。ベストは船上のアリバイトリック、また列車内かつ主人公の隣での毒殺トリックという豪華なふたつの話が一冊に入っている8巻。これだけ読むのもアリです。Kindle版もあるので恥ずかしくてレジに運べないということもありません。

 ヴィクトリアンなミステリが嫌いなひとなんていません。船戸明里が嫌いなひともいません。

 和製アシモフふうSFミステリ。さきに原作であるアニメをみてほしい気持ちがありますが(細かい伏線と情報コントロールが秀逸)、コミカライズ版は原作アニメでも描かれなかったどんでん返しストーリー*3があるので、ぜひ最後まで読んでいただきたい作品です。

 冬目景ミーツ大正ロマンチックミステリ。うだつがあがらない探偵と頭の冴えるミステリアスな可愛い助手、浅草十二階のある世界はどうしてこうもドキドキするのでしょうか。

 よいコミカライズだったと思います。『占星術』よりも島田荘司入門に適しているテキスト。

 大変よいコミカライズだったと思います。せがわまさき版の山田風太郎入門に適しているテキスト。

 大変たいへんよいコミカライズだったと思います。すでに大人になってしまったひとも、はやみねかおるに入門できるテキスト。

 骨董SF姉ミステリだくう。

セクシーボイス&ロボ(1)

セクシーボイス&ロボ(1)

 やんちゃな女の子がお人よしの男をこき使ってやんちゃする。

マカロンムーン (Nemuki+コミックス)

マカロンムーン (Nemuki+コミックス)

 学園ファンタジック・ミステリアスミステリー(帯文より)です。

 稲見一良コミカライズ。犬とハードボイルド。


 これからのミステリ漫画市場の発展を、心よりお祈り申し上げます。

*1:ミステリマガジン2017年7月号 | 種類,雑誌,ミステリマガジン | ハヤカワ・オンライン

*2:要出典。

*3:劇場版のBD初回限定特典小説をもとにコミカライズしたもの