瀬戸川 ぼくも『深夜の散歩』から変わったと思いますね。それまでにも、ゲーム小説としての探偵小説の楽しさを語る文学者は何人かいましたけれど、(…)
――「ハヤカワ・ポケット・ミステリは遊びの文化」より
・さて、唐突ですが宣伝タイムです。
・自分が所属しているサークル〈ストレンジ・フィクションズ〉の新刊が出ます。
・今回は《ゲーム小説特集》です。
・わたしは犯人当てバトル小説とコラムを執筆しました。
・現在絶賛予約受付中です。
・上限に達し次第予約は終了します。
・ここで一句「いつまでも あると思うな 同人誌」
↑予約リンク。
というわけで連動企画です。というか入稿のタイミングになってから、コラムであの作品も言及できなかったな、忘れてたな、ということがめちゃくちゃあったので今回補遺としてアンソロジーを編んでみることにしました。ミステリ限定で。
冒頭で瀬戸川猛資が述べているように、古来よりミステリはゲーム小説として親しまれてきました。よって(?)ファミコン時代以降もミステリゲームは幸か不幸かコンスタントにつくられてきましたが、ミステリ小説内にゲームをわざわざ入れて楽しいかについてはあまり明示されていなかったような気がします。いや、されていたのかもしれませんが今回はされていなかったこととして進めます。真実は時の娘! きっとだれかがファクトチェックをしてくれるでしょう。任せます。
収録レギュレーションについて
すでに有名なアンソロジーに入っているものは省くことにする。今回であればゲーム関係っぽいタイトルのテーマアンソロジー、つまり、
あたりに入っているものは収録しないこととする。
もしかしたら別のアンソロジーに入っていてそれに気づけなかったパターンもあるかもしれませんが、そのときはそれで。年間傑作選収録作とかさすがにリストにして憶えてませんし。まあ、やってみなくちゃわからない。わからなかったらやってみようって萌黄えもさんも言うてますからね。やってやりましょう。
『ゲームミステリアンソロジー:総あたり殺人事件』収録作品一覧
・青崎有吾「地雷グリコ」
・榊林銘「たのしい学習麻雀」
・馬場秀和「安楽椅子探偵の名推理」
・久生十蘭「黒い手帳」
・有栖川有栖「絶叫城殺人事件」
・黒谷知也「盤上の往復書簡」
・アズミ「万引き競争」
・杉井光「あの夏の21球」
・阿津川辰海「第13号船室からの脱出」
・初野晴「決闘戯曲」
・詠坂雄二「残響ばよえ~ん」
・都井邦彦「遊びの時間は終わらない」
以上の十三作品を収録する。例によって分厚いです。
電子ゲーム関係のミステリを探そうと思ったのだけれど、意外とすくない気がする。観測圏内が狭いからかもしれない。まあおいしいところは詠坂先生がやっているからかもしれない。そうじゃないかもしれない。
収録しなかったけれども参考作として
・森川智喜「鬼は外 三途川理とあなたと二匹と一羽の冒険」(同人)
・円居挽『語り屋カタリの推理講戯』収録作全般
・川原礫「圏内事件」
・北山猛邦「ピストル・テニス」「コーカスレース」(後者は同人)
・ジェフリー・ディーヴァー「ポーカー・レッスン」
・パーシヴァル・ワイルド『悪党どものお楽しみ』収録作全般
・スティーヴン・ミルハウザー「探偵ゲーム」
・陳浩基「見えないX」
海外作品は小鷹信光の蒐集力に勝てるはずがないので除外。『新・パパイラスの舟』以後の作品で打線を組むならアリかもしれないけれど、今回は時間も手間もかかるので見送りです。森川作品は伝説のゲームブック小説ですが、あれは形式がゲームなのであって、ゲームを題材にしているわけではないので見送り。円居作品はいわゆる〈運営〉がいる系のゲームミステリですが、一冊通してみたほうが面白いと思います。川原作品はソードアートオンラインを知らなくても独立して読めるはず、だけれど幸福な出会い方かわからない。北山「ピストル・テニス」は細部を憶えていないので。「コーカスレース」はよいショートショート・メタフィクションです。にっこり。
以下、収録順に簡単な解説。
青崎有吾「地雷グリコ」
kadobun.jp 2022年6月現在、上記のリンクからすべて読めます。いわゆるじゃんけんで勝った手の文字数だけ進めるアレ「グ・リ・コ」に追加ルール――各プレイヤーは任意の場所に踏むと10歩マイナスのペナルティが発生する地雷を置いてよい――を設定したもの。そう聞くとシンプルかもしれないが、これだけでめちゃくちゃ高度な心理戦が描かれる。まずはここから。
