凪のあすからを誤読する2(2~3話)

 というわけで続きです。やっていきましょう。

 

 

第2話 ひやっこい薄膜

 朝。呪いが解けたまなか。魚は「またね」と外へ去っていく。そしてうろこ様のもとに行き、「呪い、ますか?」と問いかけます。彼女の膝にはまだタオルが。

 OP開けて教室。紡は呪いが解けたことを知らないので「彼は?」とまなかに訊ねます。その返しが「元気ダヨ(嘘声)」。ここではあからさまには明示されていませんが、まなかにとっては、呪いが紡との唯一の接点になっています。もうほんらいはタオルを巻く必要もないわけです。けれども外してその接点をなくしたくはない、といったところでしょうか。いじらしいですね。

 廊下でようやく「紡くんだぁ~~!?」とまなかの呼び方に気づく光。そして去ったあと、泣き出すまなか。それをなぐさめるちさき。

「ちいちゃんはどうしてわかるの? ひーくんの気持ちも、わたしの気持ちも」

「そんなの、ちっちゃいころからずっと見てきたもん。まなかのことも、光の、ことも」

 この台詞の通り、ちさきは常に傍観者だったキャラクターであることがわかります。紡という存在が現れなくとも、ちさき→光→まなか、という感情の矢印は以前からあったわけです。1話の女子更衣室でまなかに語りかけるシーンもこういう彼女だから成立したわけで*1。また、光のことも、と言うときは若干言いよどんでいます。矢印の最後尾にいたからこそ思うところがあるのでしょう。このちさきの感情や傍観者という属性はのちの話で深く掘り下げられていきます。

 そして校舎裏。サヤマートでいたずらをしていた小学生ふたり。「ざまーみたらし団子!」。独特の表現。現状ではよくわからないキャラですが、今後絡みが増えていきます。

「このなかでおじょしさまつくってみたい人いる?」と先生。「はい、紡ね」それを見て手を挙げるまなか。ほかの3人も。山のなかへ材料を取りに。汐鹿生(海村)に興味を抱いている紡。「俺は海の村、いいと思ってる」。まなかの視線の先に紡がいることに気づく光。その光の視線に気づくちさき。「見てきたもん」は現在進行形であることがわかります。

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ちさきの傍観者である側面が重ねて描写される。

 夕方。下校。姉あかりの乗る車が。キス。相手は地上の男。「村から出ていくつもりなのかな」と要。うまくいかなくて出戻りになるかならないか、でなく「地上の男と結ばれたら、村から追放されちゃうんだ」。海から出ていった人々が戻ってこないことに気づく4人。そして憤るまなか。

「意地悪だ! 大切な人と家族になりたいって、全然悪いことじゃないのに、素敵なことなのに、それなのに海から追い出しちゃうなんて……」

「それって、自分も地上の男とくっつきたいって考えてるのか」

  そうやって直情的に聞いてしまうあたり中学生ですね。 

「や、やだ。えっちなこと言うひーくんは嫌いだよ!」

「俺だってえっちなこと言うまなかは嫌いだっての」

「わたし、言ってないよ」

「なんか最近、気持ち悪りぃんだよ、お前」

  泣き出し、海に飛び込んでいくまなか。最悪ですね。さらに理解を示そうとしたちさきに「お前に俺のなにがわかるんだよ」とキレ散らかします。最悪その2。ちさきも泣いて海に飛び込みます。擁護のしようがない。要も「いまのは駄目だね」。

「なんだよあいつら、わかるわかるって連発しやがって……」

(俺だって、俺の気持ち、よくわからねえってのに)

  まなかをめちゃくちゃ意識してはいるものの、恋愛としてはまだちゃんと向き合えていないということでしょうか。それが八つ当たりになってしまうあたりのアンバンラスさが中学生ならではで、こういうのがあとでさらに手痛いしっぺ返しになるんですよね……。正直こういう部分が見ている人にとってのストレス要因にもなるのが難しいところで、しかしこの中学生の恋愛という未成熟なところが『凪のあすから』においては重要な部分でもあります。

