摂取記録

 今年度タイトル・オブ・ザ・イヤー受賞作品です。嘘です。じっさいはライトノベル版『天使の処刑人』です。それも嘘です。百合っぽいおバカ小説です。これは本当です、嘘じゃありません、信じてください。
 という冗談はおいておき、殺し屋の女の子のふたりが電車で二人旅をし、行く先々でおバカをやらかしては、窮地(エロ漫画っぽいけどたぶんR12〜15くらいのかわいそうな目)を脱して銃をガンガン撃ちまくる話です。世界に残された移動手段は町と町を結ぶ無人の列車のみで、それぞれの町は文化的にも隔絶され、そんななか少女たちは殺し屋稼業で日銭を稼ぎ、旅を続けている、という設定を聞くととんでもなく荒廃した世界のシリアス展開があるよう思われるのですが、終始おバカな調子というか、残念な感じで進んでいくのでどうとらえたらいいのか読者側としてもわからなかったです……。ただ、注文の多い料理店形式で主人公たちが平然と武装解除するシーンがなにかからの引用でなく作者オリジナルの思いついきだったとしたなら、とってもクレバーなおバカ演出だったので最高なんじゃないかと思いました。拍手。


君が死ぬ夏に(1) (講談社コミックス)

君が死ぬ夏に(1) (講談社コミックス)

 今年度my dead girlfriend大賞*1受賞作です。嘘です。主人公が好きだった女の子が死んでしまい、その幽霊がワトソン役となってやってくる、しかも死んだときの記憶はない、という典型パターンなのだが、この幽霊が未来からやってきたというのがユニーク。第一話では主人公がその幽霊の容姿と現在の生きているヒロインの外見を比較することで、彼女が死ぬおおよその時期をロジカルに推理するシーンがあり、お見事。幽霊だけど、ひとつ屋根の下になったりするシチュエーションが出てきたりもするわけで、ラブコメ要素も自動的に配置できるのが一粒で二度おいしい。2巻では推理ものというよりサスペンス度があがってきたように思うが、伏線回収が時間SFっぽくなる可能性を秘めているし、彼女の死を回避した(=事件を解決した)先に待っているものをどう描くかも気になる。さわやかなラブコメ青春ミステリとしてオススメです。


闇と静謐 (論創海外ミステリ)

闇と静謐 (論創海外ミステリ)

 ファイロ・ヴァンスごっこが好きならみんな大好きジェフリー・ブラックバーンものの第三作目にして、最高傑作とのこと。
 ラジオドラマの生中継中の殺人、しかも密室ということで相変わらずの本格ミステリ大好きっ子向けの展開であり、もちろん探偵は引用ばっかするし、事件がわからないと警部が怒るし、光明が差しこめばまた探偵がうきうきとテンションを上げていく。つまりは国名シリーズのエラリー・クイーンに印象が近い。そのあたりは解説の大山誠一郎が国名シリーズのうち四作のネタバレ込みで語っているので、それは解説の態度として正しいのかはともかく、間違いないといえる。
 さらにいえば、終盤、探偵と犯人との対決シーンがあるので、そういうのが好きな読者は読んでいてたまらないはず。推理についても国名シリーズレベルとは言わないものの、伏線やキャラクターの扱いは巧妙だと思う。以前訳された百年祭の殺人 (論創海外ミステリ)は舞台のせいかお祭り感が強く、推理(特に第二の事件)が割とチープだったけれども、今回は推理パートもなかなかの見せ場になっているのが面白い。

J・G・リーダー氏の心 (論創海外ミステリ)

J・G・リーダー氏の心 (論創海外ミステリ)

 邦訳タイトルや表紙、帯からわかるように、ブラウン神父の派生系探偵もの。リーダー氏が犯罪者の心を持ち、犯人の思考をトレースできるというあたりは、『詩人と狂人たち』っぽい。全8編とも短い話で、たいていは犯罪者がリーダー氏に恨みを抱いたか、あくどいことを考えている犯罪者とリーダー氏がたまたま関わりを持ったことが運のツキになるという探偵ヒーローもの的展開なのだが、読者が読み進めていくうちに、リーダー氏ってもしやスペックが高すぎるサイコパスなんじゃねえかと思い始める構造になっているのが面白い。解説で、リーダー氏がピンチを逃れる展開にヒネリがないということを述べているのには賛成だけれども、最終的に犯罪者側に感情移入しそうになるくらい探偵役によるオーバーキルを楽しめるので、そういうのが好きな人にはオススメ。あと、 と合わせて読むと、一部シーンをさらに楽しむことができます。
 

*1:おそらく死人の声をきくがよい (チャンピオンREDコミックス)とか、りびんぐでっど! 1 (少年チャンピオン・コミックス)とかがノミネートされる枠と思われる。夏と花火と私の死体 (集英社文庫)ジュブナイルとして当時から少年少女の心をわしづかみしたようにそういう物語的欲望が、世界には、たしかに、ある。