【2021/1/14追記】あの森へ向かうために 彼岸泥棒a.k.a.見富拓哉(不)完全レヴュー

【追記】(2021/1/14)

 昨年末にこの記事を公開した際、レヴューのできなかった作品について「情報求ム」となかば祈るような思いで書き残したのですが、このたび、とある心優しい方の目に留まりまして(!)、未確認作品について多くの情報(書誌情報のなかった書籍特典やフリーペーパーまで!)を提供していただきました。ほんとうにありがとうございます。ありがとう、インターネット。ずっとずっと大好きだよ。

 以上の経緯から、【追記】というかたちで一部作品の情報を追加しております。ただし上記の経緯があったことをふまえ、記事タイトル「(不)完全レヴュー」の(不)の字についてはそのままとさせていただきます。ご了承ください。

 

 彼岸泥棒a.k.a.見富拓哉とは

 漫画家・イラストレーター。2000年代後半からサークル「彼岸泥棒」名義で自主制作漫画誌展示即売会コミティアを中心に活動。2009年末に月刊IKKI新人賞「イキマン」で受賞し、デビュー。以降、商業誌での活動名義を「見富拓哉」とする。2014年に作家業を廃業し、サークル「新しい水着」および「けむりとほこり」名義での同人活動に注力する。

 ネットなどの情報を整理すると、活動時期は以下のように分かれる。

・第1期:彼岸泥棒時代(2007~2011)

・第2期:見富拓哉時代(2009~2014)

・第3期:新しい水着/けむりとほこり時代(2012~)

 しかし後述するように、長らく商業活動を休止していた「見富拓哉」は2019年にカムバックすることになる。本稿ではそれまでの軌跡を2020年現在までに発表された主な同人・商業作品を可能な範囲でレヴューし、追っていくことを目的とする。そういうわけで同人作品は抜けがあります(会場限定のコピー誌、他者主宰同人誌のゲスト寄稿など)し、商業作品にも抜けがあります(保存していたものが見つからなかったので)。

 文章を読むのがタルい、という人は見富拓哉本人によるイラストアーカイヴ(a new swimsuit: Archive)をみればだいたいよいです。はい、この話題終わり。

 近年の動向についてはpixivFANBOX(けむほこ/見富拓哉|pixivFANBOX)に詳しい。要支援(月額216円~)。

 

『彼岸泥棒集成Ⅰ 樫野先生言行録』(2010年2月)

shop.comiczin.jp

 2010年2月発行。現在は購入不可。2008年ウェブサイト「彼岸泥棒」にて発表されていたエッセイ?漫画に描きおろしを加えたもの。ペン入れがなされた状態ではなく、鉛筆(あるいは鉛筆タッチのペン?)で表現されているのが特徴。最初は必ず白抜きの小さなコマではじまり、四角い吹き出し「おはり」で終わることが多い。最後の吹き出しの中身はオチや解説として使われることもある。

 主に描かれるのは先端部の球が浮いている王冠を頭につけた樫野という女の子で、基本的には作者の分身の役割を果たしている。とはいえTNSK氏の高木さんと対等に会話している漫画も存在するため(高木さんトリビュートに寄稿した漫画 - a new swimsuit)、一時期流行っていたオリジナルキャラクター「うちの子/看板娘」的な文脈・立ち位置も含まれているかもしれない。高木さんについては本稿の目的ではないので省く。適当に検索してみなさんの目で存在を確かめておいてください。

 

「樫野先生前置く」(2010年2月)

 書き下ろしの前書き漫画。タイトル通り「樫野先生言行録」の導入となっている。冒頭からコマをぶち抜いた樫野の等身大スクール水着ポップが登場し、それがしゃべっているかのようなコマ割りで読者をミスリードするつくりになっているあたり、漫画の見せ方に自覚的な作者の姿勢がうかがえる。

 しかしその等身大ポップもページをめくると突如登場するジェットモグラによって破壊されるという予測不可能ぶりで、おそらくこの突飛さとシュールさが混在しているのが見富拓哉イズムと呼べるものではないか。最終的に樫野は漫画を飛び出して自身を描いている作者に飛び蹴りを食らわせるため、彼女がメタ的な存在であることがわかる構成になっている。

 

「樫野先生言行録」(2008年7月~11月)

 ウェブサイト「彼岸泥棒」に掲載されたもの。1ページ完結の漫画が14作。作者の生活風景や出来事を日常エッセイふう漫画にした回と、樫野が作者の手によって下着姿にされたり、描写された消失点に吸い込まれたりするメタ漫画回の2パターンが存在し、そのどちらになるかは回によって変わる。

 日常回ではこれといって大きなイベントは描かれないが*1、樫野の表情がキング・クリムゾンのあのジャケットになったり、なぜか古い漫画に出てくるような縦ストライプのトランクスを穿いていたりと毎回シュールなツッコミどころが用意されている。こうしたツッコミどころはのちに樫野自身から作者に抗議が入るメタ回で回収されたりする。

 

「樫野先生言行余禄」(2010年2月)

 ウェブに掲載した「言行録」の1ページ完結のスタイルを引き継ぎ、身辺雑記的な漫画のままであるが、2009年12月に商業デビューを経由したことによって不安が増幅されている。「コミティア→イッキ新人賞→クイック・ジャパン連載(←今ここ)」の流れにクスクス…という声(幻聴)を聞き取った樫野が包丁を振りかざし「今こっち見て『サブカル臭い(笑)』って言ったやつ出てこい!!」と叫んだりと、名実ともにサブカル漫画家になったことに対するアンビヴァレンスな感情が描かれる。

  デビューと短期連載を勝ち取ったとはいえ、作者の抱いていた不安はかなり強烈なものだったらしく、樫野は以下のように発言している。

「皆さーん 知ってますかー。漫画家から漫画をとると 何故か家じゃなくて廃屋になるんですよー。不思議ですねー。」

 のちに作家業を廃業し、商業漫画を発表しなくなった事実と重ね合わせるとどこか予言的な漫画でもあり、言い切れぬほどに切ない味わいを残している。

 

『彼岸泥棒集成Ⅱ 「エラッタ」』(2011年2月)

shop.comiczin.jp

 2011年2月発行。現在購入不可。主にコミティアで発表したストーリー漫画を集め、発表順を遡るかたちで収録。ライナーノーツによれば、『集成Ⅰ』と合わせることで、原稿が発見できずに収録を見送った最初のコミティア発表作品「孤独の発明」を除いた彼岸泥棒作品のほぼすべてを俯瞰することができる。

 

「モラトリアムファンタジーⅣ」(2011年1月)

 コミティアではなく、卒業研究の一環として発表された作品。

 作者曰く、「指導教員を含む教授陣の失笑を買った問題の一作」。『集成Ⅰ』に引き続き作者の分身である樫野が登場し、卒業というモラトリアム剥奪に対する不安がコメディテイストでノンストップに語られる。「限りなく学生に近い無職が 唯の無職になるんですよ!!」という樫野の発言には「漫画家から漫画をとったら廃屋になる」と同じ不安が凝縮されている。

