凪のあすからを誤読する10(12~13話)

 謎の全話レビューブログも2桁の大台に入りました。このペースで続けていければいいですね。5月中の完走ができたらうれしいです。今回もやってやりましょう。12話は久々の岡田麿里脚本回です。13話はちょうど半分です。

 

第12話 優しくなりたい

 美海のアップ。空地で花嫁のブーケ用の花を探す美海とさゆ。「なんでか光には冬眠してほしいって思えなかった」とこぼす美海。さゆも要に対しては似た感情を抱いていたようです。そこにやってくる灯。ベンジョグサをかましてやってオープニングです。

 灯のアップ。「ごめんなさい」とふたり。そして灯にあかりと光の冬眠を願い出る美海。しかし「冬眠してどうなるかは誰にもわからない」と灯。

 中学校は下校の時刻。光曰く、紡はちさきとまなかと一緒とのこと。それが面白くない要。彼も感情を隠さなくなってきています。

 町に出ている3人。古着屋で海の人間の胞衣が反射する不思議な着物を購入。その帰り、「あのさ、ちょっと、付き合ってくれるか」と紡。駅前。女性がいます。「紡くんのお母さんだ。きっと」とまなか。彼女はおじいさんから紡の両親が町で暮らしていることを聞いてましたね(9話)。あまり仲はよくないのかもしれません。

 喫茶トライアングル。ふたたび灯と対面するあかり。前回はほぼ平行線でしたが、今回は海の事情も知ったうえなので互いに歩み寄っています。おふねひきと結婚式について。そういえば結婚式の衣装を子供たちが用意するというのは『花咲くいろは』でもありましたね*1。そして感謝を述べていくあかり。

「母さんが亡くなって、父さんが初めてつくってくれた磯汁の味、あたし、忘れない。大きくてごろごろした人参と大根と、不器用だけどあったかくて優しい、父さんみたいな味。父さんがくれた、あたしたちにくれた愛情を、美海や至さんにも注いでいきたい。最後の最後まで、わがまま娘でごめんなさい。長い間、ありがとうございました」

 岡田脚本にはこういうホームドラマ的な、家庭を舞台にしたCM的な台詞回しへの意識があると思うのですが、その最たる例といった印象です*2。ほら、「大きくてごろごろした~」のくだりとかそういう調味料とか味噌汁とかのCMっぽいと思いませんか。思いませんか。

 造船所。大漁旗を握る光。「すべてが正しい場所へと向かえるように」という言葉に思うところがあるようです。

 電車。眠っているまなか。話すちさきと要。要の母の話に。「悪いな。ふたりのこといいように使った。あんまり、話したくなかったんだ、あの人と」なんらかの原因で関係が悪化し、鴛大師に来たのかもしれません。おそらく幼いころは仲がよかったと思われる品が以前の話でありましたね。紡の手に注目。

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9話に出てきた写真。母親の手を握っているのがわかる。

 「わたし、自分ばっかり可哀想なつもりでいたのかもしれない」とちさき。謝ります。「なんか決めたのか。そういう声してる」と紡。するとちさきは「あんまり察しがいい男の子ってモテないと思うよ」

 造船所にやってきた紡たち。旗を振る光。きらきらしたSEが鳴っています。「ひーくんは、いつから男の人になったんだろう」とまなか。

 海の下へ。冬眠を待たずに眠ってしまった女の子。地上では歌の練習が。「お前らが教えてやれ」とおじさん。

 波路中学校。身長を記録した柱。「やっぱりすごいね、光」とこぼすちさき。「あのね光、わたし光に話したいことがあって、よかったらこのあと……」告白の準備をしようとしますが失敗します。それを見て真顔になる要。

 教室。先生の真似をする光。手をあげる要。「まなかのことどう思ってるんですか」「要! どうしてそんなこと」とちさき。しかし「このままでいいわけないよね。たくさん食べたって、胞衣はどんどん育ってきてる。冬眠したら、みんなが同時に起きられる保証は」「もう会えなくなるかもしれないんだよ」ほかの3人の脳裏に(もう会えない)という言葉がかすめます。

 泣きそうになるまなかを見て「俺は、まなかが好きだ」と告白する光。そこから顔を背ける要。俯くちさき。

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告白時のちさきと要。ふたりの感情が覗いている。

「ひ、ひーくん、やだ。なに冗談」

「冗談じゃねえよ。好きだ。お前が紡のこと好きでも、俺は……」

「わからないよ……」

「まなか?」

「わたし、そういうのわからない!」

  椅子を倒し、駆け出していくまなか。わからないは彼女がこの数話ずっと繰り返してきた言葉でもあります。それを追う光とちさき。「ひどいよ要! あんなのってない!」そういわれた要は机に突っ伏し、「こっちだって、いっぱいいっぱいなんだよ……」と彼も彼なりに限界だったことがわかります。つくづくこのアニメ限界になっている子が多いですね。

