アニメJust Because!を誤読する5

 今回も誤りつづけていきたいと思います。よろしくお願いします。ようやく折り返してからの7、8話です。彼/彼女らのこじらせはとどまるところを知りません。

アニメJust Because!を誤読する1 - ななめのための。
アニメJust Because!を誤読する2 - ななめのための。
アニメJust Because!を誤読する3 - ななめのための。
アニメJust Because!を誤読する4 - ななめのための。


■第七話 Snow day

 センター試験前日です。第六話のラストからいったん時間は巻き戻り、語り直されているようです。バスでは夏目の単語帳。「by accident」もそうですが、例文の「あなたひょっとして彼と婚約してるんじゃないですか?」も相当アレですね。このあとの夏目さんの状況を予期しているかのようです。


 通報されメンタルにひびの入った小宮をとりあえずなだめる泉。「賞獲らないと、写真部なくなっちゃうんだよ……!」「なんで、そんな写真部にこだわんの」と前回の話にあった顧問の言葉が泉から発せられます。
「……わたしには……あそこしかない」「なにが」「みんなからしたら、たかが写真部かもしれないけど。わたしにとっては、やっと見つけた場所なんだもん……!」とようやくその答えが出てきました。中学時代は部活をつくれなかったことが語られ「小宮はすごいよ」「ばかにしてる……」「おれだったら、なにもしなかったよ、たぶん。仕方ないってあきらめて」
 ここで第三話の各人の部屋描写がついに活きてきますね。積み重なったダンボールばかりの泉の部屋(なににも打ち込めなかった人間・画像は三話より)とたくさんのもので散らかりつつも、男子部員に助けられている小宮の写真部室(画像は三話より)。なにより彼女自身の部屋はいまだ描かれておらず、年末も写真がリビングに広げられているだけでした。加えて、小宮の教室はこれまで描かれていませんし、ほんとうに写真部のみが彼女の居場所だったことがこれまでの積み重ねによって、奥行きを持って見えてきます。対照的なふたりの背景ですが、心を動かされた泉は写真の応募を許可します。

 というわけで時間軸は前話のラストへと戻り、夏目が偶然ふたりを見つけ、反対方向へと逃げていきます。そういえば第五話でもふたりを見つけて逃げる夏目さんがいましたね。泉くんは夏目に気づいたようですが、このタイミングでは確信に至らないようです。

 明けてセンター当日。大雪です。JRは運転見合わせ。究極的に間の悪い星のもとに生まれている夏目さんです。それを知った泉は家を飛び出していきます。迂回路もバスも使えません。
 泉くんのモノローグ「いつもいつもなんだって、こう。あいつ肝心なときに限ってさ、中学んときからずっとじゃんか……! 生徒会で準備してた体育祭は雨で中止になるし! 修学旅行は風邪で来れないし! 数学の宿題、やってないときばっかあてられて……! もうほんと頼むからちゃんとしてくれよ……!」と半分キレ気味です。
 しかし冷静に考えると泉は中二の冬に引っ越していますし、彼らの中学の修学旅行が一般的な三年であった場合、小学生のころから彼は夏目を意識していた可能性が浮上してきます。仮に脚本的な矛盾がないのであれば、もうこの冬最大の泉くんがここで観測されたことになります。激エモですね*1


 人にぶつかった拍子に床に転び、すでに感情が限界の夏目。そこに泉が。彼女の目に入るとともに「ただいま上下線(ともに?)運転が再開しました」とアナウンスが重なります。「あ……なんで」「たまたま通って」汗だく雪まみれ息切れと三拍子の泉くんですね。いいと思います。運転が再開したJRへ。泉くんがスペースを確保してくれます。まだパニックがさめやらぬ夏目さんに日本史の問題を投げる泉くん。受験生っぽい。「なんで問題出せんの? 推薦組のくせに」「推薦決まる秋まで、受験勉強してたし」と、顔をそむける泉くん。やっぱり泉くんですね。

 試験会場である神奈川大学に到着するふたり。門の前で彼女を呼び止め、泉が御守りを渡します。振り返ったときの夏目の鞄。これまでどのカットでも腕や通行人によって隠れていましたが、その金具にはクラスメイトからもらった御守りがついていません*2。相馬に消しゴムを返したのち、意図的に外したものと思われます。そういうところはやっぱり夏目さんですね。
 夏目が去ったあとには青い空が。初詣のときは夏目も一緒にいたので、泉はべつの日に改めてお参りをしたものと思われます。晴ればれとしていますが、やっぱりこちらも泉くんですね。

 試験会場。相馬にようやく返すことができたので、違うメーカーの消しゴムを使っています。視線は右に。手で消しゴムが隠れると同時に御守りが映ります。夏目の心が相馬から泉へ動いてく流れが見えるようです。クラスメイトがくれたのは普通の「御守」と「恋愛成就」でしたが、泉がくれたのは「受験合格御守」。こういうところはやはり律儀です。

