印象に残った百合漫画2023

 タイトルの通りです。じつは同様の企画記事を2019年にもやっていたのですがその後3年にわたって続けることができませんでした。どうしてでしょうか。答え:だめ人間なので。

 人気作品?と思われるものは省きつつ、新作や今年に入って自分が読むようになった作品(新作ではない)も列挙していきます。よろしくお願いします。

saitonaname.hatenablog.com

 

 はも『マグロちゃんは食べられたい!』

 フォロワーに教えてもらったなかで今年いちばんのインパクトをもった4コマまんが。マグロを釣ったらそれが人間になって「運命」「食べられたい」と言い寄ってくる異形の百合まんがです。あきらかにタブーに接触しているコンセプトからしてクレイジーなのですが、じつは登場人物全員ナチュラルにクレイジーではないのか、ということがわかってくるのがむしろ素晴らしいです。

魚が好きすぎて、学校に七輪を持ち込んでいるコマ。

得能正太郎『IDOL×IDOL STORY!』

 アイカツ!やプリティシリーズなどのオタクである得能せんせいがアイドルもの、しかもオーディション形式のスタイルで連載をやるということで、どこまでその世界のバトルロイヤル的な歪さを昇華できるか不安だったのですが、蓋を開けてみればアツいスポ根友情ストーリーとなっており、しっかり前述のアニメのバイブスを受け継いでおり感動できます。物語は途中から船の上になり、これってヴィーナスアークでは……

どきっとする百合要素も適宜入ります。ありがとう……。

U-temo『私だけの痛みをください』

 短編。だれかにガツンとぶたれたい衝動に侵食された女が女に殴られるのをお願いするまんが。狂っているのに、絶妙なおもしろさと爽やかさのバランス感覚で駆け抜けていく。おすすめ。

 

柴崎しょうじ『ラブライブ! School idol diary セカンドシーズン01 ~秋の学園祭♪~』

 これもフォロワーに教えてもらったもの。アニメ本編しか見ていなかったのだが、その本編を圧倒的に超える濃密さでほのうみが展開される。天才か……。

劇場版か?

南高春告『転生王女と天才令嬢の魔法革命』

 今年みた百合アニメでいちばん感動したので、コミカライズも読んだ。アニメのほうは美麗なキャラクターと渡航っぽい言い回しでドライブ感があったが、こちらは顔の崩し方が絶妙でGood。本格的におもしろくなるのはこれからですね。

 

沼ちよこ『ないしょのおふたりさま』

 グルメ百合漫画があふれている昨今ですが、おべんとうをテーマにしつつおこなわれるやりとりは新鮮で素晴らしい。餌付け百合ですね。黒瀬さんが留年しているのも佳い(しみじみと)。

この構図は発明だと思います。

 

赤樫『たびみまん』

 二巻完結。滋賀を舞台にした小旅行百合です。県民であればかなり見たことある風景が多くて嬉しくなるんじゃないでしょうか。ひさびさに滋賀に行きたくなったな、エッシャー展あるし……。

www.sagawa-artmuseum.or.jp

 

くずしろ『雨夜の月』

 某イベントで河出書房新社の石川さん(『百合小説コレクションwiz』の編集担当)が紹介していたので一気読みしたもの。一巻では手話における「結婚」が男女を前提としたものであることに触れている。健常者では、わざわざ興味を持たなければと気づけないことをふたりの関係の進展とともに誠実に扱っている作品だと思いました。

 

星期一回收日『ネコと海の彼方』

台湾の百合小説『奇譚花物語』のコミカライズを担当した星期一回收日せんせいの作品。小学校でぱっとしない少女が、前に座っていた女の子と漫画を通して交流していた思い出に触れていく。切ないガールミーツガール。

圧倒的な説得力(画力)を持って髪に触れていく出会いのシーン。

 

冬虫カイコ『みなそこにて』

 三巻完結。冬虫カイコ先生がこんなに不穏なホラー百合まんがを描けてしまうなんて初期短編集のときにだれが想像しただろうか。全ページから漂ってくる不穏さ、アンバランスさ、そしてしっとりとした水の感触。母親が妊娠したため、そのあいだおばあちゃんの家がある村で世話になるのだが、そこには人魚の言い伝えがあって……。

このあきらかに日常のどこかがぶっ壊れている感じなど、最高だと思う。

 

宮原郁、Ru『夏とレモンとオーバーレイ』

 第3回の百合文芸小説コンテストの百合姫賞コミカライズ作品。自分の葬式で遺書を読み上げてほしいと売れない声優の主人公は頼まれる。今年自分は『声百合アンソロジー』というのをサークルで企画していたんですが、こういうのをやればよかったな、と読んで歯がみするなどしました。

