百合(漫画その他)を伝えるための51+1作品を紹介する。

 タイトルの通りです。

 ほんらい自分とはちがった価値観を持つ他者に魅力が伝わるようにするためには、まずなにより熱量がたいせつで、それ以外には適切な技術(相手にとっての勘所をおさえるような)があればよいとおもうのですが、どちらも手元になかった人間にとってこれほどつらいことはないとおもいます。あとは方法論として個人的な経験をひたすら語るというのがありますがこれはじっさいのところ共有不可能なものなので結局はつらいことに代わりはない気がします。

 以下につづくのは、とりあえず百合(っぽいであろうという推量を多分にふくめる)作品の羅列になります。文章は添え物程度に思ってください。あらすじではないです。


青い花(1)

青い花(1)

 ふたつの女子高にそれぞれ通う(元)幼なじみふたりが中心人物ですが、彼女らだけでなく周囲のひとびとにも物語がフォーカスされていく群像劇といったほうがよいですね。とりあえず百合作品を、というならなによりもまず最初に、これを薦めることにします。あわせて淡島百景*1も読むとエモが指数関数的にあがっていきます。

 平尾アウリ先生のハイテンションコメディ(?)。漫画がうまいです。内容はタイトルの通りです。クレイジー。シュール。ハラショー。

 1巻は百合をネタにした(「お姉さま」的な)シチュエーションコメディの雰囲気だったのですが、二巻からキャラクターの性格などの深堀りがされたことでぐっとエモみ成分が増えた作品になりました。二〇一七年でいっきにファンを獲得した漫画ですね。

 カップリング的なキャラクター関係のある群像劇です。これもいまでは人気作ですね。説明は不要だと思っています。

 同上。人気作です。人を好きにならない(恋愛が遠いものだと思っている)主人公と先輩の関係が中心となっている群像劇です。やがてグズグズになっていくのではないか、と思わせつつ、巻を進めるごとに引っ張っていくうまさも持ち合わせており、素晴らしいですね。

 吉田秋生は漫画がうまいです。チェーホフ

演劇部の魔女と騎士 (ひらり、コミックス)

演劇部の魔女と騎士 (ひらり、コミックス)

 演劇ものといえばこういうのはどうでしょうか。適度な描写の積み重ねというのはこういう作品に対して使っていきたい言葉だと思います。

 ありがとう完全版。カップリング的要素のつよいドタバタで、明るいのは最高ですね。続編も出るぞ。やった(やったぞ)。

 ぼっち侵略のほうが有名かとは思いますが、あらた先生を紹介して小川先生を紹介しないのは手落ちですよね。はずせません。

 重いのがすきな方はどうぞ。アニメ化した『ステラのまほう』とはかなり趣がちがいます。

 ありがとう完全版。先生と生徒の共同生活をたんなるシチュエーションではなく、その顛末までしっかりと書ききった作品だと思います。

 ドタバタというよりノンストップハイテンションの趣。セリフのパワーがいさぎよいです。

さえもえな日常 (リュウコミックス)

さえもえな日常 (リュウコミックス)

 百合かどうかはわかりませんが、双子というものならこれが心に残っています。伝奇的。

 百合かどうかはわかりませんが、双子というものなら志村貴子が最強の一巻完結漫画を描いてしまいました。

スキマノスキマ (電撃コミックス EX)

スキマノスキマ (電撃コミックス EX)

 伝奇要素をふくめるならこちらも。独特なものの見方と、キャラクター間のほのかな関係性がよいです。

第七女子会彷徨(1) (RYU COMICS)

第七女子会彷徨(1) (RYU COMICS)

 すこしふしぎな世界から強烈なエモまで、つばな先生はすごいです。

三ツ星カラーズ』がアニメ化したカツヲ先生のぼっち四コマ。百合ではないです(しかし識者からすればサブキャラ間の関係が百合という意見も)。

フラグタイム 1 (Championタップ!)

フラグタイム 1 (Championタップ!)