 脈略のあるようなないようなシュールなギャグをイラストで提供するという作者お得意の演出(筒の中から筒井康隆限りなく透明に近いブルーレットおくだけ、あずにゃん、時すでにお寿司)はすでに自家薬籠中のものとなっていて、そうした技法はのちの作品でも見出すことができる。

 また見富拓哉を語るうえでは外せないポップな絵柄はこの頃から方向性が明確になって現れている。それまでに発表されていた漫画では違うタッチで描画されているため、商業での経験が作者の作風を変化させたことは想像に難くないだろう。

 

「理科室の雪」(2009年8月)

 月刊IKKI新人賞「イキマン」受賞作品。月刊IKKI2010年2月号に掲載。商業デビュー作。初出はCOMITIA89。

 雪の結晶が見たい中谷と寺田は、真夜中の学校に忍び込み、ラジオの気象放送を聞きながら雪が降るのを待っている。宿直の教師の目をかいくぐり、理科室の備品を使ってふざけ合ったりする、一度だけの短い冒険を描く。

 樫野シリーズを追ってきた側からすると意外だが、ギャグはまったくない。冬の夜のしっとりとした雰囲気が全体を覆い、細部まで描かれた理科室の備品それ自体が放つノスタルジーとストーリー・舞台設定の青春演劇っぽさが際立っている。工業製品を細部までイラストで再現するというスタイルは見富拓哉ワークスでは一貫して重視されている部分であり、それが物語のテイストと一致していることが今作の魅力になっている。作劇や設定の演劇っぽさはのちの作品になるほどに見られなくなっていくが、彼岸泥棒時代の作品はむしろこの系統のほうが多い。

 なお、作中に出てくる新聞の広告欄には「双子座は最下位」や「けむりとほこり」といったのちの活動で登場する文字列が見出せる。

 

 「よそ見ばかりしていると幽霊と目が合う」(2009年5月)

 COMITIA88にて発表。

 女子高生のマミヤユウコはある日、学校の下駄箱に入っている手紙を受け取る。封筒のなかには下着姿の自分が映っている。犯人は写真部部長のヤスハラかと思いきや、そのヤスハラから写真がカメラ目線になっていることを指摘される。ユウコに撮られた覚えはない。「幽霊と目でも合ったのかな……」ユウコは父の遺品のしゃべる露出計とともに犯人探しに乗り出す。

 一言でいえば、学園エロコメディ。鉄道模型やカメラといった物品の細部を描くスタイルは「理科室の雪」と一貫しているが、こちらは終始高いテンションで物語が進む。テイストがエロコメとギャグなのでわかりづらいが、心霊探偵ものでシンプルだが謎解きの要素もあり、ストーリーとして読ませる。

 こちらの作中に出てくるポスターにも「双子座は最下位」の文字列があり、作者にとって思い入れのあるワードであったことが察せられる。また、この「よそ見~」と前作にあたる「ヨックモックの花束」では表紙が岩波文庫のパロディになっている。本作は岩波青。

 

「ヨックモックの花束」(2008年8月)

 COMITIA85にて発表。英題は”A perfect day for JOKKMOKK”。

 男が車で轢いてしまった相手の女の子を口説きつづける、というラブ・ストーリィ。会社に勤めている男が女の子をドライブに連れていき告白することを14pと短いなかで描く。本作にははじめて読んだ読者をうまく引っかける仕掛けがなされていて、それによって忘れられない味を与えてくれる。ヨックモックおいしいよね。

 表現の特徴としては今作のみ登場人物の黒髪をカケアミで表現しており、実作を通して絵柄の模索をしていた時期と推察できる(「よそ見~」の髪は斜線で、「理科室の雪」では黒ベタに落ち着く)。なお、作中に出てくる貼り紙にも「双子座は最下位」という文字列が確認できる。本作のパロディは岩波緑。色の選定基準は不明。

 

「バイタルサイン」(2008年5月)

 COMITIA84にて発表。

 私はあるとき、自分が死んでいることに気づく。彼岸では煙の絶えない火葬場でアルバイトをし、アパートに居候させてもらっている。けれども此岸にいたころの記憶は思い出せない。「何かすごく大事なこと忘れている気がする」。オフビートなテンポで語られる死後の体験。

 死後のバイト先でも給与所得控除の書類やタイムカードがあったりとこちら側(此岸)に似たり寄ったりであるところが笑いどころだが、とある作品と類似してしまったあたり(詳細は後述する)、作者のセンスがうかがえる。唐突に出てくる「絶対押すな」ボタンはのちの作品でも似たような演出として変奏されている点が興味深い。重い話になってしまうところを最後の最後で救う展開になっていて、温かな読後感を残す。

 

『「3」とその他の原稿』(2008年2月)

 COMITIA83にて発表。

 もともと発表するはずの作品が間に合わなかったため、3ページの新刊落ちましたコピー誌とその前後にウェブで発表した1ページ漫画群を合わせたもの。「新刊がおちる瞬間を はじめてみてしまった まいったな」*2

「3」に登場する新刊が落ちたことに「嘘つき…」と泣いている女の子はおそらく「バイタルサイン」の”私”と思われる。スカートの色は違うものの、カーディガンやリボンはおなじ。この時点ですでに構想はあったと思われる。また、作者の分身は樫野ではなく顔面が鳥かごになっている人間で、後半の1ページ漫画群になってからようやく樫野らしき存在(まだ名前はついていない)が登場する。コマ割りについては、1コマ目を白抜きにしていることなど、樫野シリーズの形式の原型を見ることができる。

 1ページ漫画には『アオイホノオ』の焔燃らしき人物(おそらく見富拓哉本人)が『それでも町は廻っている』2巻を読んで自作「バイタルサイン」との類似点に気づき、匿名掲示板に「彼岸泥棒の新刊 それ町のパクりじゃね?」と書き込むことで自サイトへのアクセス数を大量に稼ぐという回がある*3

 

「斬新すぎるラヴ」(2007年11月)

 COMITIA82にて発表。英題は”The Last Frontier”。

 夜の路上に寝ている少女に男が声をかけ、そのまま夢で犬を殺すことについて語り合う、というこれといったストーリーはない8p漫画。確認できるかぎり最古の作品。タイトルと作品内容に深い関連性はない。

 薄幸そうな少女が一息に語りつづける姿はどこか殺伐としていて、絵柄も含め現在とはだいぶ離れている作風。しかし夜のしんとした雰囲気はこの頃から得意としているし、会話劇に関しても気のきいた台詞を入れようと意識していた節があり、この方向性を一作ずつ深めていく前の姿が見てとれる。

 また、多くのウェブサイトでは2008年から彼岸泥棒として活動していたことが記載されているが、『エラッタ』によれば本作は2007年の発表となっている。どちらが時系列として正しいのかは不明*4

 

「Bのてほどき」(2010年2月~4月)

 『QUICK JAPAN』vol.88~90に掲載。10p×3回の短期集中連載。

  公太郎は数年ぶりにフーコと再会する。ボタンに対するトラウマ(恐怖症)を抱えている公太郎は学生時代付き合っていたフーコとBをおこなうところでブラウスのほつれたボタンを見てしまい、その先に進むことができなかった。数年ぶりに会い、酔ったふたりはラブホテルに向かう。公太郎はボタンを外すことができるのか。そしてふたりの「Bのてほどき」がはじまる。