榊林銘「たのしい学習麻雀」
頭を打ったことにより一時的に記憶を失い、にもかかわらず麻雀の卓に座らせられた人の話。設定だけ聞くと『アカギ』の冒頭を思い出しますが、アレよりもずっと笑えてかつ思考の組み立て方がかなり面白いです。なぜならタイトルの通り、主人公は対局中に「学習」していくわけなんですから……そして唖然とするラスト。グッドゲームです。
馬場秀和「安楽椅子探偵の名推理」
www.aa.cyberhome.ne.jp かつて『思いあがりのエピローグ』の巻末に特別収録された、メタミステリの怪作。具体的になにが奇怪なのかは上記リンクから読んでご判断ください。かなり短いです。そもそも、わたしたちはほんとうに推理小説をゲームとして見ていることができていたのでしょうか。もしかすると思考を捉え直したとき、なにか別の顔が見えてくるのではないでしょうか。これは『思いあがりのエピローグ』本編を読んだあとに読むことでなにかが見えてくる気がしている作品なのですが、古本事情が厳しいのでなかなか難しいところですね。
竹本健治「フォア・フォーズの素数」
ゲームミステリアンソロジーを組むにあたって、竹本健治の名前を抜くわけにはいきません。ゲーム小説としては『囲碁殺人事件』の、あの燃え尽きるような終盤はすさまじいとしか言いようがありませんが、「フォア・フォーズ」は最小手数でも読者に目眩をかけることが可能だと示しています。4を4つ使った計算式でいったいどれだけの数字をあらわすことができるのか、という話でしかないのですが、それが少年のフラジャイルな狭い世界とリンクしていくことで、最後には……。
久生十蘭「黒い手帳」
目眩ということであれば”小説の魔術師”久生十蘭も欠かせません。「黒い手帳」は賭博の必勝法をめぐる一悶着が描かれた手記そのものが本文なのですが、読者はその真相を原理的に確定することができないことが作中内の記述そのものによって確定する、という超絶技巧が用いられています。それについて木下古栗は「気のせいじゃね?」とどこかで言っていましたが、こうして作品を紹介しているわたしはもうその魔力に吸い込まれてしまっています。ですからぜひあなたも真相に掛け金をベットしてみてください。ルーレットの目は赤か黒か、いったいどちらになるのでしょう。
有栖川有栖「絶叫城殺人事件」
ゲームは人を殺すか? その問いを物語にしたのが本作です。そして同時にその銃口は推理小説にも向けられていますし、わたしたちにも向けられています。ぜひ昏い気持ちになってください。有栖川作品は『絶叫城』収録作で20の扉が登場する「黒鳥亭殺人事件」も不穏でいいですし、『長い廊下がある家』収録の「ロジカル・デス・ゲーム」でもいいですね。後者はホームズのアレの再演でもあります。
黒谷知也「盤上の往復書簡」note.com
漫画枠。祖父が郵便対局をしていた相手から返事が来なくなって一か月、本人がどうしているの様子を確かめてきてほしいと頼まれる話。だが、調べて見ると相手は20年以上前に死んでいるらしく……。郵便対局ものはいつだってエモいのでいいですね。
アズミ「万引き競争」
ラノベ枠その1。小学生コンゲームミステリ。オムニバス連作になっており、表題作はいつも余っている給食のデザートをガキ大将のものでなくするか、頭脳プレーで解決する話。「万引き競争」はカードやお菓子、文房具などをゲームのように盗んでいる少年グループたちにせまった”正義”の物語。全体的にライトなタッチで進むが、しっかり逆転もつくられています。構成が光っています。電子版のほうが三編多く収録されているので注意。
杉井光「あの夏の21球」
ラノベ枠その2。ゲーセンの立ち退きをかけて野球バトルでヤーさんと勝負だ!回。ゲームの組み立てに関してはミステリ的な伏線などがあり、楽しい一編。『神メモ』短編は麻雀イカサマ回もあるのですが、今回は榊林作品とかぶるので見送り。シリーズ途中作なのでキャラがわからないかもしれませんが、ニート探偵が可愛ければそれでええんです。
阿津川辰海「第13号船室からの脱出」
脱出ゲームミステリ。脱出ゲームってちゃんと小説にできるんだ……という驚き(かなり再現度が高い)と、リアルタイムで進むさらなる事件、というところでカロリー高め。見取り図もあるよ!
