凪のあすからを誤読する12(15話)

 前回の衝撃的な語りのマジックからつづいて、今回は展開編ともいえる話です。

引き続き岡田脚本。やってやりましょう。

 

第15話 笑顔の守り人

 ちさき。時計を見ると夜の11時。前話の巴日が8時ごろという言及がありましたから、かなりの時間が経っています。足音。紡です。当然「遅かったね」と迎えるちさき。そして「帰ってきたよ、あいつ」「へ?」「光が帰ってきた」後ずさるちさき。「5年前のまま、変わってなかった」と紡。なにもいえないちさきでオープニングです。開幕から複雑な気配が漂っています。

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光について聞かされた瞬間。どう見ても全面的な喜びの表情ではない。

 至とあかりの家。アパートから引っ越したようです。目覚めた光を医者が診たところでしょうか。教授が質問したがっているようですが、「色々調べるのはもう少し待ってもらえますか」とあかり。

 休んでいる光の部屋をのぞき込む晃と美海。それをのぞき返す光。「化け物見たような顔しやがって……」「ち、ちが」「こっちのほうが驚いてんだよ。なんだよお前それ、14だって。同い年じゃん」顔を赤くする美海。5年前よりだいぶ相手を意識しているようです。あとちゃんと確認したわけではないですが、第2部に入ってから使用されるサントラ楽曲が増えている気がしますね。このシーンも(たぶん)耳慣れない曲*1

 あかりと中学生っぽいやりとりをする光。それを見て(戻ってきた。光が、戻ってきた……!)と美海のモノローグ。

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(戻ってきた)と口元に手をやる美海。この子人工呼吸したこと意識していないか。

 また眠るものの身体を起こす光。障子を開け、窓の外を見ると折れた橋脚。そしてまた障子を閉じます。あの出来事はなかったことになっていません。

 翌朝。光に会いに行かないちさき。「割と冷たいんだな、ちさきさんって」と教授。椀を強く机に置く紡。いっぽう(変わってなかった)と紡の言葉を思い出した直後、ちさきは乗るはずのバスの窓に自分の顔が映ったの見、その場にしゃがみ込みます。

 汐留家の朝食。部屋の隅にはみをりの遺影もありますね。「連絡したけど、今日はちさき忙しいんだって」とあかり。インターフォンを鳴らす音。狭山とさゆ。狭山に誘われ、車に乗せてもらいます。車窓から再び折れた橋脚。雪に覆われた村。声が入ってきません。

 漁協。囲まれる光。ぼろぼろになったおふねひきの旗。そこでまなかを思い出します。狭山に送ってもらう光。美海のモノローグ。(光はなにも変わらなくて、わたしは光と同い年になって。なのに……)

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(なのに……)と美海。この子やっぱり人工呼吸を意識しているじゃないか。

 調査したデータを確認している教授と紡。はさみを取り紡がちさきの部屋に行くと、服を脱いでいるちさきが。謝る紡。その場を去ろうとしますが、「わたし、どうだった……?」

「あのころと変わった……?」

「お前、あのころも言ってたよな。変わるとか変わらないとか。あのころいっつも」

「みんなに、変わってほしくなかった。ううん、ほんとうは、光に変わってほしくなかった。それなのに、わたしが変わっちゃったんだよ……」

  泣き出してしまうちさき。5年分の助走をつけて殴ってくる言葉の暴力性。しかしそこで「そうだな。変わったよ、お前。綺麗になった。ずっと綺麗になった。あのころよりも。それじゃ駄目なのか」と紡。「それだけじゃ、駄目なのか」

 あれだけのいたたまれない関係性を見せてきたうえで、15話のこのタイミングで紡という存在の矢印を明確にする計画性。また同時にひとつ屋根の下ハプニングを料理の仕方次第でシリアスに処理できるという技巧。

 翌朝。散歩に出かける光。それを見て、ちさきが来ないことに不満な美海。漁船で作業をする紡に声をかけます。「どうしてなんですか? 帰ってきたのに、光。どうしてちさきさん、会いに来ないんですか?」と食ってかかる美海。「俺たちよりずっと長い付き合いだからな。あいつらにしかわからないものがあるんだ、きっと」と紡。けれども美海は「また仲間外れ……」

 海を泳いでいる光を見つけた紡。「なにやってんだ」「なにって泳いでんだよ」「なんでちさきに会いに来ないんだ」そういう紡の感覚は美海と正反対ですね。しかし「なんでこっちから行けなきゃいけねえんだよ」と光。それを見て「ほんと変わらないな」とこぼす紡。ここで光が切れます。

「あたり前だっての……。俺はおとといなんだよ! おとといなんだおふねひきは! 俺にとっては時間なんて全然経っちゃいねえんだよ! いまだって、もうじゅうぶん参ってんだよ! あかりにガキいるし、みんなだって……。夏だったのに景色までみーんな変わっちまって! そうだよ、(…)ずっと一緒にいたんだよあいつと! そのちさきが変わっちまったら……。これ以上変わっちまったもんを見たくねえ! 疲れんだよ! 色々考えたくねえ! 知りたくねえんだよ!」

 それを盗み聞く美海。光の訴えていた体調不良は嘘で、精神的に限界だったというわけですね。家に戻り、ダンボールのなかを探します。「光にも、旗が必要なんだ……!」

 陸に上がり、「だっせえ」と涙をこぼす光。おふねひきの歌が村に流れています。その音を追って歩いた先にはちさきが。

「光……あの、わたし……変わっちゃって……ごめん」

「変わるとかなんとかさ、お前、こないだもそんなこと言ったぞ」

「こないだって」

「俺のこないだ!」

「あ」

「目覚めてみてさ。ほんとわかった。変わるのって、怖えよやっぱ。でも、お前全っ然変わんなくて安心した!」

  こうして互いの存在が互いにとって救いになっているのが上手いですね。じっさいはマイナスをゼロにしただけなんですが不思議と説得力がある。アニメでは泣き顔を重要なシーンで使うとそれだけでなんか説得された気になるのでそういうマジックでもあります。とはいえ、ちさきの光に対する感情の積み重ねがあればこそ活きる救いでもある。

 走って帰宅する光。旗を修繕した美海。笑う光。そして美海のモノローグ。(光の笑顔が嬉しくて、わからないことばっかだけど、届かないものばっかだけど、それでもわたしは、この人の笑顔を守りたい)

 家に帰ってきたちさき。しかし戸を開けることができません。「そんなとこにいないで、中に入れよ」と開ける紡。今回冒頭の足音に気づいた描写がそのまま返ってきていますね。「ちさき、光に会ったのか?」と訊ねます。するとちさきは「どうして……」と目をそらします。

 というわけで今回はここでエンディングです。前回は5年の歳月の変化そのものを見せましたが、今回は時間の負の側面、光たち不在で進んでしまった人々の関係について深堀りされました。

 特にちさきと紡の関係は前話の教授の話にもあったようにひとつ屋根の下なわけで、一筋縄ではいかないのが察せられます。エンディング直前の会話なんか、抜き出してみればどろどろした恋愛ドラマに使われるような台詞なわけで、それをうまく関係の微妙さに落とし込むあたりやはり脚本の手腕がうかがえます。

 また14話15話と見てきたところで、物語の語り手に近い立ち位置が光だけでなく美海にも与えられていることに気づかされます。第1部でクローズアップされなかった美海の恋愛がこれから腰を据えて語られていくわけですね。

 それにまだまだ語られていない関係も残っています。引き続き話を追いかけていきましょう。

 

 

 

 続く。

 

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*1:サントラを購入していないので以降サントラの話はしません