 工業製品に対するまなざしはやはり本作でもしっかり存在しているようで、第二話(第2ボタン)ではボタン工場が登場する。また同時に、作者の生活圏にあるものを意識的に描こうとする態度は今作の時期から垣間見えてくる。喫茶室「ノレノアーノレ」*5やチャッカマンを使って煙草に火をつける行為、ワンカップ酒。どれも些細なアイテムであるが、キャラクターの存在を現実のわたしたちと紐づけることに貢献している。

 短いページでの連載だったためストーリーそのものに複雑さはないものの、彼岸泥棒時代から深めてきた作風(キャラクターの日常芝居動作、工業製品へのまなざし、突飛な設定、コメディ、愛)を一作ですべて賄っている。見富拓哉が見富拓哉として本格始動したことを告げる一作。

 

「ゆうとねおのコンテク!」(2010年6月~)

 コンテクチュアズ友の会*6会報『しそちず!』#6から掲載。のちにリニューアルした『ゲンロンエトセトラ』に移籍。連載終了時期不明。

 冊子のクローズドな流通事情により筆者は手に入れることができなかったが、しそ卯の看板メニュー「構造と力うどん」というギャグが存在している情報だけはネットの海で拾うことができた。このアクセルの吹かし方は間違いなく見富拓哉イズム。

 

「双子座は最下位」(2010年10月)

電撃大王GENESIS (ジェネシス) 2010年 12月号 [雑誌]

電撃大王GENESIS (ジェネシス) 2010年 12月号 [雑誌]

  • 発売日: 2010/10/19
  • メディア: 雑誌
 

 電撃大王GENESIS』 2010 AUTUMN(12月号) に掲載。読み切り。

 少女が憧れの先輩に告白しようと思い立ったその日、テレビの占いコーナーで双子座の運勢は最下位に。椅子の脚が折れる、鳥に朝食をもっていかれる、毛虫に襲われる、彼女に襲いかかる苦難は数知れず。彼女は無事に先輩に告白できるのか。「魅惑のアンラッキー・コメディ」。

「よそ見~」以来のハイテンション(?)な作品。『エラッタ』では「よそ見~」の経験が「双子座」の執筆に生かされたと語られているが、むしろその方向に親和性があり生かされたのは樫野シリーズの身もふたもない日常風景をそのまま描いてみせるセンスで、それによって「双子座」は見富拓哉にしか描けないポップでシュールな味に昇華されている。とりわけ全ページにわたって登場する視覚的にもにぎやかな擬音の数々は以降の見富コメディ漫画における特徴のひとつであるとじゅうぶんにいえる。

 なお、作中の登場人物が読んでいる雑誌の広告欄にある「ASAHIKAWA DENKI KIDŌ」の文字は「よそ見~」に登場するポスターにも描かれている。

 

スカート『ストーリー』CDジャケット(2011年12月)

ストーリー

ストーリー

  • アーティスト:スカート
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: CD
 

 澤部渡による音楽ソロプロジェクト、スカートのCDジャケット。

 イラストレーター・見富拓哉ワークスとしては最も知られている作品のひとつ。見富らしく細部まで描き込まれた工業製品たちが箱のなかをひっくり返したかのように飛んでいるのが最大の特徴。さりげなく快楽天も描かれている*7

 本作は見富拓哉について考えるうえでは欠かせない立ち位置にある。というのも描かれているものがみな作者の興味関心のなかにあり、それらのイラストはいわば意識の標本としての役目を果たしている、ように思われるためだ。今作の時点において、煙草、歯ブラシ、錠剤といった生活用品の横溢はあくまでジャケットの意匠としての要素しか持たないが、のちの作品においてそれらの物品たちはキャラクターの持つ生活感や実在感、つまり生々しさとして機能するように変化していく。

「Bのてほどき」でのチャッカマンの使われ方や「理科室の雪」に登場する備品たちが細部まで描かれたことで物語に質感と奥行きを与えていたことを思い出してほしい。見富は今後、その日用品の持っているイラストとしての強度をさらに高めていく。

 その意味で、このジャケットイラストはいわばのちに発展をみせていく見富ワークスの里程標として見ることができる*8

 また、このイラストはCDが版を重ねるごとに描かれている物品が追加される仕様(!)で、ファンのあいだでは改版ごとになにが増えたかを調べるのがひそかな楽しみとなっている。見富のツイートでは、2016年の時点で5版とのこと。ジャケットの全体像もツイートの投稿から確認することができる。

  スカートとの交流はかなり深いものになっているらしく、これ以降も主催イベントのフライヤーやコミティアで頒布したCDのジャケットイラストを担当している。後述する漫画の題材にもなる。

 以下はその仕事を列挙したもの。

スカート『ストーリー』 /発売告知フライヤー 装画・デザイン 2011年 12月15日... - a new swimsuit(2011年)

スカート Presens 第三回 月光密造の夜 /フライヤーイラストレーション(デザイン 森敬太) ... - a new swimsuit(2012年)

スカート Live At Shibuya WWW “月光密造の夜” /装画, デザイン,... - a new swimsuit

(2012年)

スカート Presents 第四回月光密造の夜 於 Shibuya WWW 2013年... - a new swimsuit(2013年)

COMITIA 104 : スカート オフィシャルサイト(2013年)

スカート Presents 出張版 月光密造の夜 /フライヤーイラストレーション(デザイン 森敬太)... - a new swimsuit(2014年)

http://natalie.mu/comic/news/141129 - a new swimsuit(2015年)

スカート、ミツメ、トリプルファイヤーがカバーし合う限定コンピ『密造盤』 - 音楽ニュース : CINRA.NET(2017年)

COMITIA 99 – 106 : スカート オフィシャルサイト*9(2017年)

  

じん「日本橋高架下R計画」MV(2012年4月)

vimeo.com

  2012年4月にニコニコ動画で発表された楽曲のMV。見富拓哉は絵コンテと演出を担当した。キャラクターデザインはのちの文尾文(当時の名義はname)。監督は細金卓矢(アニメ『四畳半神話大系』のED製作に参加など)。

 一分半にも満たない映像のなかに、これでもかと視覚的なアイデアが詰められている驚異的な一作。どこまでが細金のディレクションの賜物なのかはわからないが、映像的に気持ちのよいタイミングで映えるものをひたすらに展開しつづける、というのは細金側の持ち味と思われる。具体的な作例としてはUGUISU on Vimeo*10。インタビューでも細金は「テンポやリズム感は僕が最初にタイミングを切っています。」と発言している*11

 といっても見富拓哉の作風がディレクションによって損なわれているというわけではなく、冷蔵庫のなかから撮ったような構図は「よそ見~」にも登場していたし、全体的に「モラトリアムファンタジーⅣ」に見られた無秩序なギャグのテンポがそのまま映像になっているという印象がある。見富の得意としているヴィジュアル的なアイデアと引用センスの要素がMVという形式でいかんなく発揮されたのが今作といえるのではないか。くり返し見ずにはいられない、という点で素晴らしい出来。

