SF&ミステリ系サークルでの上映会リスト20作を考える

 タイトルの通りです。

上映会の図(とめきち『すわっぷ⇔すわっぷ』より。)

 先日、京大SF研さん主催?で同年代の大学SF研究会サークル複数がスペースで話しているのを聞きました。

 実情としては、作品の数が多かったり、入手難易度が高かったりするために、古典に親しむのがむずかしいという話。いっぽう、アニメなど映像作品は共通言語になりやすいそうで、そういえば学生時代なにを上映したりしていたかな、と思い出すために書くことにしました。最近ちゃんと文章を書けなくなっていたので、リハビリ含め書きました。順不同。あ、ちなみにわたしは元ミステリ研究会の人です。

 また、テーマは絞ったほうがいいかな、と思い、SFとミステリ要素をなんとなくおいしくいただけるものにしています。傑作かどうかはみなさんの目で確かめてください。タイトルは出しますが、プライムビデオ等の配信に対応しているかはちょっとわかりません。DVDがあれば、プロジェクター、スクリーンを貸し出してくれる大学もあるそうですので、会議室をおさえてやるのがオススメです。U-NEXTなどで家族契約をしてみんなで見るのもいいんじゃないでしょうか。

 名作であることがわかりきってる『セブン』とか『ブレードランナー』とか『インターステラー』、『インセプション』、『メッセージ』、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』、『ゼーガペイン』その他富野監督アニメはなんか各自、時機がきたらみればええとおもいます。いつみてもええんや。

 

 

レポゼッション・メン

 陽気な音楽を流しつつ、人工臓器回収作業をしているやべーやつが主人公のSFです。ちょっとしたミステリ要素あり。ディックなどの映像化に比べると予算的な迫力は劣りますが、ブラックユーモアに近い手触りはおすすめ。わたしは先輩らとゲラゲラ笑いながら見ました。原作のエリック・ガルシアは『さらば愛しき鉤爪』など、恐竜ハードボイルドなどが翻訳されている作家です。

 

イヴの時間 オリジナル版』

 配信にあるかわかりませんが、劇場版に比べ、尺の問題がないためミステリ要素がしっかりあるのがオリジナル版。ロボット三原則ものです。とりあえず1話を動画で試しに見て、ぐっと来たなら最後までたのしめるはずです。

 皆さん向けに翻訳すると、ハウスロイドのお姉さんに恋愛感情を抱きつつある少年の青春SFラブコメです。SF的には、「家電としての」ロボットという定義のスマートさであったり、(人間の領域であった)芸術分野に進出する技術が発展しつつある時代の話でもあるため、近年の生成AIとも近い意識で見れるかもしれません。同監督のオススメ短編は「アルモニ」。陰キャ男子がクラスのカースト上位女の子と仲良くなるが、そこにはちょっとしたミステリが……という佳品です。30分くらいですぐ見れるのも◎。

 

『アイ、ロボット』

 アシモフ読むのがめんどい人はまずこれを見るのがいいかもしれません。タイトルは『われはロボット』の訳題ですが、短編集のネタと長編『鋼鉄都市』のネタを織り交ぜつつ、オリジナル脚本にしたものです。

 映像的にはアクション要素がつよめでありながら、犯行可能なのはだれだったのか?というフーダニット的な限定要素も入れているので、じつはけっこう贅沢な作品なのでした。あとサニーかわいいよ。リチャード・マシスン『地球最後の男』が原作の『アイ・アム・レジェンド』はうーん……という出来です。そちらは終末SFが好きなら見てもいいかも。とりあえず『アイ、ロボット』がよければ『われはロボット』に手を伸ばしてもいいんじゃないでしょうか。

 

プレステージ

 原作はクリストファー・プリースト『奇術師』。ミステリファンには同作者『魔法』の解説を法月綸太郎が書いていましたよ、ということで興味を持てるかもしれません。ミステリですよ。SFファンのほうは『逆転世界』や未来の文学の『限りなき夏』の作者というとピンと来るかもしれません。そして本作のテーマはというと、いわゆる「脱出奇術」。原作はけっこう分厚く、読み通すのが難しいのですが、映画版はスマートな仕上がりにしています。あと、ニコラ・テスラのヴィジュアルが怪しすぎるのよい。小川哲「魔術師」と読み比べるのもオツなものです。

 

UN-GO

坂口安吾安吾捕物帖』の舞台を未来の「戦後日本」に翻案したミステリ連作シリーズ。〈敗戦探偵〉結城新十郎は助手である因果の特殊能力により「一度だけ必ず質問に答えさせる」ことができます。これによって犯人を指摘しつつ、戦後という特殊な世界におけるホワイダニットもまかなうことができるという強力なフォーマットを持っています。加えて探偵は決め台詞に「堕落論」などを引用するので、とにかくかっこいい。原作でいかがわしい大人として出てきた勝海舟(枠)がインターネットなどのインフラを統べる富豪として登場するのも皮肉が効いててグッドです。