 試験会場から一足先に藤沢へと帰った泉くんは書店へ。写真の応募は済ませたものの、夏目の志望校の赤本を取る泉くんを尾行した小宮は「むかむかする」とまだ感情をもてあましているようです。いっぽう森川姉妹は服の買い物。
 CIAOPANIC TYPYですね。中高生の買うブランドとして高い値段帯かどうかの判断はひとによるかと思います。アウターかつセール品でなければ、冬物で一着5000〜10000円あたりが平均でしょうか*3ユニクロより高い服のブランドなのは間違いないですね*4。妹にも「地味」といわれるお姉ちゃんです。姉妹で服を融通できるのは経済的ですね。

 小宮は「むかむかするー」。試験が終わり、電車に乗った夏目。中学時代の過去回想。生徒会の仕事で荷物の運び出しをしているようですね。泉くんは「損な性格してるよな、夏目って」「どこが」「今日みたいなとこ*5。ひとりで運ぶような量じゃないだろ」と言います。やっぱり昔から泉くんですね。降ってきた雪に「おれ、走るから」と折りたたみ傘を渡して走っていく泉くん。いや、夏目……お前さ……そこは気づくところでは……*6


 回想が終わったところで、LINEのメッセージ。小宮からです。「今日、ちょっと時間いいですか?」と敬語であることに若干の疑問符を浮かべます。藤沢駅に着いたところで、バスのロータリーへと向かう夏目。階段の下に小宮。挑みかかるような角度のカットに彼女の気迫が見て取れます。むかむかの原因に気づいてしまった小宮にとって、もはや夏目は強敵そのものです。
「なに、急に? 写真部のことならいまの生徒会に相談したほうがいいよ」とゆっくりと下りていく夏目*7。小宮「泉先輩のことなんだけど」といったところで、最後の一段を残し足を止めます。古来より、両雄は並び立ちません。「わたし、デートに誘ってもいい?」「……ダメ」最高ですね。今回はここでエンディングです。



■第八話 High Dynamic Range
 サブタイトルはおそらく写真などにも使われている用語ですね。スマホの写真などでHDRなどと見たひともいるかと思います。専門ではないので詳細は省きます*8。というわけで小宮さんが小宮さんで小宮さんの第八話です。



 電車。センター当日と比べると、あきらかに距離のあるふたり。会話はするものの、お互い目は合いません。「あのさ」「なに」「聞きたいことがあるって言ってなかったっけ。センターの日にさ」(…)「もうよくなった。だいたいわかったし」「なにが」とようやく顔を合わせます*9、そしてトンネルへ。自身と向きあうどころか、これまでのツケを払わされることになっていくのを予感させます。それぞれの感情が試される今回、緊迫感を見せつつリズムのある絵作りで最高の滑り出しです。

 森川家の宅訪問。家屋が三つ、ソーラー。車庫用の屋根も見えます。赤い屋根の建物(納屋ですかね)にぶら下がっているのは玉ねぎでしょうか(浅学なのでわかりません)。描かれている人物比が正しいのであれば、神奈川県にあるベッドタウンに構えているクラスとしては、かなりのサイズといえそうです。登場人物の反応からもうかがえます(家業として使っている家屋もありそうですが)。

 いっぽう小宮家。前話でも写真を選ぶシーンでちらりと映ってはいましたがデスクの明かりのみで周囲は暗く、彼女の部屋全体が見えるのは今回がはじめてです。つまり彼女の内側がどんどん浮き彫りになっていく回です。「今週寝不足だったからなー、泉先輩のせいで」小宮さんはもう小宮さんになってしまいました。


 鍋を囲む五人。「やっぱり森川さん、料理できるんだ」(…)「わたしには、鍋と料理の違いすら(わからない)」と夏目。「わたしには真似できないわー。お母さんが最強」という乾。「……うん」と静かな夏目。どこかうらやましげな、かなわないなって雰囲気の表情。いったいだれと比べているんでしょうか。その表情をじっと観察する泉くんです。
「進路決まってるから余裕だよねえ、みんなはさあ」といったん空気が止まります。このグループでははじめて愚痴をこぼした夏目。会話の流れとしては、打ち解けてきた、といった趣ですが、感情に振り回されることの多かった彼女がようやく周囲を落ち着いて見るようになったということもあるのだと思います。まわりが目を見開くなか、唯一目を閉じて落ち着いているあたり、年季の入っている泉くんが泉くんたる所以ですね。
 鍋をつつき「てか、泉マロニー全部食べたでしょ!」と怒る夏目ですが、無意識に彼を見てしまっているわけで*10、夏目さんも夏目さんですね。さりげない描写の組み立てが光るシーンです。


 そしてまた小宮家。年末はあれだけ写真だらけだったリビングにいる彼女が、スマホの画面を一心に見つめています。この時点でかなりの入れ込みようなのが一瞬で伝わってきますね。上が四話で、下が八話です。このカットは前回より微妙にクロースアップしており、壁にかけられていた写真たちはもう目に入りません。これが小宮さんです。「断られたらどうしよう……」小宮さんですね。


 森川邸をあとにした泉と相馬。バス停にて、泉が赤本を買っていたことを指摘されます。「うちのばーちゃんが見たんだと、ジュンク堂で」前話で小宮と話していたシーンですね(画像下)。相馬のおばあちゃんはこれまでの話で何度か出ています。伏線が回収されましたね。今回はこういったかたちでツケを払わされていく回のようです。