 

【追記】「ポストテリテカ繁盛記」(2012年5月)

 COMITIA100にて発表。テスカトリポカ出版「黒の太陽」52号に掲載。4コマ。2p二色刷り。テスカトリポカ出版 - 黒の太陽<52号>の紹介ページでは「テスカトリポカ繁盛記」となっているが、作品本文では「ポストテリテカ繁盛記」。

 4コマ×3話と短いが、ひさびさの樫野登場による近況漫画となっている。どの回でも樫野は睡魔に襲われるか、自ら睡眠することを選択するというくり返しネタが効いている。樫野漫画のゆるくもクスリと笑えるテンションは相変わらずで、「おはり」の文字も見出せる。イラストでない見富ワークスとしては二色刷りはめずらしく、その点でも目にあたらしい感触がある。二色刷り版ではないものの、一部抜粋が黒の太陽 52号『ポスカテリテカ繁盛記』より - a new swimsuitで読める。

 

追記あり】「バンドをやってる友達/Nearly Equal」(2012年5月)

 COMITIA100にて発表。サークル「新しい水着」名義での活動? 見富拓哉/彼岸泥棒名義(2019年第三刷時点にて確認)。現在入手不可。

 筆者は入手していないので詳細は不明だが、音楽マンガガイドブック (音楽マンガを聴き尽くせ)で紹介されているとかいないとか。まるで見富拓哉本人のような僕とスカートなようなバンド「スパッツ」のワタナベ君との交流を描いたものらしい。おそらく見富にとってもメモリアルな一作で、界隈では傑作との呼び声が高い。情報求ム!

【追記】

 かなりミニマルでシリアスな作品。見富漫画としては例外的に、表紙以外には女の子は主要キャラとして登場しない。「僕」と「ワタナベ君」のふたりの話だけで物語は完結している。

 詳しい経緯は覚えていないものの、バンドマンのワタナベくんと知り合った僕は漫画の話(マイナー月刊誌からロリコン成年漫画まで)で意気投合するようになり、互いの作品や活動を介して親しく付き合うようになる。しかしあるときからその関係が前提していたものに僕は気づくようになり、やがてその前提が崩れたとき、ふたりは関わらなくなってしまう、といった苦味を伴うお話。

 現在のスカート澤部氏の活動を予言するかのような内容と、それと対比されるように畳みかける後半の鬱屈したモノローグが痛々しく響く構成になっている。そうまで読者を痛く感じさせてしまうのは、おそらく前半部のエロ漫画談義のディティールがあるからで(彼らふたりはエロ漫画家の関谷や宮内(由香?)の話をあたりまえのように楽しく交わす)、そのような優しい関係を後半部の黒塗りのコマと言葉が圧倒する。そしてそれが過ぎ去ったとき、またひとときの優しい時間が流れ出し、しずかな余韻を残す。

 前半部の見どころはほかにもあり、なによりワタナベ君がバンドでステージに立っているところを目撃する一連の流れがその筆頭であるものの、そのあとのふたりの「前提」に気づく瞬間のコマに意図的に置かれている「空白」と「影」が強烈な説得力で読者を打つ上手さがある。そういう点で、今作はかなりシンプルな絵にもかかわらず技巧が凝らされている。

 とはいえ本作は決して例外作というわけでなく、見富ワークスではおなじみの「ルノアール」が登場しているし、「スパッツ」がライヴで共演している「喪中キッズ」「亀と万次郎」はそれぞれ見富がフライヤー「月光密造の夜」を手掛けたさいの共演者「昆虫キッズ」と「カメラ=万年筆」のもじりだったりする。ギターケースを背負ったワタナベ君が「COMIC ZIN」の袋を持っていたりするのもモデルの人物の細部を知っているがゆえの描写であろうし、全編に渡り、見富の観察者としての側面がそのまま漫画になっていることを改めて理解できる出来となっている。佳品。

 

人類は衰退しました のんびりした報告』(2012年7月) 

人類は衰退しました のんびりした報告 (IKKI COMIX)

人類は衰退しました のんびりした報告 (IKKI COMIX)

  • 作者:見富 拓哉
  • 発売日: 2012/07/30
  • メディア: コミック
 

  初出は月刊『IKKI』2012年1月~2月号、4~7月号。田中ロミオ原作。電子版有。

  見富拓哉唯一の刊行された著作。アニメ放送のタイミングで刊行されていたため、知っている人も多いのではないか。見富作品では最も手に入れやすく、流通している作品。

 未来、科学技術を失ってしまった人類の代わりに新しい人類(妖精さん)が台頭し、ふたつの人類の橋渡し役、すなわち調停官として仕事をする「わたし」の物語が描かれる。

 原作付きのコミカライズであるが、巻末の原作者コメントを読む限り、ストーリーはすべてオリジナルと思われる。妖精さんのデザインもアニメとは違う独自のもので、原作の持つひっちゃかめっちゃかなテンションではなく、オフビートでささやかで、すこしふしぎな日常が展開されるのが最大の特徴。それでいて見富らしい品々へのまなざしがじゅうぶんに楽しめる作品になっている。文明崩壊後のどこか寂寥感のある風景と見富の絵柄の相性がよいことを示したという点でも歴史的に重要だと思われ、この絵そのものの持っている雰囲気が読者につよい印象を与えるという点では、次作「うっかり寝過ごして月へ」が最小の労力で最大の効果を発揮している。

 物理書籍版にはとある仕掛けがあって、穴あきになっている表紙カバーをはずし、反対向きに(本体裏表紙を表紙カバーのタイトル側で)覆いなおすとメッセージが浮かび上がるようになっている。遊び心満載の本であるが、この仕掛けを知っている人はなぜかすくない。

 また、巻末には執筆でグロッキー状態になったと思われる樫野が描かれている。

 

【追記】『けいおん! college』おまけリーフレット(2012年9月)

 COMIC ZINの特典として配布。詳細はCOMIC ZIN -コミック・書籍インフォメーション-に。見富は4pのうち1pを担当。

「モラトリアムファンタジーⅣ」でもゲスト登場(?)していた中野梓をフィーチャーした『college』&『highschool』宣伝ギャグ漫画。バラエティ番組のノリを使うことにより(たぶん)お気に入りのキャラを水着姿に変える&可哀想な目に合わせるマジックがたった1pでありながら光っている。現在ではすっかりあずにゃんの持ちネタというかネットミームになってしまった「やってやるです」の言葉を流用したりと愛が細かい。

 

「うっかり寝過ごして月へ/replicable anxiety」(2012年11月)

newswimsuit.jp COMITIA102にて発表。サークル「新しい水着」名義。見富の同人活動では唯一ネット上で閲覧することができる作品(上記のTumblrから読めるので読んでいただきたい)。