 海の下。波路中学校。光たちがもともと通っていた場所ですね。要とちさき。

「わたしは、地上の人を嫌いとかってないけど、やっぱり、ずっと海にいたい。まなかと要と、光と一緒に」

「この場所にいたいのは、そのほうが楽だからだよね」

「え?」

「別の場所にすこしでも憧れを持ってしまえば、つらくなるから。意外だったな、まなかがこの場所からの一歩を最初に踏み出すなんてね」

  このふたりの会話はのちのち効いてくる部分でもあります。いっぽう自室でクラス名簿を確認し、紡の苗字を呼ぶ練習をするまなか。「木原くん、木原くん、木原くん。これでもうひーくんに怒られないよね。木原くん……」*2

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わざわざ名前を指でなぞるカットを入れる凶悪さ。人の心がない。

 いっぽうそんなことも知らない光はあかりに地上の男について訊ねることができません。夜。戸の隙間からのぞく明かりを見て姉について考えるカット。なんでもないようですが、この構図はのちの話で反復されることになるシーンですね。自然とまなかのことが浮かぶ光。意識のあらわれです。

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夜の寝室。あかりと紐づけされるカット。

 翌日。木工室でおじょしさまをつくる5人。「今日も元気?」と魚について訊ねる紡。「今日は寝てるみたい」と嘘をつくまなか。当然膝にはタオル。なにも喋らないものの、光の作業音がイライラをみせているのがいいですね。そしてちさきのアップ。ここでも彼女は傍観者です。

 次のシーン。焼却炉ではちさきが(まなか、やっぱり木原くんのこと……)と考えます。同時に独占欲が顔をのぞかせています。そこにやってくる紡。自発的に4人のための水場をつくろうとしていることが明かされます。紡はほんとうにいいやつなんですよね。しかしちさきにとっては不安の種でもあります。

「まなかに、これ以上優しくしないであげて……。まなかには、光がいるんです……」

 光の幸福を願うちさき。彼女特有の面倒くささはこのあとも引き続き描写されていきますのでお楽しみに。

 うろこ様に「呪ってください」と土下座するまなか。嘘をほんとうにしたい。「みなに守られないところに行こうとしている」。要が波路中学校で言ったことと呼応しています。しかし本人はそれをまだ理解できない。

 すると外で声が。姉のあかりが大人たちに連れられています。「そろそろ光らも知っておくべきじゃねえか。村の掟に背いたらどうなるかってことをな」今回の最つらポイント、村の掟です。岡田脚本が得意とするところの閉塞的な田舎描写ですね。当然のように出てくる「面子が立たねえべ」も地域社会って感じでキツい。

 そうしてお父さんにうろこ様のもとへと連行されるお姉ちゃんでエンディングです。次回もどんなつらいことがあるのか楽しみですね。

 

第3話 海のいいつたえ

 シーンは前回の直後から。社殿でうろこ様と話すあかり。盗み聞きしようとする光とまなか。合流する要とちさき。気づくあかり。もう表情が姉ですね。気丈な姉でしかない。不安な光とまなかの表情を映してオープニングです。

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絶妙な微笑み。今回は姉のふるまいがテーマとなる。

 OP開けて、4人は波路中学校の教室へ。作戦会議。「男の趣味悪い」ちさき。会議は男だけに。女子は音楽室に。

 腹の赤いウミウシを見つけるまなか。

「お腹の赤いウミウシに誰にも言えない気持ちを伝えると、教えてくれるんだよね。これから先のこと」

「うん。口から黒い石を吐いたらその気持ちは間違っていて、綺麗な石を吐いたら」

「その気持ちは宝石みたいに、永遠に輝き続ける」

   これからの展開を暗示するかのような話ですね。案の定、ちさきはまなかに「紡くんのこと好きなの?」と問いかけます。「よくわからない……」とまなか。「ちーちゃんもひーくんも要も好き。それはわかる。でもつむ……木原君はちょっと違って。よくわからないの」それを聞いてしまう光。つらいポイントです*3

 帰宅すると、父もあかりもいつも通りに。けれども夜中、あかりの泣き声が寝室に聞こえてきます。前話に似た構図がありましたが、差異が見られます。

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前話の構図の反復だが、斜めに傾いでいる。

 画面が斜めになっているのは均衡≒平和が崩れたことの表れでしょうか。そして回想シーンに。あかりは母親が亡くなったときも人前では泣かず、夜になってから泣いていたことが語られます。さらには地上に出て専門学校で漫画家を目指すことを諦めます。「うちにはあたしらふたりが進学するお金がないんだよ」どうしようもなくつらいポイントですね。このアニメは平気でつらい話を重ねてくる。

