『ナイブズ・アウト』についてのメモ

・タイトルの通りです。

・ネタバレを一部含みます。

・『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』を観た手前、今年はミステリ映画をちゃんと見てないと駄目な気がしてしまったので観に行った。

アガサ・クリスティーを言うほど読んでないのでどうクリスティーにささげられたのかはいまいちよくわかっていない。

・『9人の翻訳家』には『オリエント急行』の犯人をあてるシーンがあってそっちのほうがエモかった。未読の人間に対するネタバレでしかないが。

 

よかった点

・冒頭20分を捜査パートではなくキャラ紹介の尋問パートにしたこと。

・だからスムーズにキャラ紹介をおこなえていた。

・同時に探偵役の登場パート(事件参入シークエンス)も削りつつピアノという道具でなんかよくわかんないやつがいるぞ、とキャラ立ちさせている。端的にうまい。

・映像的にわからないシーンがほとんどない(≒なにが起きているか観客がわからないことがない)。

・捜査を乱す側の視点でやると、ギャグもできる。

・あなたは騙される系のミステリ映画はだいたい途中でえ~犯行計画ずさんすぎない? 知能犯にみせているけど逆転のやりすぎでかえってそこまでやる必要はないでしょ……となるところを今回はキャラクターで乗り切ったきらいがある。切ったか?

・『重力の虹』が出てくる(読んでない)。

・直近で観た『9人の翻訳家』が大衆ミステリ作家なのにプルーストとか意識の流れの文学イメージにこだわっていたいっぽうでピンチョンだったので好感が持てただけかもしれない。

・逆転に次ぐ逆転をやらなかったので(≒わからないシーンがなかったので)、観た感触としてはあんまり疲れないところがある。

・おばあちゃんの証言はズルでしょ、と思った。小説だったら間違いなく本を壁にぶん投げていたと思う。映像だったからよかった。

 

微妙だった点

・犯行の構図じたいはキャラに比べて地味。まあアリバイトリックだしね。

・地味な犯行の代わりに探偵がじりじりと追い詰めていくので、そういうので緊迫感を出しておきたかったのかもしれない。

・とはいえ倒叙っぽいからといって褒めるのはよくないと思う。倒叙好きあるある。

・結構キャラ立ちはしてたけどやっぱ人数多くありませんでしたか。

・多かった登場人物は証言の組み合わせでアリバイつくるため要員だった感じもある。とはいえ尋問パートでそいつらは省かれていたのでいいのか。

・ビデオテープの処理はさすがに雑すぎやしないか。

・この時点で無能になってしまった警察がかわいそうだった。名探偵出すとだいたい比較のためにそうなるけれど。

・中盤のふくらみをツイストしているが、手法はサスペンスだった。

・ミステリ映画は中盤のダルさをサスペンス要素によってしか回避できないのかと思ってしまうよ。

・そして後半サスペンス入れると事件全体の様相はグダグダになりがちだよね。

・中盤から割と犯人どうでもよくなってしまったというところがある。

・どちらかというと遺産相続の話で引っ張っていたから脚本としても犯人探しとかそういうところで勝負するつもりはなかったのではないか。

キャプテン・アメリカにその台詞言わせたらいいという話でいいのか?

・家の話(とアメリカの話?)をやる割にはミステリ作家の影が薄い。結局ふつうのおじいちゃんだったよね、という感。

・偉大なパパを出すとまためんどくさいことになるのかもしれない。

・もしかしたら社会派とエンタメをやろうとした妥協点だったのかもしれない。

・でもシリアスに一辺倒だったらキツかったのは間違いない。スナック感覚で観れない。

 

不思議だった点

・嘘をついたら吐くの、現代を舞台にしたミステリの説明としていいのか?

・探偵がノッているときのよくわからない抽象的な台詞で観客が笑っていた。笑うところなんだ……。

・ナイフの真贋に関するネタを伏線にすることで回収したらなんかオチっぽくなる。オチたか?

・犬の吠えた時間を推理パートで回収しきっていなかった気がする。あそこが犯人指摘に必要なピースだったと思うのだが、解決編の絵面として微妙だったので切ったのか、尺が足りなかったのかはわからない。

・おばあちゃんの証言はズルなんだけど、ズルの伏線にしたせいでおばあちゃんが結局目が悪いのかそうでないのか明確にならず恣意的な伏線になっていませんでしたか。

・結局面白いと言っている人がどこまでの感覚で面白いといっているのかわからなくなってしまった。まあまあ面白いけどめちゃくちゃ面白いにはぜったいいかないくらい、の印象だった。

 

 

・めんどくさいミステリ人間がミステリ映画観るのってって難しいね。