 時間を止めることができる女の子が、唯一止められない女の子と出会う話。後半はシチュエーションからエモを引き出していく展開で、それまでの視線の意味が反転するのがエモいです。

夜鳴きのシィレエヌ 1巻 (ヤングキングコミックス)

夜鳴きのシィレエヌ 1巻 (ヤングキングコミックス)

 TS系統の漫画を描いていた今村先生の本格ファンタジーバトルものです。百合ではないです(しかし能力によって補完しあう関係がエモいとの識者からの意見)。漫画がうまいです。

球詠 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

球詠 1巻 (まんがタイムKRコミックス)

 野球漫画です。

 卓球漫画です。アニメの原作リスペクトがとても素晴らしかったですね。

 地方創生漫画です。アニメがとても丁寧でよかったですね。希代の天才脚本家、綾奈ゆにこ氏による6巻特装版のドラマCDオリジナルエピソードは【ろこどる】の世界観と卒業問題をからめた素晴らしい作品でした。二〇一七年ベストギグといってよいと思います。

 相手の反応を読んだうえで行動するという(そしてときには失敗するという)のは、ごくあたりまえなコミュニケーションのかたちで、でもじつのところ漫画で描くのはとても難しいものではないでしょうか。それをクリアしているというだけで、これはとてもすごいことなのだとおもいます。百合ではないです(しかし識者からの意見)。

少女惑星 (IDコミックス 百合姫コミックス)

少女惑星 (IDコミックス 百合姫コミックス)

 天文部を舞台にした『宙のまにまに』がアニメ化した作者の百合レーベル作品です。短編集。柏原先生は『BanG Dream!*2のコミカライズもしていますね。星つながり。

少女終末旅行 1巻 (バンチコミックス)

少女終末旅行 1巻 (バンチコミックス)

 生きるのは最高だったよね。BLAME!ではないです(しかし識者)。

夏色キセキ(1) (ヤングガンガンコミックス)

夏色キセキ(1) (ヤングガンガンコミックス)

 夏休み(エモい)。果たせなかった約束(ちょうエモい)。絶交だよ(エモのエモ)。突然の転校(エモエモのエモ)。すこしふしぎな出来事たち(スーパーエモい)。終わらない夏休み(最高)。そういう話ですよ(ここで机をたたく)。アニメを見て、そして漫画を読みましょう。

 この作品を読んでスカート澤部渡氏が「静かな夜がいい」をつくったというの、すげーよくないですか*3

 二〇一七年のニューカマーです。タイトルから想起される関係をまっすぐぶつけてくるパワーですよ。

 二〇一七年のニューカマーです(その2)。第一話を読んで、そして読みましょう。


 激エモバンドストーリーです。冬目景の描いた女の子たちが往年のハードロックの話をしているというだけで勝った、といった感じがあります(ストラトキャスターレスポールもキマってていいですね)。

 キスして入れ替わるチョロいシチュエーション四コマです。

『明るい記憶喪失』*4が人気の奥たまむし先生によるチョロいコメディです。

『星の王子様』や『銀河鉄道の夜』が引用される短編集です。

 短編集。レジにきて手をすりすりする話の攻撃力がすごいです。

 群像劇です。それぞれの感情の矛先を知りつつ描かれる関係性が痛いです。

『とんがり帽子のアトリエ』*5で人気を博したビーム(ハルタ)コミックスの良心こと白浜鴎先生です。百合ではないです(識者)。漫画がうまいです。

ハルユリ(1) (月刊少年マガジンコミックス)

ハルユリ(1) (月刊少年マガジンコミックス)

 冒頭からぶっこんでくるタイプのコメディです。

けんもほろろ(1) (バンブーコミックス)

けんもほろろ(1) (バンブーコミックス)

 ハトポポコ先生については識者からの回答待ちとなっています。

ネムルバカ (リュウコミックス)

ネムルバカ (リュウコミックス)

 こちらも識者からの回答待ちです。

ありふれた風景画 (文春文庫)