(「姉ちゃん」が「あかり」になったって変わらない。呼び名なんて、どうだって関係なかったんだ。あいつがどんどん大人になっていくのは、俺のせいだって気づいた。相手の野郎にはムカついている。けど、よくわかんねえけど、ほんのすこし、ほっとしたんだ。あかりが、やっと自分のこと考えるようになったんだって……)

 しかし姉エピソードとしては説得力が高いのも事実です。姉は弟のために姉に、大人になっていった。その姉のために弟は動くわけです。

 翌日。鴛大師にある漁協へ。車を運転する男を見つけ、自転車で追う光。着いた先は木原家。男に掴みかかろうとしましたがおじいさんに網をかけられます。その後再び掴みかかりますが、おじいさんは陸と海の人間が交わることは並大抵のことではないとを伝えます。しかしライバル関係や漁場の問題ではなく「子作りはしとるのか」。色ボケかと思いきや「それが問題なんだよ」と紡。

 地上の人間と海の人間の違いについて。海の人間が水中で呼吸できるのは身体を包む胞衣があるから。しかし海の人間と地上の人間とのあいだに生まれた子は胞衣を持たない。村の掟の理由がここにあります。岡田脚本に挿入されがちな性の話が設定にちゃんと絡んでくるという珍しい例ですね。

「あかりと結婚するつもりなのか」の問いに答えられない男。光は当然キレて殴りかかりますが、途中でおじいさんに投げ飛ばされます。気絶。

 目覚めると夕方。胞衣について話し、「俺も欲しい」という紡。「憧れてるからだよ」。外に出ておじいさんと話す。すると彼の肌にも胞衣が。「もしかしてじいさん、汐鹿生の……」よく見てみれば、おじいさんの瞳の色は海村の人々と同様に青系統ですね。だいぶグレーががっていますが。

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「こいつは嵐だ」のカット。帽子のつばの影になってわかりにくくなっている。

 家に帰るとまたけろりとしたあかり。「禁断の愛でもいっか」と抱きつく。抱きつくのはお姉ちゃんの癖でしょうか。切ないですね。わたしもお姉ちゃんに抱きつかれたい人生だった。

 翌日。晴れて全員が「紡」呼びに。これまでの行動の省みる光。姉は弟を成長させるわけですね。姉かくあるべし。

 そして完成しつつあるおじょしさま。焼却炉の近くには水場が。「魚も、息したいかと思って」と紡。はっとするまなか。この話ではあまり膝に注目させるカットがありませんでしたが、まなかはずっとタオルを巻きつけていたのが確認できます。それから「嘘ついてました」と謝ります。呪いの魚の真似。紡がはじめて笑います。つられてまなかも笑顔に。しかし面白くはない光は紡を水に落とします。複雑な感情はあるでしょうが、ひとりの友達としても見ようとしている場面ですね。

 下校中、男の乗った車を見つけた光。ついていくと目的地はサヤマート。姉の職場です。隠れて見ていると後ろから小学生に襲われます。そしてもうひとりの小学生からは「協力して」「は?」「パパと女が別れるの、協力して」

 というわけであかりの相手は一児の親だったことが判明して今回もエンディングです。情報の出し方が巧みですね。男が結婚に対して即座に答えられなかった理由がここで回収されているわけです。小学生ふたり組のキャラにしても、これまでうるさいほうが目立っていたわけですが、親族という情報により一気に印象が塗り替わっています。

 さて、今回のサブタイトルであるところの「海のいいつたえ」は地上の人間と海の人間の交わりであるところの古い言い伝えでしょうが、大きな意味ではウミウミのエピソードも含まれそうですね。それにまだまなかはウミウシに思いを伝えていません。

 とはいえ『凪のあすから』エピソード姉編はまだまだ続きます。未成熟な自分たちの恋愛ではなく、他者を介して世界への理解を増やしていくのが変則的なジュブナイルという感じですが、果たしてどうなるのか。これでまだ3話。先は長い。

 

 

 次回に続く。

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*1:「光はまなかのこと守らなきゃって思ってるんだよ」

*2:怒られるんだよなあ……。

*3:自分だったら泣いていたかもしれない。