アニメJust Because!を誤読する1

 TVアニメ『Just Because!』は現在絶賛放送中、脚本・構成をライトノベル作家鴨志田一、キャラクターデザインを比村奇石が担当する作品です。原作者による小説版(メインキャラクターのふたりを視点としたもの)も発売されており「あいつを好きな君の横顔が、たまらなく綺麗だったから――」という帯の惹句のとおり、思春期の片思いのすれ違い、そしてひとつのモラトリアムの終わりをテーマに忍ばせた青春ストーリーです。このブログでは、個人的に、この冬いちばん面白く、そして豊かな描写に満ちているアニメである、という主観のもとに気づいたことを列挙していきたいと思います。

 舞台は現代(作中のポスター表記から推測するにおそらく2015〜2016年)の鎌倉・藤沢近辺で、登場人物の会話のほかに、スマートフォンのアプリであるLINEの未読・既読・既読スルーを使った、すこし前までの思春期特有のいわゆる口には出さない「空気」がツールによって可視化されたコミュニケーションとなる物語展開がなされる点は、いまの中学・高校生にとっては比較的親近感の湧きやすい演出ではないかと思われます。

 最近ではTVアニメ『月がきれい*1でも、メッセージを送ったあとに一瞬で既読(相手に読まれてしまったことがその場でわかってしまうこと)に気づいてキャラクターが煩悶してしまうなど、だいぶ日常的なツールとして浸透してきたことは、多くのひとが感じていることではないでしょうか。

 同じく鎌倉を舞台として、2004年連載開始、2009年にアニメ化した志村貴子原作の『青い花』では、ガラケーを中高生の登場人物が親に買ってもらえるようになって使いはじめる、といった時代でしたし、家の電話を使う描写もありました。そういう意味では世代がひとまわりめぐった、という印象があります(残念ながらBD-BOXは品切れの状態ですが、いつか配信や再販などで見ることできる機会が来ることを祈っています)。

 またLINEというアプリはこれまでのミクシィツイッターといったグループが前提とされるSNSとはべつに、個別でメッセージを送ることができる(たとえばMMOでいう個別チャットのようなものです)ことによる情報の格差や秘密の共有、といったことも物語の動力源になりますし、逆にそれを利用することによって、いじめといったテーマを描くこともできます(対象者だけを省いたグループ作成による陰口や排斥など)。その点では近未来(2038年)を舞台にしつつツイッターを下敷きにしていた今井哲也『ぼくらのよあけ』がある種、すこし前の同時代を反映していた作品だったと感じます。

 とはいっても『Just Because!』ではそういった描写は最低限ですし(なにしろストーリー開始が受験直前の12月なので、そういったことにかまけている余裕はありません)、全力でこじらせている登場人物たちばっかりではありますが、黒い感情はすくないので、そういったものを嫌煙する方々にも楽しめる、爽やかなアニメだと思います。

 前口上が長くなりましたが、各話を追っていくかたちで、どのような物語が展開されていくのか、詳しく読み解いていきたいと思います。また、小説版はアニメとは違った描写があるため、それについては触れていかない本心できます。聖地巡礼といったことについても、アニメキャストの方々が特番というかたちでお送りしていましたので、あくまで最低限のかたちで見ていきたいと思います。


■第一話 On your marks!

タブタイトルを訳すなら「位置について!(よーい、ドン!の前)」でしょうか。登場人物たちの日常をそれぞれ垣間見せることによって、これからはじまっていく物語を予感させていくようです。その点では、一話はあくまで物語の動き出す前段階のところ、といえそうです。冒頭からバトンタッチのようにキャラクターたちを映すカットが流れていきます。

 はじめに映るのは、自習室(机の横にある貼り紙で説明されています)で消しゴムを持っている夏目美緒。この消しゴムは、今後のキーアイテムになっていきますので注視していきたいと思います。

「今日で二学期も終わりなわけだが――」というふうに、物語は12月末からはじまります。バスに乗っている学ランの少年、泉瑛太が学校にやってくる姿が映されます。教室の生徒たちはブレザーですから、彼が異邦人であることがこのあたりからゆっくりと描かれていきます。


 放課後、教室を出ようとしていますが、男子生徒に言い出せず、反対の出入り口に向かう女子生徒。そこに声をはさみ、道を開けるよう指摘するのはエナメルバッグを肩から斜めに提げた女子。前者は森川葉月。後者は乾依子。どうやら森川は他人に対して強く出ることができない子で、反対に乾は男子にもビシッといえるタイプのようです。ふたりの対比。