 

『シャインポスト』

 古い作品ばっかりならべてもよくないので。『ウマ娘』アニメの及川啓監督とラノベ作家の駱駝先生タッグによるハイテンションシュールギャグアイドルアニメです。スペちゃんやゴルシ等の変顔や謎の天丼ギャグが好きならだいたい6割くらいがそれで構成されているのでおすすめです。

 え、なんで、これミステリなんですか?と思うかもしれませんが、これは特殊設定ミステリです。というのも、主人公であるマネージャーは他人の嘘を見抜くことができる能力を持っているためです。そうしてアイドルたちの問題を解決していくのですが、そこにはまだ大きな”見えない嘘”があり……という中盤のどんでん返しが素晴らしい。

 

 

サマータイムレンダ』

 ループ系ホラーSFです。後半はかなり少年バトル漫画の比重が大きくなるのですが、名作ホラーゲーム『SIREN』『SIREN2』の実質的なミックス翻案をおこなっている作品で、特に序盤では、主人公が死んで得た情報をもとにどうやってループ後の初対面になってしまう人間を納得させるのか、といったことへの解決(やりなおしスキップ)などがじつによくできています。

 後半は敵陣営もループするこりになることで情報戦の度合いが増していき、特殊設定バトルものとしての解決をうまくさぐっていく良さや、だれが敵なのか? といったサスペンスなどもうまく、近年のループSFとして過小評価されている作品でもあります。2クールと長いのですが、それに見合った出来ですのでよければ。

 

ゴジラSP』

 ネトフリしか配信がないと思いますが、ぜったいみんなでワイワイみたほうが楽しいやつです。特にゴジラが時間SF的な存在としてあるがゆえにうまれる光線のメカニズムはかっこよすぎる……。見たあとは作中早回しでスキップされるラインの会話画面を一時停止してもっとワイワイしましょう。

 

『スプリット』

スプリット (字幕版)

スプリット (字幕版)

  • ジェームズ・マカヴォイ
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 三部作の二部作目ですが、ここから見ても面白いです(じっさいほぼ単独で見れます)。サイコな誘拐犯もの(かつパラノーマルな要素あり)なのですが、多重人格としての演技がすごすぎる……。そしてまだヒットするぎりぎり前のアニャ・テイラー=ジョイがでてきます。陰キャ主人公映画としてはかなりよい出来ではないでしょうか。興味を持ったら三部作に行けばおっけーです。

 

『遊びの時間は終らない』

 SFではありませんが、日本作のブラックな”シチュエーションコメディ”映画の傑作です。北村薫がこれに惚れ込んでいたのを理由にわたしは見ましたが、現代でもまったく面白くみれます。ぜひ前情報なしで見ていってください。クール。原作小説も読みますが、映像版は肉付けがかなり素晴らしくなっているのでそちらから入るのがおすすめです。

 

人狼-JINROH-』

 あなたがもし今敏『パプリカ』『パーフェクトブルー』『千年女優』などの若干リアルよりの作画とリッチなストーリーテリングを楽しめるのであれば、こちらの作品も必ず楽しむことができます。活動家などがいる日本を舞台に秘密裡に構成された特殊部隊〈人狼〉――汝は人狼なりや?の意味ですね――が織りなす、ハードボイルドかつもの哀しいストーリーが繰り広げられます。赤ずきんや月など、物語を象徴するイメージなども素晴らしい。オールタイムベストアニメのひとつです。ネトフリ版は未見です。

 

イノセンス

 前作にあたるゴーストインザシェルを見てないと話がわかりづらいところはありますが、要するにアンドロイドが連続で暴走する事件を追う刑事ものミステリーです。序盤の寒い部屋の息の演出などはクール(義体にしているバトーは息が白くならず、生身のトグサは白い)ですし、中盤のクソデカオルゴールが出てくるあたりは初見だととても気持ち悪く感じられるのでおすすめです。わたしは大学の講義で先生に見させられました(オタク)。

 

花とアリス殺人事件』

百合。漫画版はほぼSFです(SFか?)