 終始にわたって次の一瞬が予測できない見富イズムで構成されているのだが、しかしそれだけではない。以前の作品ではギャグとして使われていた○○(「だめ!!!! それ以上口にしたら……」)がたしかな描写としてそこに合致することでふたつとない味わいを残すかたちに昇華されている。初期作から一貫している夜のしんとした雰囲気も堂に入った様子で備わっており、間違いなく2012年における見富作品の達成点であり、まぎれもない傑作。

 再度いいますが、説明文を読んで本編を読んでない人は上記のTumblrから読んでください。

 

「おどろきもものきアインクラッド!」(2013年2月)

 『4コマ公式アンソロジー ソードアートオンライン②』に収録。8p。

 原作にあたる川原礫『SAO』を読むか見るかしていなければまったく内容がわからないので注意。内容としてはアインクラッド編が中心。

 ギャグメインの4コマだが、ここにもはっきりと見富イズムが息づいている。武器と関係のない謎のアイテムばかり鍛冶錬成するリズは前作「うっかり寝過ごして月へ」のハンバーガーのくだりを思い起こさせ、見富にしてはめずらしく複数回にわたり天丼が使われているのが特徴。アンソロジー参加作品のため見過ごされがちだが、見富流に可愛くデフォルメされたキャラクターばかり読むことができるという点で貴重な一作。

 

「かわ・いい・きもち」(2013年5月)

www.melonbooks.co.jp

 COMITIA104にて発表。サークル「新しい水着」花森川瀬名義。For Adult Only 現在入手不可。

  雨の日の翌日、エロ本を探す少年たちの前に河童が現れる。河童はなぜかスクール水着を着た女の子の姿をしていて、少年たちと相撲をすることで尻子玉を出そうとする。運が悪ければ死ぬかもしれない相撲に、少年は挑むこととなる。

 おそらく見富初の成年向け作品で、内容としては表紙から想像できることがだいたい描かれている。そういう意味では王道のエロかもしれない。素人目にも気合いを入れている作品ということが伝わってくる出来で、見富の作風がこちらの分野でも花開いていたということを知るうえでは資料的価値もある一冊。

 

追記あり】『世界は制服でできている』(2013年6月~)

 アオハルオンラインに掲載*12。しかし、3話まで連載されたところで掲載誌が廃刊。ページも消失したため、2020年現在閲覧不可。廃刊後に作者がPDFデータを配布していた気がするが、筆者の記憶違いかもしれない。名実ともに幻の作品となった。

 詳細は見富拓哉の制服コメディ、アオハルオンラインで公開 - コミックナタリーに。制服を欲しがるダメ男とその手の人々に人気の制服を着ている女の子の織り成すコメディで、話が広がっていく前に連載が終了してしまったという記憶がある。作者の興味・関心(あるいはフェティシズムか)が漫画のテーマにここまで前景化することはこれまでになく、作者としては本領を発揮する、あるいは新境地に至ることのできる題材だったはすなのだが、それ以上の細部は2020年の筆者には思い出せない。ごめん、みんな――。

  アオハルは10年代前半、ジャンプレーベルでありながら位置原光Z山田穣、ソウマトウ、三島芳治といった漫画家を抱えて稀有にとがっていた雑誌で、その連載がどうにか終わったりまとまって刊行されたりしたのち一部は楽園へ向かい、トーチで日々の糧を得、エロ名義に戻るなどした。いまではソウマトウが残るばかりである。いやそんなことはないけど、うさくんとか室井大資とかいたし、うぐいす祥子も。たしかにラインナップはすごかったけどほんとなんだったんだろうね……。不思議な雑誌だった……。

【追記】

 清涼院学園の理事長の血縁である穂波智恵は不良になって退学になることを決意する(具体的には学校帰りにゲーセンに寄ったりバーガーショップで買い食いしたりするなど)。一方、昼間からブルセラショップで制服を買いあさっている塾講師の男・牧。このふたりが出会い、制服にジュースをこぼすことから物語ははじまる。

 物語はその冒頭が描かれたのみで途絶してしまったが、見富流のノンストップ系ギャグと会話のおかしみにあふれている(会計支払いを「実弾? エネルギー弾?」と聞かれて「オ…オーラパワーで」ビビビ…と12回払いするなど)。

 作品本体ではなく周辺の事情から結果的に見富の代表作とはならなかったものの、題材からして、決してほかの作家には描かれることのない領域に向かっていた漫画だったのではないか、と思わずにはいられない作品。

 

「それを脱ぐなんてとんでもない!」(2013年8月)

 COMITIA105にて発表。サークル「新しい水着」花森川瀬名義。For Adult Only 現在入手不可。

 田舎の防具屋で布切れ装備を手に入れた女の子たち(バニーガール姿とマイクロビキニ姿)が可愛そうな目に合う話で、わざわざ彼女らに年齢を発言させているあたり、作者のつよいこだわりが感じられる。

 女の子たちが男に殴られ捕まるところで「というようなマンガになる筈だったのですが諸般の事情よりダイジェストでお楽しみください」という「●お詫びとお知らせ●」が挿入され、以降はイラストに台詞を入れた形式でストーリーが進む。途中のコマにも「絵が入る予定のコマでしたが諸般の事情により空白となりました。左ページと合わせてメモ欄としてご利用ください。」と「●お詫びとお知らせ●」が挿入されており、性描写とともに謎の「-memo-」コーナーがあるという不思議な味わい。しかし諸般の事情でさえも見富イズムによって装飾することができることには驚かされる。

 ゲスト2pははら(pcp.hara - pixiv)。こちらでもビキニ姿が描かれている。サークル「新しい水着」の追究しようとした方向性がうかがえる。

  

「それをすてるなんてとんでもない!」(2014年10月)

コミック電撃だいおうじ vol.14 2014年 12月号 [雑誌]

コミック電撃だいおうじ vol.14 2014年 12月号 [雑誌]

  • 発売日: 2014/10/27
  • メディア: 雑誌
 

 『コミック電撃だいおうじ』vol.14 2014年12月号に掲載。読み切り。

 読んだはずだが、保存していたものが見つからないので詳しいレヴューは省きます。ごめん、みんな――。

 詳細は見富拓哉、だいおうじでゲーム女子ダラダラ話 - コミックナタリーに。女の子たちの可愛らしくダメダメな日常を切り取ったコメディになっていた記憶で、見富が掲載誌の色を解釈したことで生まれた作品という印象だった。

 見富拓哉としての商業活動は、おそらく本作を以ていったん終了し、以降は「新しい水着/けむりとほこり」名義での同人活動期となる。その主な活動場所は『アイカツ!』の二次創作である。

 

「AM2:00 / Girls Talk About」(2015年2月)

kemhok.fanbox.cc

 芸能人はカードが命!6(アイカツ!シリーズオンリーイベント)にて発表。サークル「新しい水着」けむほこ・花森川瀬名義。コピー誌。現在はpixivFANBOXにてデータ入手可(月額540円~のプラン)。

 深夜、学生寮のランドリーで霧矢あおいが洗濯をしていると、そこに星宮いちごがやってきて、さらに紫吹蘭が合流する。洗濯物が乾くまでのあいだ、三人は学校の敷地を出て、どん兵衛を求めコンビニへ向かう。