 廊下を歩いていくふたり。部活についての会話。頼子のジェスチャーとともに森川が吹奏楽部であることが推測できます。階段に差しかかり、ここで遠目からのカットで乾がスカートの下にジャージをはいている姿が映り、「依子は大学でも陸上を続けるんだよね」と進路の話。「依子は」という台詞から、どうやら森川は違った選択をしようとしている旨が間接的に想定できそうです。

「うちのクラスにいるじゃん……なんつったっけ」「森川な」「なんつーか地味で存在感ないっつーか。ステルスなんだから邪魔なら邪魔って言ってくれないとさ」といった会話ののち、文句をたれる男子生徒を何気なく蹴るのは、相馬陽斗。この流れで、相馬が「地味」や「ステルス」といった目立たないタイプの女子である森川の名前をしっかり憶えていることが示されます。また蹴る、ということから、その発言にちょっとした反感をつい抱いたこともうっすらと説明されているようです。

 グラウンドでバッティングを始める相馬たち。そんな彼らを廊下の窓辺から夏目がのぞいています。「わけわかんないことするよね、男子」とつぶやいています。そして冒頭の消しゴム。机の上でもない場所ですから、彼女はこの消しゴムを日常的に持ち歩いているということが暗に示されています(前後のカットには筆箱が見あたりません)。

 いっぽう、応接室で転入の説明を父親とともに受ける泉。そこに「廃部っ!?」と隣の部屋から大きな声が入ってきます。その後、部屋を出ると「じゃあ賞獲るから!」とドアを勢いよく開けてまくしたてるのは写真部の小宮恵那。これまでの日常的な雰囲気とは一変して、アクシデントが転がってきたことが示されます。


 大学受験案内などのパンフレットから離れた位置に立っている夏目。そこに友人からのラインの通知。ため息。その後、自販機の前に移動したところで小宮に写真を取られます。「会長〜、あ、いつものいちごミルク」「わたし、もう生徒会長じゃないよ」。写真部の廃部・合併の話題が出ると同時に、さきほどのアクシデント(写真部の廃部)に対する解決方法が改めて整理されます。


 カットが切り替わり、さきほどのパンフレットの場所に泉がやってきます。が、すれ違うように夏目の不在が鞄だけで示されています。最初からこのふたりはすれ違っていますね。

 数年ぶりの再会を果たす、泉と相馬。別れる前のふたりの思い出。お互い野球部だったことが会話と部室からわかります。相馬はブリーフ。「毎日連絡すんべ」「ああ、約束すんべ」神奈川弁(中居正広などがよく使っている「だべ」)。
 ちょっと泥くさい、どこかあか抜けないふたりです。こののち地元へと帰ってきた泉が「〜ベ」を使うことはありません。離れていた時間や距離が彼をそのようにさせたのでしょう。富士山をながめつつふたりが約束した場所では、双方向に車やモノレール、人々が行き交っていきます。連絡はあったものの、ゆっくりとふたりのあいだの距離が離れていってしまったことが暗示されています。




 マウンドに立つ泉とバットを構える相馬。そのふたりを見た吹奏楽部が思いつきで、高校野球の応援楽曲をあわせて鳴らします。曲名は「in unison」文字通り、それぞれの楽器の音があわさっていくだけでなく、登場人物の視線がグランドのふたりへと集まるように注がれていきます。




 ホームランを打ったのち、笑いあう泉と相馬。ため息をついたのち、「ほんと、むかつく」と微笑む夏目。カメラで写真を撮り微笑む小宮。微笑む森川。ばらばらであった彼/彼女たちはそれぞれ惹かれ合うようにして、物語ははじまっていきます。

 そして「願掛けみたいなもん」といってバットを振っていた相馬は、好きなひとに告白することを泉に伝えます。応援のLINEスタンプを送る泉ですが、相馬の返事に泉は目を見開きます。画面いっぱいに「夏目いんぞ」。彼にとって大きな存在だったことが示され、第一話の終わりです。

 長くなりましたが、このようなかたちで、毎回ジャストビコーズ!の画面上に映っている情報と言葉から、どのような演出意図やキャラクターの背景がみえてくるのか、自分なりの誤読を書いていきたいと思います。個人的な備忘録のようなものでもありますので、続いたらいいと思っています。


アニメJust Because!を誤読する2 - ななめのための。

*1:

「月がきれい」Blu-ray Disc BOX(初回生産限定版)

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