 

 

宇宙人ポール

 SFコンに向かう途中、オタクたちがグレイタイプの宇宙人に会うというメタなSFコメディです。敬虔で禁欲的なキリスト教徒を宇宙人の超絶パワーで改宗させるあたりはいろいろとひどすぎます。下ネタ満載なので注意しましょう。ミステリ要素はないです。

 

雲のむこう、約束の場所

 新海誠監督特集を映画館がやると、まっさきに外されてしまうことで有名(不遇)とされている、セカイ系かつ量子ジュブナイルSF長編(なぜか長編作品として言及されないことも多い)です。センチメンタルな景色、飛行機、廃駅、村上春樹の引用(『ノルウェイの森』)、世界のすべてを引き受けて眠るヒロイン(たぶん『アフターダーク』)などをやりつつ、ヒロインは大下さなえほしおさなえ)を読んでいる。ぼくらの青春がここにあります。あるんですよ(ろくろ)。世界の秘密は初恋の子にあるのだから、つまりはこれもミステリやね(柳田国男)。

 

『ボーダー 二つの世界』

 綾辻行人などが偏愛する映画『僕のエリ 200歳の少女』を生み出したリンドクヴィストが脚本・原作を書いた映画です。税関で検査をしている主人公の迷いを描く、北欧ダークファンタジー。なかなか怖い演出もありますが、結末はとてもせまるものがあります。むしろひとりで見るのがいいんじゃないか、とも思いますが、せっかくなので紹介しました。ストレンジな作品を求めている人にはおすすめです。翻訳もあります。

 

フリクリ

藤近小梅『隣のお姉さんが好き』より。

 実はミステリー的な要素があったりなかったりします。隣のお姉さんを信じろ。

 

アリスと蔵六

 とにかくアイデア満載のおもしろSF作品です。アニメ化されてないあたりはどんどんアニメではできないことに挑戦しているのでこれまたすごい。異能バトルをいかにロジカルかつコミカルに描くかが素晴らしいのと、ジュブナイルとしてのうつくしさがある。配信の場合は期間が切れたり復活したりする作品ですので注意。

 今井哲也先生のデビュー作、「トラベラー」もかなりよい青春時間SFなので是非。

comic-days.com

 

『ケムリクサ』

けものフレンズ』一期のたつき監督らしい終末世界探求型アクションストーリーを呑み込みやすくつくっており、そのうえで世界の成り立ちが語られていくくだりなどはワクワクできます。ガジェットやエフェクトは最小限ですが、ちゃんと伝わりますし、キャラクターのデザインのシンプルさにもロジックがとおるあたりもクレバー。佳品です。ラブコメ要素もあります。

 

凪のあすから

『アリスとテレスのまぼろし工場』に感動できたひとはこちらを見るのをおすすめします。セカイ系SFであり、気候変動SFであり、痛々しい青春ものであり、2クールでしかできない素晴らしい仕掛けがあります。岡田麿里脚本の最高傑作だと思います。

 

 

   *   *   *   *

 

 

 しかし、そんなことよりわたしはみなさんに百合アニメを見てほしいので、以下にあんまり見られていない百合アニメ10選を貼ります。よろしくお願いします。

 

 

あさがおと加瀬さん。

 コンクリートに靴音が反響する夕暮れを完璧に描いたアニメのひとつです。

 

『グランベルム』

 トミノスクールのガンダム的な世界を百合として再解釈した隠れた傑作です。歪んだ人間しか出てこないのも◎。

 

『転生王女と天才令嬢の魔法革命』

 異世界転生百合で少年漫画をやりつつ、(転生を経てもなお)恵まれなかった人間達の話をやるという本気のファンタジーです。近年における百合アニメの意外な収穫です。

 

Lostorage incited WIXOSS

 シリーズの途中作品ですが、ウィクロスという狂ったデスゲームみたいなものがあるということさえあればOKです。悪堕ちヒロインと光のヒロインの百合です。

 

天体のメソッド

 シオドア・スタージョン「孤独の円盤」が好きな人は見たほうがいいです。一話まるまる使って友達と一緒にお墓参りをするという回がほんとうに素晴らしいと思います。

 

フリップフラッパーズ

 環世界SF(たぶん)。ユクスキュルや日高敏隆に捧げられた変身百合アニメです。セーラームーンや神話的な構造に裏打ちされつつドラッギーな映像体験など、これもまた優れたアニメーション作品のひとつですね(ろくろ)。

 

『ひとりぼっちの○○生活』

 ケンカップルが好きなあなたに。

 

『ぬるぺた』

ぬるぺた

ぬるぺた

  • 和氣 あず未
Amazon

 5分間アニメの異形。姉SFです。

 

『やくならマグカップも』

 地方行政発の部活アニメ。原作は10年がかりでストーリーをつくっており、すごいことだと思います。

 

ハイスクールフリート

 架空歴史SFとしては甘いところがあるかもしれませんが、1クラスぶんのキャラクターが大きなストーリーを気にしないレベルで各自その場のノリで動いているものと考えると、こんなすごいことをやっているアニメもないと思います。テレビシリーズ後のOVAがマジで全員てきとうなノリで素晴らしく面白いです。

 

 

 というわけで次は百合まんが100選ブログでお会いしましょう。おやすみなさい。