 夜という見富拓哉が得意としている世界を、二次創作でも雰囲気たっぷりに描いている。しかし以前の作品にあった寂寥感はまったくといってよいほどになくなっている。これまでの作品であれば黒ベタで済ませられていたであろう夜空には白が散り、星の瞬きが見えている。これはアニメ本編でも印象的に星が描写されていたためか。

 本作が特徴的である点は、二次創作というかたちを取っているため、コメディでもシリアスでもない、キャラクターのなにげない日常風景を切り取っているというところにあるかもしれない。そこでは物語の目的といったものはなく、作者の筆もどこかその自由さを楽しんでいるようでさえある。

 ここにおいて、見富の漫画はキャラクターの存在そのものを楽しむという二次創作の精神に貫かれている。洗剤や柔軟剤、インスタント麺のパッケージが丁寧に描かれ、その世界の実在性を高めている点はこれまでの見富作品と変わらないが、しかしそれが見富本人によるものでないキャラクターの存在に奉仕していることで、また違った印象を与えている。

 また、こうした二次創作を通して検討されていくキャラクターの存在に対する距離感は、以降、意図したかどうかは定かでないが、見富がより深めていく表現となっていく。

 

「いい日 / SlowRider」(2015年7月)

kemhok.fanbox.cc

 芸能人はカードが命!7で発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ名義。コピー誌。現在はpixivFANBOXにてデータ入手可(月額540円~のプラン)。

 霧矢あおいが仕事を休み、総武線の各駅停車に乗り、星宮いちごと紫吹蘭と会い、三人で市ヶ谷の釣り堀に行き、すしざんまいに行く話。

「AM2:00 / Girls Talk About」で語られていた「ユリカちゃんが献血行ったときの話」をここでも星宮いちごがしていることから、前作とつながっている話と思われる。前半部分を占める霧矢あおいのモノローグはどこか寂しげだが達観している部分があるのが印象的で、それがソレイユ*13のメンバーであるふたりの登場によって崩される。結果的にそれが「いい日」という肯定に向かうことが素晴らしい。ソレイユはやっぱ三人であることが大事なんだよな……(輝きに包まれながら)。

 作者の周縁部を漫画として表現していく見富拓哉ワークスとしては、キャラクターと「中央線の快速」や「総武線」といった固有名詞がつながりを持っていることが独特の感触を生んでおり、これはおそらく東京住まいであればより効果的に響く描写であると思われる。

 

追記あり】「たびのしたくEP. /Cantrip」(2015年10月)

 芸能人はカードが命!8で発表? サークル「けむりとほこり」名義。コピー誌。現在入手不可。

 情報皆無!急募!情報提供者!

【追記】

 海外の旅行番組を見たソレイユが旅行をしようとする。でもお話は準備段階だけ! というコンセプトの漫画。しかし原稿が間に合わなかったのかどうなのか、途中で途絶しており、描けた部分まで掲載している。とはいえ次回の芸カで旅行漫画になった経緯を含めるとオチがつくというか、予言的で面白い。相変わらず仲の良いソレイユが見れるのでうれしい。おなじみのルノアールも登場して二倍うれしい。

 ゲストはたけし(竹原)(たけし (@chikuchikusuru) | Twitter)、今後(いまご (@imago108) | Twitter)、LM7(LM7(@__LM7__)さん | Twitter)。

 

「exotica」(2016年2月)

www.melonbooks.co.jp

 芸能人はカードが命!9にて発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ名義。現在はexotica|けむほこ/見富拓哉|pixivFANBOXでデータ入手可(月額1080円~のプラン)。

  見富本人の香港旅行経験をソレイユ三人の旅行として描く4コマ漫画。現地に行った人間でないと絶対にできない話に満ちており、しかしそれがアイカツのキャラクターを通して語られるのがどこか楽しい。

 4コマ漫画はおそらく『SAO』アンソロジー以来となるが、ページ数の制限などがないためか、旅のしたくからはじまっていくという余裕のあるつくりでじっくり読ませる。話が4コマ1セットで完結せず、複数の4コマを通して大きなストーリーが語られていく、というスタイルはまんがタイムきらら以降世代のわたしたちにとってはあたりまえのことであるが、驚くべきはそのスタイルを見富が学習し、高いクオリティで提出していることではないか。

 今作では、たんに個々のエピソードの具体性だけでなく、雑誌であれば扉イラストにあたる部分が幾度となく描かれている。見富が得意とする細密かつポップなイラストが舞台となる香港の風景を描写することに活かされ、それによってストーリーや舞台を魅力的に提示することに成功している。つまり、連載4コマの形式を作者が自覚して効果的に利用している。

 二次創作というキャラクターのバックボーンが存在する分野ではあるものの、タイトルの通りエキゾチックな内容もじゅうぶんにあるためか、「女の子たちが香港旅行をしてくる話」として原作を知らずとも読むことのできる作品になっている。

 

【追記】無題(芸カ9フリーペーパー)(2016年2月)

 芸能人はカードが命!9にて発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ名義。現在入手不可。

「exotica」発表と同じイベント内で配布した無料ペーパー。「健全なまんがを描いた反動で急にスケベ絵が描きたくなったので」という言葉の通り、えっちな霧矢あおいちゃんのイラストが数点描かれている。ふつうに18禁イラストなので注意が必要だが、後述のイラスト集にも収録されておらず、会場でサークルを訪れた人のみが手に入れることのできたという点で貴重な作品。

 

「a girl like you 森へ往く方法/森から出る方法」(2016年12月)

www.melonbooks.co.jp

 コミックマーケット91にて発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ名義。現在は

a girl like you [Delux Edition]|けむほこ/見富拓哉|pixivFANBOXでデータ入手可(月額540円~のプラン)。

「森へ往く方法」と「森から出る方法」の2話構成。同人誌の扉にあたるページには「君が本当に 消えて いなくなって しまう前に」という強烈な言葉が配されており、各話の前にはポップソングのような歌詞が置かれている。歌詞のなかで語られる「森」や何度でも繰り返すことのできる「夏のレプリカ」「不出来な冬のデュープ」といった言葉はそのまま本編のなかで見えないテーマとして重なっていく。

 物語としては大きなイベントはない。「けむ」と呼ばれる男(不在票には「けむほこ」様と書かれている)と彼と一緒に暮らしている女の子のささやかな生活風景がゆったりと語られていく。彼らは同棲しているらしく、お互いにべつべつの銘柄の煙草を吸い、夜中に洗濯機を回したりする。女の子のほうは飲んでいた酒類の容器を捨てずにため込み、ロゼット洗顔パスタで顔を洗い、メディキュットで脚をシュっとさせようとし、日高屋でビールを飲む。

 しかし、そのような生活描写とは反対に、本作は喪失をめぐる物語として描かれている。「森へ往く方法」の冒頭部は次のようなモノローグで成り立っている。

 私たちは

 冬になると 夏の暑さなんて 忘れてしまって

 夏服を仕舞い込んで 厚手のセーターを 引っ張り出すみたいに

 新しく作られた 細胞組織たちが 少しずつ傷跡を 覆い隠していくように

 そのうちきっと 何を思い出しても 何も感じなくなってしまう

 そういう 生き物なので――

 TVアニメーションアイカツ!』は全178話と劇場版からなり、2016年3月にその本放送を終えた。次週以降、同時間帯ではキャラクターや設定を一新した『アイカツスターズ!』が放送された。

