凪のあすからを誤読する5(6話)

 前回感動のフィナーレを迎えたような気がしましたが、物語は続きます。今回は輪をかけてつらいエピソードが盛りだくさんです。めげずにやっていきましょう。最後には感動が待っています。

 

 

第6話 巴日のむこう

 縫い物をしているまなか。水着です。海村の人間は服を着たまま泳ぎますが陸の学校ではそうもいかないということでしょう。ぼやく光に「ほんと変わらない」とちさき。どこか浮かない表情のちさきを見つめるまなか。前話で色々解決したような気がしましたが、ちさきの感情は解決していません。ふたりの関係が今回の軸です。

 そして水温を測る先生でオープング。プール回だ!

 教室で着替えはじめる男子。見ているまなかとちさきに「女子は更衣室」とクラスメイト。女子更衣室ではラップタオルを持たないふたり。何気なくほかのクラスメイトとも会話ができるようになっています。光の謝罪の成果でしょうか。

 プールサイド。「先生のストライクゾーンはド高め」「だって、こんなに寒いのに」蝉がわんわん鳴いている夏のはずですが寒い。もしかするとアバンの水温は低かったのかもしれませんね。とりあえずこの引っ掛かりは大事にしておきましょう。

「一緒に泳ごうぜ」とクロール勝負を紡に持ちかける光。要も入れて3人で。それを聞き、誰を応援するか話す女子たち。ちさきに視線を向けながら「ひーくん、だよね?」とまなか。悪意がないぶん余計に質が悪いですね。視線をそらして「そうだね」。

 しかし実際に勝負してみると先を行くのは紡。海の人間は水中で暮らしていても、水面での泳ぎには慣れていないことがまなかによって解説されます。ちょっとスポーツ漫画っぽい理論ですね。とはいえ負けてる理由として使われるあたりがぼくたちの光くんです。やっぱりこうでなくちゃいけませんね。そして光の視界にまなかが入り、回想。次の瞬間には大きな音と水。

 脚を抱える光。「ひーくん!」とまなかが飛び出します。プールサイドに上がると、爪が剥がれてしまったことがわかります。保健室に連れていくよういわれ、「ち、比良平さんも一緒でいいですか」とまなか。気を遣っています。しかし「先生、わたし、次泳ぎます」とちさき。

 保険室。好きな女の子にいいところ見せようとして/好敵手と思ってる相手に勝とうとして、大負けした挙句その好きな子に手当をしてもらっている状況。いたたまれないにもほどがあります。久々のつらいポイント。脚本には人の心がない。いらつく光。「ひーくん、怒ってる?」「別に怒ってねえし、くっせえ! 塩素くっせえ!」やめてさしあげろ。しかしやめない。それどころかさらなる追撃。

「マジで」

「え?」

「速すぎだろ、あいつ」

「だって、クロールとかあんまりやんないもん! 仕方ないよ! 海の中だと絶対、ひーくんのほうが速いよ!」

  今度は好きな女の子が敗北した言い訳を用意してくれました。つらいポイント再び。ほんとうに人の心がない。タオルが落ちます。「お前に褒められると、すげえ」「で、でもみんな知ってるから。ひーくんのすごいとこ。ちーちゃんも!」とまなかはちさきのためのフォローも入れます。悪意はないんですよね、悪意は。「もう帰れよ、自分でやるから」。廊下に出ていくまなか。「だっせえ」とつぶやく光でAパート終了です。

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敗北したプロボクサーもここまでみじめにはならんでしょ。

 冗談はさておき、この保健室のシーン、光は海の人間ですからタオルをそこまで被る必要はないわけで(胞衣が水を吸ってすぐに乾くはずです)、だとするならここで光は自分の情けない表情を隠したかったと解釈できます。しかしそれもまなかの手によって(悪意なく)払われてしまう。見られてしまう。ほんとうのほんとうに人の心がない。

 Bパート。教室に戻ってきたまなか。ちさきに話しかけるも無視されます。

 焼却炉。美海とさゆ。おじょしさまづくりに加わります。光が木工室に行くとクラスメイトたちも。ちさきにパスをつなごうとするまなかですが、露骨に避けられます。学校を出ようとするちさきを追うまなか。下駄箱で追いつきますが、ちさきは怒ります。

「なんでそういうことするの?」

「で、でも、いまのままだとちーちゃんよくないっていうか……」

「いいとか悪いとか、なんでまなかが決めるの!?」

 「ごめん、行くね」とまなか。光が怪我をしたときの回想。彼女はあのとき咄嗟に光のもとに向かうことはできませんでした。(なんで……)とモノローグ。だから比良平ちさきは向井戸まなかになれないんだよ。(もうやだ……!)

  そのまま木工室には戻らないまなか。紡に声をかけられ、泣き出してしまいます。荷台に乗せ、「巴日」について紡は訊ねます。回想。幼いころ、まなかだけが巴日を見れず、ちさきが怒ったことについて。ふさぎ込みそうになるまなかに紡はいいます。

「最後まで喋るようにしたら?」

(…)

「曖昧にごまかすのやめて、今日、光助けに行ったみたいに、ポーンと喋ればいいのに」

「あれは、あれはなんか、自然と」

「そうか。あれがほんとの向井戸なんだ」

「え?」

「かっこよかったよ、あのときの向井戸」

  そして去っていきます。その姿を目撃する光と要。構図の反復。それ以上の説明はしないのがいさぎよいですね。視聴者の印象に残るカットだったとわかっているのでしょう。それはそれとして、どうしてこんなにも人の心がないのか。

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今回の6話のカット。

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2話のあかりと至のカット。

 海中へ。海流が変わり、巴日が出現します。まなかはちさきを連れ出して学校へ。それを見て追っていく光と要。幼いころのことをまなかは「最後まで言うね」と謝ります。紡の言葉をきちんと受け止めたわけですね。「それでわざわざ呼びに?」「約束したもん。次は絶対見ようって!」情報の出し方が上手い。ひとつ上に積んでくるスタイル。対してちさきはつぶやきます。

「おじょしさまが、完成しなければいいのにな」

「ど、どうして?」

「そしたら、ずっと夏でしょう? ずっとみんなとおじょしさまつくっていられる。ずっと一緒にいて、ずっと遊んだり、学校行ったり、話したりしてられる」

「でも」

「あたしね、変わらなければいいと思ってたし、変わりたくないよ」

 未来のことを考えられる(約束の履行ができる)まなか。反対に現状維持を願っているちさき。飛び出すことができるまなか。飛び出すことができないちさき。「同じものを見て、同じように笑って、同じように、ずっと友達で……」

 というわけで消えていく巴日とともにエンディングです。いつだってわたしたちは永遠の夏を願っていますが、それは叶うことがない。いっときの夢でしかない。それを理解しながら、言葉と映像の二重で語るというのが6話の演出の絶頂です。

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永遠という願いを一時的な(大気?)光学現象に託してしまう最高のカット。

 『凪のあすから』がノベルゲーだったら自分は間違いなくこの6話までを体験版にするでしょうね。誓ってもいい。いや、『凪のあすから』は全26話のTVアニメであってノベルゲーではないんですけれど……。でももしこれがノベルゲーの体験版だったら確実に本編プレイしたくなりませんか(錯乱)。

 次話はいよいよおふねひきに向かって動き出します。もちろんつらいポイントもあるのでお見逃しなく。ほら、だんだんこれがクセになってきたはず……。

 

 

続く。

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