凪のあすからを誤読する7(9話)

 というわけで続きです。今回も例にもれずいたたれなさがやってきます。これぞ『凪のあすから』です。やっていきましょう。

 

第9話 知らないぬくもり

 前回のぬくみ雪が積もった地上。あかりと光は引き続き至の家で暮らしています。「地上に降ったりするんだな」「ぬくみ雪?」「なんだったんだろう、あれ。なんかちげーっつーかさ、気持ちわりいっつーか」と光は違和感を口にします。あかりは前回もらったペンダントをつけています。

 海村でも地上に降ったぬくみ雪が話題になっている様子。青年会の壁にある絵には雪が降り人々が凍える姿が。日照りの絵は1話でアップのカットがありましたが、こちらのアップははじめてですね。演出の意図的な取捨選択でしょう。「言い伝えみてえに、この先は凍えていくばっかなのかよ」とおふねひき縁起と関係があると思われる発言も。

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壁にかけられた一枚。これもおふねひきと縁起と思われる。

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1話のカット。言及はされていないが、映ってはいた。

 そこにやってくる灯とうろこ様。「今日集まってもろうたのはほかでもない。この先訪れる、禍つ事についての話じゃ」ここでオープニングです。

 朝の学校。木工室でどうおじょしさまを直すか思案する光。まなか、ちさき、要もそこへ。海村では大人たちが会合を開くので追い出された様子。

 大人たちではなく、自分たちでおふねひきをやろうと考える光たち。紡の家に持ち込み、作業をはじめます。まなかと光を見ているちさき。

 サヤマートで買い出しをしているまなか。あかりは父を心配していないかとまなかに訊ねます。「ひーくんはちゃんと、お父さんのこと、お父さんのこと、心配してて」「そっか。お互い思い合ってるのに、上手くいかないな」

 紡の家に戻ってきたまなか。おじいさんと話します。紡について。9つのときにこの家にひとりで来たそうです。両親は町に。それを聞いたまなかは、

「ちっちゃいころから、紡くんは紡くんなんだ」

「ん?」

「えっと、紡くんは自分のこととか、周りにあるいろんなこと、見つけるのが上手だって思って。きっとちっちゃいときにも海の好きを見つけて、だからここに来ることを選んだのかなって。自分の大切。大切なものをわかってるから!」

 前回に引き続き、自分の思っていることを自然と言葉にできるようになっています。いっぽうで複雑な事情がありそうな紡の家庭。しかしまなかの純真さゆえか、そういったところには向かわないようです。先に尊敬の念が出ています。

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幼い紡の写真。肩に手をやっているのは両親か。

 胞衣が乾いてしまうちさき。戻ってきた要に声をかけるさゆですが、注目してもらえません。こうして見ると、さゆ→要の感情は割とはっきりと描かれていますが、美海→光はそこまで明確ではない感じがします。

 海。胞衣を濡らすちさきとそれに付き添う紡。「まだ、ウミウシ必要か?」と問いかけます。しかし「ううん」と答えるちさき。

「必要ない。わたしにはもう、必要ないの」

「それって光を諦めるってこと? なんで?」

「なんでって、変わっていかなくちゃ、だから」

「あんたの変わるって、そういうこと?」

「だって、大人になるってそうでしょ? 自分の気持ちばっかじゃいけなくて、ちゃんと前に進まなきゃ駄目で……」

「それでなしにすんだ、自分の。」

「え?」

「いまの自分が許せないからか」

  8話で光に伝えた「光の気持ちはなしにしなくていいと思う」が自分に返ってきています。顔を歪ませるちさき。「紡くんにはなにも、なにもわからない」対して紡は「俺はいまのあんた、嫌いじゃない」。その言葉でちさきの表情に怒りが。

 そこにやってくる要。「気分がよくないから、帰る」とちさき。海へ潜るふたり。「あの人大嫌い」「あいつはちさきに、そんな顔させるんだね」海村に戻ろうとすると雰囲気が違うことに気づきます。

 戻ってきた光。においに気づき、台所にいるまなかのところへ。ほっぺに人差し指。「ひざかっくんのおかえしだよ」微笑ましいですね。

「ひーくん。わたしね、ひーくんがいてくれたから、いまのわたしがいるよ。いつも、いつもありがとう」

「なに真面目くさっ……あ」

「だれかが傍にいてくれると心強いの、ひーくんがいっぱい教えてくれた」

「友達……だかんな」

「だから、だからね。もし家に帰りづらかったら、わたしも一緒についていくよ」

(…)

「お互い思い合えてるの伝えられたら、もっと強くなれる。もっと嬉しくなれるよ」

  手を握られ、頬を赤くする光。思い合うの意味がまなかと光とでずれているような雰囲気がありますね。案の定、光は外へ出て自己嫌悪に。

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手を握られたときの光。ヒロインに負けない表情。

 海村に戻るまなか。両親が待っています。「まなか、もう地上に行っては駄目だ」

 翌日。まなかへの思いに煩悶する光。遅刻してくると、まなか、ちさき、要は登校していません。おふねひきの妨害と思った光は汐鹿生へ。こちらでもぬくみ雪が降っています。だれも見つからず村をさまよう光。

 青年会のおじさん。「さあ、早いとこ、うろこ様に会いに行くぞ」と連れていこうとします。しかしそこにまなかが。ふたりで中学校に行きます。

 説明をするまなか。しかし状況はよくわかりません。「だったらお前なんで、ひとりで外に出て」「だって、だってひーくんに言わなくちゃって……!」それを見つめる光。

(お互いが思い合ってても、まなかのそれと、俺のとは違っていて。けど、やっぱり俺は……俺はまなかのこと……!)

 腕や膝、唇、潤んだ瞳を映すそれぞれのカットがなまめかしいですね。ラブコメっぽい*1

 意を決して抱きしめる光。数秒後、はっとして引きはがすまなか。「嫌っ!」と突き飛ばします。駆けだす光。さもなくば海はいたたまれなさでいっぱいに。

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抱きしめる直前の光。彼も限界だったことが察せられる。合掌。

 校舎を出るとおじさんと灯が。「もういいだろう光。家に戻ってこい」「地上に、なにが起こるってんだよ……!」

 というわけで名残惜しいですがここでエンディングです。今回は光の感情が決壊しました。このアニメ数話に一回は誰かの感情が決壊しますね。これまで大人になろうと、気持ちをなしにしようとしたものの、できなかったのが光というわけです。

 とはいえ今回の話がよい一層エグく思われるのは、こうして光が限界になった遠因として紡がいるからでしょう。彼がまなかにちゃんと言葉にすることを教え(6話)、そうして好意(恋愛感情ではない)を光に伝えたことでいろいろと駄目になってしまったというのが今回の構図です。台所のシーンも、学校のシーンも彼女の行動の根本には紡がいたということになります。やっぱり人の心がない。

 そしてついにはじまってしまった感情のビリヤードも見物です。まなかも光を意識せざるを得ませんし、ちさきもちさきで、まなかや光だけでなく紡からもダメージを受けるようになりました。おかしくなりつつある世界のなかで、どう彼/彼女らの関係は変わっていくのか。見届けていきましょう。

 

 

続く。

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*1:ブコメか?