 2016年夏に公開された『劇場版アイカツスターズ!』と同時上映された『アイカツ!~ねらわれた魔法のアイカツ!カード~』において無印アイカツのキャラクターはおよそ30分間のカムバックを果たしたが、2016年当時、アプリゲーム『アイカツ!フォトonステージ!!』*14を除いて、キャラクターたちの現在進行形での動向を知ることはできなくなった。

「a girl like you」に登場する女の子は『アイカツ!』の登場キャラクター、霧矢あおいちゃんによく似ている。シュシュでまとめた癖のある髪をサイドテールにしているその特徴的なスタイルは、まあ実質的に霧矢あおいちゃんなのであるが、しかし、彼女の名前は作中で明確に一度も呼ばれることはない。「森から出る方法」では、けむから受けた電話に対し、「彼女」はこう答える。

「え? 何言ってんの?

 どっかってどこ? うーん?

 うん うん

 大丈夫だって どこにも行かないから」

  そしてモノローグは「あの森」について語り、締めくくられる。「そしてその森は 多分きっと―― 少しだけ 君に似ている」。本作は見富拓哉と『アイカツ!』、そしてやがて失っていくであろう季節、森、なにより「君」とのパーソナルな領域に踏み込んだ一作といえる。

 また、本作で女の子が着ているコートは彼岸泥棒時代の作品「斬新すぎるラヴ」やクイック・ジャパンの連載「Bのてほどき」でそれぞれヒロインが着ていたBarbourのオイルドコートとデザインが酷似している。自分、泣いていいすか。

 

【追記】unmade Bed 森へ続く道の途中で(2017年2月)

 芸能人はカードが命!12にて発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ名義。会場限定(在庫状態は不明)。

 見富曰く、「a girl like you volume1.1」*15。芸カ13ではキット販売だったらしく、Tumblra new swimsuit)で製本の手順が指示されている。完成図は以下のリンクのようなイメージ。読めるページの裏側に大きなソレイユの水着イラストが載っている。

「a girl like you」シリーズのナンバリングじたいはこれがはじめてで、同人誌本体にはナンバリングの記載はないものの、表紙のデザインや霧矢あおいちゃんのイラストの背景に言葉たちが並ぶイラストなど、前作からの一貫性を保っている。見富の身辺を彩るアイテムや、あおいちゃんが着ているお鍋のニットへの言及をはじめ、コートがBarbourであることなどが明確に記されており(やっぱりそうだった!)、シリーズの裏話的な側面がつよい。ここで描かれているイラストは、後述のイラスト集への収録が見送られているため、本作でしか見ることができないので貴重である。

 タイトルの「森へ続く道の途中で」は菊地成孔のユニットSPANK HAPPYの同名曲からか。各位できれば歌詞を検索していただきたいところ。

 

「K/M/H/K ILLustrations late 2014 - early 2018(a girl like you 1 3/5)」(2018年3月)

www.melonbooks.co.jp

 芸能人はカードが命!15にて発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ名義。現在入手不可だが、収録イラストの多くはa new swimsuit: Archiveから見ることができる。

 タイトルの通り、カラーイラスト集。すべて無印『アイカツ!』のイラストで構成されており*16、前作「a girl like you」と関連したタイトルからもわかる通り、その大部は霧矢あおいのイラストで占められている。

 見富拓哉の興味・関心が一貫していると感じられるのは霧矢あおいのブルマや下着、水着姿が描かれていることで、その一部は「ワイレア出版の思い出①~③」と題されている。アダルトな出版社のため検索しようと思ったひとは注意。ほかにもサークル名とおなじタイトルの「新しい水着」というスクール水着姿の霧矢あおいなどがあり、見富は彼女をある種のミューズとして捉えていたのではないか、とも勘繰ることもできる。

 同人イラスト本としてはめずらしくレイアウトがかなり凝られており、単純にイラストを切り貼りしたのではない点で目に楽しい、満足度の高い一冊。塀先生の名著「MAISON HEY 2016 Resort」*17と並べてお仏壇に飾ろう。

 

「覚えのない不在票/誤配を待つ怪文書(a girl like you, volume 1.96)」(2018年7月)

 芸能人はカードが命!16にて発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ(見冨拓哉)名義。現在、画像データは20180803/怪文書|けむほこ/見富拓哉|pixivFANBOXで閲覧することができる(aiデータは月額540円~のプラン)。

 アイカツ二次創作の名を借りた見富による怪文書もとい身辺雑記。実質的なお詫びペーパー。文脈的に刊行当時のFANBOXの投稿を見ていないと話題についていけないつくりになっているほか、見富がツイーンピークスリターンズをWOWOWで見つつ、二次創作ではなくオリジナルを描こうとしていることがうかがえる。実質的な見富拓哉カムバックの予告編。これがどういう意味を持つかについては後述する。

 イラスト部分としてはメディキュットを着た「彼女」とサクレが描かれている。

 

 「曖昧な熱帯夜/鮮明な蜃気楼 a girl like you volume.2」(2018年11月)

www.melonbooks.co.jp

 芸能人はカードが命!18で発表。サークル「けむりとほこり」けむほこ名義。現在通販在庫あり(いつまでもあると思うな同人誌)

 けむと「彼女」の交流を描く「a girl like you」の続編。「曖昧な蜃気楼」と「鮮明な熱帯夜」の2話構成で、話のナンバリングも「3」と「4」になっている。各話の前には前作同様、見富による歌詞が並べられている。

 ツインピークスリターンズについて話すふたりからはじまるのが本作における見富のライフワーク的側面を映し出しているものの、(そして祈りは次の段階へと進む)と扉で示されているように、けむと彼女の関係も次第に、曖昧に移ろっていくことが語られる。具体的には「曖昧な熱帯夜」で友人の結婚が話題にのぼり、「鮮明な蜃気楼」では彼女の不在の予感がさらにつよまって終わる。

 2020年現在、「a girl like you」シリーズは本作が最後のナンバリング作品になっているものの、それと入れ替わるように、もうひとつの企画が動き出す。

 トーチ連載『雪が降って嬉しい』。およそ5年ぶりの、見富拓哉の商業誌へのカムバックである。

 

『雪が降って嬉しい』(2019年1月)

to-ti.in

 内容についてはじっさいにいま・ここで触れることができるコンテンツなので、読みましょう。読んでくれ。

 ウェブサイトの煽り文「私たちは、冬になれば夏の暑さなんて全部忘れてしまう生き物だ。」と本編を開いて最初のページに登場する歌詞をみればわかるように、本作はオリジナルでありながら「a girl like you」シリーズのスタイル・思想を踏襲している。0話にあたる「1 3/5月」という表記はカラーイラスト集のナンバリングとおなじであることはいうまでもない。