ありふれた風景画 (文春文庫)

 そろそろネタが尽きてきたので小説です。あさのあつこ。パワフル。

七緒のために (講談社文庫)

七緒のために (講談社文庫)

 痛くて痛くて痛い話です。

終点のあの子 (文春文庫)

終点のあの子 (文春文庫)

 電車に乗る、乗らないの選択をせまるシーンの説得力。話の持っていきかたがうまくて肝が冷えます。

 ネットロア×銃を撃つ女子大生。『ウは宇宙ヤバイのウ!』*6ではオーバーテクノロジー兵器を喫茶店でDIYさせるクレイジーをみせてくれましたが、そういったパワフルさはこちらでもいかんなく発揮されていますね。

Tokyo 7th Sisters -episode.Le☆S☆Ca- 前編

Tokyo 7th Sisters -episode.Le☆S☆Ca- 前編

 ソーシャルゲーム原作。三人の女の子たちがひとつのユニットを結成するまでの物語ですが、青春小説としてよいですね。百合ではないです(しかし識者からの回答がありました)。予感めいたものの描かれ方がよいです。

幽霊列車とこんぺい糖―メモリー・オブ・リガヤ (富士見ミステリー文庫)

幽霊列車とこんぺい糖―メモリー・オブ・リガヤ (富士見ミステリー文庫)

 電車に轢かれて自殺しようとしたらその路線が廃線になっていたため死ぬことができず、不思議な女の子と出会うことになる、ミステリふう小説です。夏はエモの季節ですね。

きことわ (新潮文庫)

きことわ (新潮文庫)

 目に入った睫毛をとる。そのひとつひとつの描写がとてもよいですね。

 吉屋信子花物語*7まで行くと完成度が高すぎる、といったひとにはいいかもしれません。一冊のお話ですし。お姉さま的な女学校文化といった感じですね。

須賀敦子全集 第2巻 (河出文庫)

須賀敦子全集 第2巻 (河出文庫)

 女学校文化世代どころか海外留学まで果たした人のエッセイ集です。第2巻には寄宿学校にいたころの話や、フランスに留学し、丸二日歩きつづけてノートル・ダム大聖堂には行ったはいいものの人であふれていて結局そのなかには入ることなく帰った話「大聖堂まで」など、魅力的な語りで満ちています。第1巻よりこちらを手に取るほうが親しみやすいかもしれません。

眠れぬ夜の奇妙な話コミックス ななめの音楽1 (ソノラマコミックス)

眠れぬ夜の奇妙な話コミックス ななめの音楽1 (ソノラマコミックス)

 お姉さま的な先輩を追って戦闘機レースに参加するという幻想SF的作品。映画のような1ページ横長4コマというコマ割りが特徴的なセンスオブジェンダー*8受賞作品。

FLOWERS -Le volume sur printemps-(春篇) 通常版

FLOWERS -Le volume sur printemps-(春篇) 通常版

 PCノベルゲーム(ミステリADV)。百合(および女学校文化)を全面的に押し出している作品です。四部作で、昨年めでたく完結しました。

ゆめのかよいじ - 大野 安之 | マンガ図書館Z - 無料で漫画が全巻読み放題!
 鬼頭莫宏新城カズマなどが言及する木造校舎伝奇ファンタジーSFです。とりあえずリンクから1話を読んでみましょう。

文学界 2006年 08月号 [雑誌]

文学界 2006年 08月号 [雑誌]

 単行本などはありません。村松真理による短編「ソースタインの台所」です。
 作者は二〇一八年春現在、別名義のSFが一冊のみ刊行されている*9のみで、世間で最も過小評価されている作家のひとりといってもよいでしょう。アメリカの大学院に留学した女の子のところに高校時代の同級生がやってきて、いっしょにまずいコメを食べて会話したり辛くないアラビアータをつくって辛くないことによって喧嘩したりする最高の短編なので大きな図書館などでぜひ読んでください。きっと上記51作のどれかが響いた方なら、すきになれる作品だとおもいます。