声百合アンソロジー まだ火のつかぬ言葉のように - ストレンジ・フィクションズ - BOOTH

 

くわばらたもつ『ぜんぶ壊して地獄で愛して』

 ポストきたかわになるか否か――。

 

佐倉おりこ『すいんぐ!!』

 五巻完結。ゴルフ部活もの。とにかく佐倉おりこ先生の描くキャラクターは愛嬌があって健気で応援したくなります。メロンブックス等で百合編が出ているので売り切れる前に買いましょう。つばさ文庫で表紙とコミカライズを担当している『四つ子ぐらし』も素晴らしいワークスです。

 

蓬餅『百合にはさまる男は死ねばいい!?』

 タイトルがもったいないくらいに素晴らしい青春漫画です。吹奏楽を通してふたり一緒に吹くことと男女恋愛のあいだを取り合うのが序盤の展開ですが、次第に惹かれてあっていくふたりの距離が絶妙な温度感で描かれます。とくにそれぞれの内面が語られることで、なぜその距離があるのかがわかる瞬間の説得力。

佳い(しみじみと)。

 

とこみち『見上げるあなたと星空を』

 一巻完結の百合4コマ。たまたまセールで見かけて緑の表紙がいいな、と思い購入。天文部の生徒と先生だけの他愛ない会話のなかにはさまれる詩情がうつくしい。この静けさはたぶん(ほとんど)四コマだからできていると思えるので、そういう意味で、いまとなっては希有なまんがかもしれません。

淡々としつつも差し出される言葉に青春らしさがある。

 

蟹『あの頃の青い星』

 タイトルは知っていたがそういえば読んでいなかった、と今年6巻が出たタイミングで一気読み。え、これ無料で読めてしまっていいんですか。ゼロ年代~10年代の百合漫画の精神を継承しつつ、ゆるやかな日常のなかで交差していく関係がいい。

 

幌田『またぞろ』

 三巻完結。これについてはブログを書いたので。

saitonaname.hatenablog.com

深海紺『恋より青く』

 前作『春とみどり』がめちゃくちゃ好きだったので当然読む。違う学校の、電車のなかだけで会うようになるふたり、という出会いのコンセプトがいい。深海先生らしい淡い感情の積み重ねをどこまでも読みたい(感想)。

 

郷本『破滅の恋人』

 放課後の帰り道、知らない怪しげなお姉さんに出会うまんが。実験百合まんが、といってもいいくらいにコマ割りが変則的で、もはや感触としてはバンドデシネに近い。これが楽園で連載されているのはうれしい、けどあとどれだけ待てば二巻出るんですか????

描き込み、というよりは一枚の絵としての置き方の良さ。

そしてありすの心象風景がそのまま絵になったり、視線の切り替えがさりげない。

 

梶川岳『パパのセクシードール』

 2023年ナンバーワン百合SF。父親のセクサロイドに恋人と母親とその他の愛情すべてをベットしていくさまがすさまじく、こういうのがいいです(率直な感想)

 

カボちゃ『三角形の壊し方』

 付き合っていたふたりの片方が神隠し?にあい、7年後に再会する。片方は当時のままの姿で。しかし彼女たちの関係はもともと三人でできていたものだったーー(ここで内蔵がぐちゃぐちゃに破壊される)。

 

 

紫のあ『この恋を星には願わない』

 もともと富士見L文庫の表紙で認知していた作家さんだったが、とにかくコマ割りが映像的ですばらしい(こいつさっきからすばらしいしか語彙がないな)。女女男の幼馴染み三角関係百合であるが、次第にキャラたちの立場を加速させていきながら、感情の持っている繊細さは決してないがしろにされないどころか、どんどん重くなっていく。

こうして向かい合っていたふたりが、

次第に壁を隔てたようになってしまう。

 

 というわけで22作ほど紹介しました。みなさんもよい百合ライフを。

 

 それと年末のコミケ、青華団さん主催の『あのそよアンソロジー』(バンドリMyGO!!!!!二次創作)に小説で参加する予定です。スペースは「日曜日 西地区 “こ” ブロック 28b」とのことです。一緒に『売春百合アンソロジー』も頒布されるとのこと。

https://www.melonbooks.co.jp/detail/detail.php?product_id=2264286
 メロンブックスでも予約受付がはじまっています。

 

これは自作のイメージ図(本文には載りません)

 なにとぞよろしくお願いします。


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