 外。まなかの背中を追う光。しかし「追いかけないで!」とちさき。「追いかけないで! わたしは、わたしは光のこと……!」転ぶちさきに光が近寄ります。泣いているちさき。いままで涙といえばまなかの各話ノルマみたいなものでしたが、ここでちさきです。他人の告白が遠因で泣いてしまうあたり相当なものでしょう。彼女も限界。

「光のこと……でも、光はまなかが好きだから、言い出せなかった。振られちゃうから怖いんじゃなくて、わたしが思いを口にすることで、みんなの関係が変わっちゃうのが怖かった。でもね、それも違った。わかったの、わたし。わたしはまなかを一生懸命に好きな光が好きなんだ。だからごめんね。言えただけでいいの、もう満足だから。もうまなかのこと、追いかけて」

 字面だけ拾うとめちゃくちゃ自分勝手な感情を振り回していて趣がありますね。要の返事を期待しない態度と違って、好きに付随する部分をとにかくぶつけているのがそう思える理由でしょうか。なんといいますか、ぶっちゃけ重いですね。いいと思います。もっとやってほしい。

「お前と一緒だよ。ずっと関係が壊れるのが怖かった。言えただけでいいんだ」と光。

「壊れちゃうかな」

「壊れねえよ。なんも変わんね」

「光は優しいね」

「え?」

「ううん、わたし、優しくなりたい。心、綺麗になりたい。ここから見える汐鹿生の景色みたいに」

  一足飛びのモノローグに近い内容を会話でやる手法。これも岡田脚本といった感じがしますね。5話のとき以来だと思います*3

 いっぽう、家に帰ってきたまなか。眠っていた母親。テーブルに花びらがわざわざ散っているのが「死んでるみたい」という要の言葉を連想させます。「もうすぐ冬眠だもんね」に対して震えるまなか。嘘をついて駆けだしていきます。

(怖い……怖い……わからない……)

(どこに行けばいいの……わたし、どこに行けば……)

  旗を振る光のことを思い出しますが、まなかを地上に引き揚げたのは網でした。そして「どうした?」と紡。1話のリフレインで今回はエンディングです。

 みんなが世界の終わりに際して変わりつつあるなか、逆に変化そのものを自覚できないまなかという構図になっています。これは当初、だれよりも最初に(恋愛へと)踏み出すのがまなかだった、という構図から綺麗に逆転していることになります。にもかかわらず全員が限界になっているというどん詰まり感。構成の妙ですね。

 さて、いよいよ次回はおふねひきです。彼/彼女らの感情は報われるのか?

 

 

第13話 届かぬゆびさき

  漁船の上。「悪かったな。梅干し入ってるから」とお茶を渡す紡。受け取るまなか。「なんで、泣いてる?」「太陽だから。紡くんが、太陽だから」そしてまなかは語りはじめます。

「ちっちゃいころ、まだひとりで勝手に地上に上がっちゃだめって言われてて。それでもずっと空を見上げてた。憧れてたの。海の向こうの、空の向こうのずっとずっと遠くの太陽に。まぶしくて。照らされて。熱くなって。どきどきして。でも……」

 その先は語られず、彼女の真意はわからないままオープニングです。

 夜の静けさに「そっか、ざわついてたのは俺か」と気づく光。回想。

(でもきっと、俺だけじゃない。みんな誰かを思って、そんで、その思いを自分でも気づかなかったり、持て余したり。せっかく思ってくれてるのに気づけなかったり、答えられなかったり。揺れて、揉まれて。みんな必死に舵を取って渡ってるんだ。それでも。いや、それだから……)

 いくつかのカットには光の知っていないシーンも入っていますね。光が至ったのは人生観ですが、『凪のあすから』の物語観でもあります。そして駆けだしていきます。

 まなかと会う光。前話での告白を謝ります。「そんだから、もっとちゃんと言っとこうと思ったんだ」

「俺、やっぱりまなかが好きだよ。まなかが好きで、大切だ。それは絶対だ。でも、ちさきも要も、紡も、あかりも美海もさゆも、親父だって。やっぱみんな大切なんだ。お前が俺のこと、好きでも好きじゃなくても、俺にとってお前が大切なのは絶対変わんねえから」