初野晴「決闘戯曲」
ミステリ版パワプロ君ポケット(なぜならミニゲームに勝つと仲間が増えるので)ことハルチカシリーズ。それなら「退出ゲーム」じゃないんですか? と思われるかもしれませんが、そっちはみんな好きだと思うのであえて除外。「決闘戯曲」はピストルの決闘で利き腕を損傷して圧倒的に不利だった人間が勝つことができたのはどうしてか? というハウを劇場という形で解決する、いわゆる解決編だけがない脚本を読んで推理する恒例のアレです(「からくりツィスカの余命」とかね)。決闘もゲームのひとつということでどうかここはひとつ。
詠坂雄二「残響ばよえ~ん」
初恋の話をしよう。ってこんなんもうハイスコアガールじゃん!!! と思うくらいにはゲーセンのアレがアレなゲームミステリベストオブベスト。とある定番ネタの昇華の仕方がミステリ読んできた人であればあるほど刺さるという構造になっており、詠坂短編のベストワークといってもいいんじゃないでしょうか。大人になって振りかえる青春ミステリとしても素晴らしい。大好きです。
都井邦彦「遊びの時間は終わらない」
すでに存在しているアンソロジーから採るのはレギュレーション違反かもしれませんが、タイトルがタイトルだし、やっぱ最後にね、こういうものをね、入れて気持ちよくなって締めたいわけですよ。脱力系かつおふざけ銀行強盗小説。とにかく読んでください。宮部&北村が褒めるだけの面白さは保証されています。ぜひに。
編者あとがき
以上十三作。『総あたり殺人事件』でした。比較的手堅いラインナップになってしまったのが惜しいところですが、今後平成~令和世代のナチュラル高解像度作家たちがもっとデジタルゲームらしいミステリを書いてきてくれるでしょう。おそらく。
というわけで以下に出てきてほしいと思うゲームミステリを挙げます。
・ループ系探索ミステリ(Outerwilds的文脈。not『七回死んだ男』)
・データ改ざん系メタミステリ(ディレクトリいじるやつ)
・カードバトルミステリ(プレイヤーに与えられる証拠品やスキルのデッキプールが複数ありそれによって推理の構築方法が変わってくるミステリ)
・十三機兵防衛圏スタイルミステリ
案外思いつかなかった。ゲームあんまりやってないしね。みなさんもよかったら考えてください。わたしは考えましたよ。もちろん、ゲーム小説のほうを。犯人当てバトル小説そのものをね……。
というわけでこのあとは予告編です。どうぞ。
予告編:「瞬きよりも速く」
わずか二十歳という若さにして奇跡を起こし、犯人当て界のタイトル保持者〈魔術師〉となった船戸衿にかけられたのは不正疑惑だった。「私は当士として終わった」と言い残した師匠の自殺。その後の低迷。ストロング系アルコールに溺れる日々。それを救いに来たのは弟子を名乗る中学生の少女・朱鷺川あやり(ベッドにて同衾?)だった!?
「先生、昨日は素敵な夜でしたね」
「は?」
憶えてなかったが始まってしまった女子中学生との師弟関係。ストレートなあやりの情熱に、衿も失いかけていた熱いなにかを取り戻していく――。
前代未聞の犯人当てバトル小説の金字塔、対局開始!!
この小説はどこで読めるのか
・これがどこで買えるのでしょう。
・以下から買えます。
・へんてこゲーム小説たちがいまならここで読めちゃいます。
・ほかにもメタフィクションゲームに関する論考や。
・藤田祥平先生のインタビューも。
・ゲーム小説紹介コラムなどなど。
・自分は架空競技SF、それとチェス&将棋小説に関するコラムを書いたよ。
・というわけで、ここで一句。
・「いつまでも あると思うな 同人誌」
・なにとぞ応援よろしくお願いします。
・みなさんもお気に入りゲーム小説でアンソロジーを編もう。
・二学期に差をつけろ。
小説書いてるあいだずっと卓球娘のサントラ聴いてた。