「何度でも繰り返すことができる ある冬の出来事について」という言葉は「森から出る方法」の歌詞「何度でも繰り返すことが できるあの夏のレプリカと」という部分と呼応している。そこで触れられるのは思い出であり、やがて喪失してしまうなにかに触れることそのものでもある。

「だから私はそれを 書き留めておかなくては いけないと思ったんだ」で締められる言葉の通り、背景の描き込みは見富作品史上、もっとも細密になっている。これまで作者が高めてきた技術と熱が詰められた作品であることは間違いない。見富拓哉ワークスは、ここにきてすべての流れが合わさり、重なっている。『雪が降って嬉しい』とはそういう意味でも集大成的な作品である。

 なにしろ、本編1ページ目にラジオの音声(気象通報)を入れる演出は商業デビュー作「理科室の雪」の1ページでも使われている(!!!)。

 筆者はそれに気づいたとき泣きそうになってしまった。あの、見富拓哉がほんとうに帰ってきたんだと心から思ったからだ。「理科室の雪」について、『エラッタ』の解説では「最初の1頁が描きたかったほぼ全て」と発言していたことから、『雪が降って嬉しい』のこれは往年のファンだけにわかるカムバックの合図としてのセルフ・パロディとしてだけでなく、作者が追い求めてきたイメージを、いわば自己を更新することの宣言にも取れる。作中で楓が着ているコートのデザインも、これまでの見富ヒロインが身に着けていたものから丈が若干短いものへとリファインされている。細かなモチーフすら見逃すことができない。

 本作は不定期連載というかたちであり、2020年現在、2019年1月の0話がウェブ掲載されたのみとなっている。構想はかなり長い年月を費やされていると思われ*18、あとはあらたな見富の代表作の続きを首をながくして待つのみである。

 

おわりに

 以上を以て、彼岸泥棒a.k.a.見富拓哉(不)完全レヴューを終了する。

 わたしたちが追ってきたのは第1期~第3期までの見富拓哉である。しかし、そのあとのことについては、まだだれも知らない。けれど、きっとまだだれも見ていない第4期と呼べる流れがすぐにでも見い出されることとなるだろう。

 だからきっと、いつまでもぼくたちは待つことができるはずだ。

 夏を幾度だってどうにか過ごしてきたように。寒い冬をじっと耐えてきたように。見富の作品がふたたびやってくる瞬間を、ぼくらはきっと思い出せる。

 その再会の場所はきっと約束されたなにかでできていて、

 あの森のすがたによく似ている。

 ぼくたちはあの森へ往く方法を、道を、きっと思い出せる。

 なぜならそれを、予め知っているのだから。

 なぜならあらかじめ言葉が、明白なまでに記されているのだから。

 そこにはこう書かれている。

 そして――

 

(そして祈りは次の手順へと進む)

 

 ぼくたちが森へ向かう準備も、たったいま終わった。そう決まったのだ。

 残っているのはだから、祈りの時間だけだ。

 

補遺

 2019年の見富拓哉のカムバックはコミティアにも影響している。ティアズマガジンの表紙を見富が担当しているからだ。詳細は彼岸泥棒の見富拓哉がティアマガ表紙を執筆、たみふる、ユニのインタビュー掲載 - コミックナタリーに。読めばわかるように「双子座は最下位」の言葉もカムバックしている。

 2020年の見富の近況については、自分たちのコミティア(ドイスボランチ)の通販・購入はメロンブックス | メロンブックスの2p漫画で知ることができる。そこには歯科医姿の霧矢あおいちゃんもいる。要チェック。

 

 【追記】

 予期せぬ(ほんとうに予期していなかった!)情報提供者さまの登場を含め、最終的に2万4千字を超える長大な記事となりました。

 ここまでお付き合いいただき、ほんとうにありがとうございます。この記事を通して漫画家・イラストレーター見富拓哉を知っていただくor再評価していただく機会になれば幸甚です。なお、この記事については各位ご自由に作品目録/レファレンスに使っていただければ大変うれしく思います。それではまたいつかどこかの森でお会いしましょう。「思い出は未来のなかに 探しに行くよ約束」ですからね。

 See you next time!(完)


TVアニメ『アイカツ!』EDテーマ「カレンダーガール」ノンクレジット映像

*1:HDDが逝去するイベントは発生する。

*2:2020年現在だとわかりにくいが、羽海野チカハチミツとクローバー』のパロディになっている。

*3:「自分で読むとパクリに見えたんですが、誰からも指摘されなかったので大丈夫だったみたい。」とask.fmでコメントしているため(見富拓哉 (@kemhok) — Likes | ASKfm)、実話ではないと思われる。

*4:本レヴューでは彼岸泥棒2007年誕生説を取ることにしている。

*5:「樫野先生言行余禄」にも喫茶室ルノアールは登場している。

*6:現ゲンロン友の会

*7:sawabe on Twitter: "ストーリーのジャケで飛んでる雑誌を快楽天にするかLOにするかで見富さんと結構悩んだんですが、よりセーフな方を選んだつもりです"

*8:物品の醸し出す生活感についての模索段階作品として、レアな遺伝子を探せ / Autopoiesis - a new swimsuitをあげることもできるかもしれない。こちらにも「ASAHIKAWA DENKI KIDŌ」の文字が確認できる。世界はつながっている。

*9:けむほこ/見富拓哉 on Twitter: "久しぶりにスカートのCDジャケットを描きました。イラストからデザインまでアートワークをまるっと担当するのはストーリー以来6年(←!?)ぶり?盟友澤部渡がコミティアで密売していた手焼きCDRをまとめた総集編的な1枚です。5月6日コミティア120/う49b、何卒〜!… https://t.co/eJrvNmeSCg"

*10:スカートの澤部渡氏も入浴姿で登場し、冒頭(00:07)の赤帽の前に立っている女の子が来ているニットはのちに刊行される同人誌「a girl like you」に登場するキャラクターが着用している、という見富とも縁深い映像になっている。

*11:Vol.9 映像作家 細金卓矢さん | Adobe Illustrator 30周年記念連載 「Illustrator 30_30」 | Adobe Blog

*12:世界は制服でできている | コミック | アオハルオンライン

*13:星宮いちご、霧矢あおい、紫吹蘭の三人からなるアイドルユニットのこと。

*14:2018年7月にサービス終了。

*15:けむほこ/見富拓哉 on Twitter: "芸カ16で頒布した a girl like you (volume 1.96) 通称『怪文書』ですがこちらは volume 1.1『Unmade Bed』同様イベント頒布限定です。ゲットした人は友達に自慢しよう!中身について何かお気付きの点(新刊だと思って買ったら怪文書だった等)がございましたら暴れちゃってもいいよ… https://t.co/yzxxrnpxsp"

*16:唯一の例外として、イラスト内の雑誌の紙面に『ラブライブ!』の東條希が描かれている。

*17:#アイカツ! 芸カ10 ソ01 霧矢あおい・フルカラーイラスト本 - 塀(H3Y)のイラスト - pixiv

*18:たとえばトーチwebのカラーイラストとおなじ構図がa new swimsuitの2018年5月の投稿にも見出せる。