 翌日。気合を入れまくっている小宮。「てかお前、彼氏なんていない!っていってなかったっけ」と後ろに立っている兄から指摘されます。小宮も小宮で自分の過去がついて回ってきているようです。

 デートといわれてしまった以上、いつもとは違った装いの泉。律儀です。が、そこで夏目とばったり遭遇。この構図は二話の相馬の告白失敗イベントの直前を思い出させますね(樹が壁のように立っていたカットです)。
 ただし、ふたりと隔たっているものの配置は逆になっています。ゆっくりと夏目が左から右へ歩いていきます。好意的な感情のベクトルが、以前は泉→夏目に注目して描かれてきたJust Because!の物語でしたが、折り返しの今回は夏目→泉といったかたちで反転し、対比されているようです。

 駅のホーム。相変わらず距離を置いて近づけないふたりです。ここからは夏目による尋問タイムです。「泉はデートとか?」(…)「小宮さんとか?」とじりじりゆさぶりをかけていきます。泉の証言を誘導したのち「抱きつかれるくらい仲がいいみたいだし?」と決定的な証言をつきつけます。これはもう完全に逆転裁判ですね。泉くんにも過去のツケが回ってきました。弁護する間もなくモノレールがやってきます。有罪確定。これにて閉廷です。


 小宮の横顔を映したのち、いったん引いたカット。ここではじめて彼女の全身が映ります。スカート。兄から気合入れまくっているのを指摘されたのには、やはり理由がありました。ドアを抜けて「泉先輩!」と声をかけた瞬間、ビクッと反応する夏目。これはおこですね。激おこです。ぐらんぐらんと左右に揺れるモノレール。気まずい雰囲気を感じつつある泉です。「ダメっていったのに……」「会長の許可いる?」「じゃあ、なんで聞いたの」「それは、なんとなく」

 またしても感情の行き場を見失いつつ夏目さんは「わたし、ここだから」と退場。ここからは小宮のターンです。江ノ島エスカー。気持ちをアジアン・カンフー・ジェネレーション*11にしていきましょう。体力のある方は自力で階段をのぼっていくのもオススメです。晴れた日は景色が綺麗な江ノ島です。サムエル・コッキング苑まで上がり、完全にデートコースをたどっているふたりです。


 いっぽう予備校ではスマホを見つめている夏目。彼女の目にはもう消しゴムは映っていません。ですが、この気持ちにどんな名前をつけたらいいのか、困惑しているみたいです。これまでの単語帳などと違い、手元にあるノートはまだ大きな白紙のまま。かろうじて読み取れる赤字は「married to」でしょうか。すこし不安な気持ちも見えそうです。


 江ノ島スナップののち、シーキャンドルを遠くに見据える県立湘南海岸公園*12のウッドデッキにやってきたふたり。盗撮のお返しとばかりに壁紙を変更させられてしまった泉です。そして「もう一箇所、つきあってほしいとこあるの」と写真部の部室へとやってきます。「散らかってるけど、そのへん座って」という常套句が出てしまうあたり、やはりここが彼女の居場所のようでした。思い出のなかった泉にアルバムを見せ(て好感度アップをはか)る健気な小宮さんです。

 姉に車を出して送ってもらう夏目(「もう帰ったかな……」とさきほどスマホを見ていたのはやはり泉を気にしていたようです)に対し、殊勝にも小宮を送る泉。「(告白)できないから受験すんの?」(…)「できないから毎日走ってんの?」とゆさぶってきます。「じゃあ、わたしもコンクールで賞獲ったら……先輩に告白する!」と最高の笑顔ともに決定的な証言をつきつけてきました。これはもう完全に逆転裁判ですね。
「ここでいい! ありがと!」と小宮さんは自ら退廷していきます。泉くんにも過去のツケが回ってきました。反論する時間もなく、ゆっくりと靴の音がやってきます。有罪確定。「ちゃんとしてみ」るためにイメチェンした森川の登場とともに、今回はこれにて閉廷です。また次の法廷で争いましょう。

*1:「中学からずっとだよ。こじらせすぎでしょ」≦「……不器用なとこ!」

*2:前話のファミレスのシーンでは、でかでかと画面に映っていました。

*3:適当にいっています。

*4:森川さんはユニクロを着ているとかそういうことではありません。

*5:「……不器用なとこ!」

*6:いったいどれだけの泉くんが死体を重ねたのか、察するに余りあります。

*7:ここに来て勝者の気品すら漂っているように見えるのは気のせいですね。

*8:よくわかる、HDR徹底解説! HDRとは | EIZO株式会社

*9:しかしなにもわかっていません。

*10:このすこし前に「雪のせいで失敗したら、笑えないもんねー」という乾の台詞にあわせて泉くんを見ているカットが挿入されています。

*11:サーフ ブンガク カマクラ

*12:江ノ島が西に見えるのと、背景の特徴的な青い屋根がグーグルマップで確認できました。青屋根の建物は現在どうも取り壊されたようですが。