 この言葉はおそらくまなかにとってもわかる言葉になっていますね。3話でウミウシが出てきたとき、「ちーちゃんもひーくんも要も好き。それはわかる。でもつむ……木原君はちょっと違って。よくわからないの」というまなかの台詞がありましたが、そういう態度を尊重したうえの言葉としても読めます。

 目に涙を浮かべるまなか。「あ、そんでお前のほう、さっき言いかけてたこと」と光。すると「おふねひき、終わったら言うね」「ひーくん、旗振ってね!」と返します。「いっぱい振ってね。そしたらきっと、みんな迷わない!」青春っぽさが出てきました。そしてヒロインらしい振る舞いでもあります。

 翌日。おふねひき当日。4人それぞれ家を出ます。ちさきと要は途中で一緒に。「もし結局眠ることになって、別々の時間で目覚めても、僕がちさきを好きなことは変わらないから。それは覚えておいて」と要。

 4人揃ってうろこ様に挨拶。「気のすむようにやってみりゃあいい。儂にはなんも変えられん。じゃがお前たちにはなにか変えられるかもしれんからのう」とうろこ様。灯とも言葉を交わします。

 地上ではおふねひきの準備が進んでいます。立てられた看板を見ると鴛大師のかたちがわかります。点線になっているのが巨大な柱群*4ですね。おふねひきは湾を一周するルートをたどるよう。看板には7月とあるので、今日は7月21日。

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おふねひきの看板。正式名称は「おふね曳き」らしい。

 いっぽう、クラスメイトの狭山と江川によって、制服姿から「海の男」にさせられることになる光。

 造船所。「お母さん」と呼ぶ練習をする美海。そして花嫁衣裳に着替えたあかり。直視できず逃げ出す至。「わたし終わったら、言いたいことあるから、だから」と美海。

 夜。おふねひきがはじまります。海岸線に沿って篝火が焚かれ、船が出航します。そして海からも光が届き、航路に道しるべが。登場人物たちのモノローグがつながり、祈りをかたちづくります。歌。独特のしらべ。

 しかし突然海に竜巻ができ、海が荒れはじめます。「まさか」「海神様が、ほんとうに」「あかりさんを、迎えにきた?」

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荒れだした海。夜によく見えてしまうということもあって異質さがある。

 海に落ちるあかり。助けに行く光とまなか。紡も巨大な波に飲み込まれます。海の暴力性がよく出ていていいシーンですね。紡はずっと憧れていた海の村を見て気を失い、そのすぐあとにちさきが助けにやってきます。要も彼を助けます。

 しかし船に上がろうとした要は紡を抱きしめるちさきを見てはっとします。こういうときですら人の心がない。「見ろ、橋脚が!」の声。やっぱあれ橋の一部だったんですね。倒れる橋脚。それを躱そうとした船に振り落とされ、要は海に。

 あかりを助けようとするまなか。しかし潮の流れは強く、あかりを離しません。「誰かを好きになる気持ちを、無理やり引き離さないで! どうしても連れていくなら、代わりに、わたしを!」そういって飛び出すまなか。あかりに追いついた光はまなかに気づきます。彼女を救おうと手を伸ばしますものの、流れに阻まれます。最後に微笑むまなか。

 そして汐鹿生の村は胞衣のような光に覆われ、海の荒れは収まります。ちさきの絶望的な表情がいいですね。

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端的に最悪を物語っている。『凪のあすから』は表情がいいアニメ。

「見ろ、あれ」「誰か浮かんでくるぞ」「船出せーっ」の声とともに海を流れてゆくあかり。「お母さん!」と美海。このタイミングでその呼び方をするのが『凪のあすから』です。人の心がない。

 そうして海に漂う光の持っていた旗でエンディングです。今回はシーンじたいにエモさがあるのでとりたてて説明することはありませんが、それはそれとして人の心がなかった回ですね。積み重ねてきた感情のビリヤードも、台そのものがひっくり返るという最悪の事態でめちゃくちゃになっています。

 では海に飲み込まれた彼/彼女は無事なのか? 結局おふねひきは意味があったのか? それは次回のお楽しみです。いやあ、14話の入りが最高によいんですよ。ぜひすぐに続きを見てください。

 

 

続く。

saitonaname.hatenablog.com

*1:文脈は違うが。

*2:その割には家庭内の不和や断絶が描かれる作品も多いが。『selector infected WIXOSS』からはじまるシリーズとか。紡もそうした断絶のパターンか。

*3:凪のあすからを誤読する4(5話) - ななめのための。で言及した。

*4:のちの台詞でわかるが橋脚らしい。