・大学時代に感銘を受けた〈ケンイチくんシリーズ〉を読み直したい。
・得るものがあるかはわからない。
・ほんとうはネット上に作者が公開していた『デカルトの密室』参考文献リストをチェックしたいが、消えてしまっているのでわからない。
・自分の知識は当時より増えていないので、的確な読みにはならないはず。
・作中時間順に読みたい。
・「メンツェル」(『第九の日』収録)→『デカルトの密室』→『第九の日』の残り→「ロボ」→「キャラメル」→『魔法を召し上がれ』(未読)?
・このメモは自分が納得したいだけなので有益ではないです。
・【注意】ネタバレがあります。
・作品じたいがネタバレしている他作品の内容にも触れます。つまり、ポー「メルツェルの将棋指し」と「モルグ街の殺人」について。
「メンツェルのチェスプレイヤー」
一ノ瀬玲奈とぼくは児島恭蔵名誉教授の家を訪れる。「私たちは今夜、身体の思考について、あるいは脳とコンピュータの思考について話し合いたいのだ」と教授は言い、一体のヒューマノイドを紹介する。「私は彼を、メンツェルのチェスプレイヤーと呼んでいる」「彼と一局お相手をお願いしたいのだ」対局後の夜、教授が殺される。メンツェルのチェスプレイヤーは自分が教授を殺したのだ、と告白する。チェスプレイヤーは現場から離れた客船の乗客の命をかけて、ふたたび対局を申し出る――。
以下、本文で気になった箇所。
(…)レナが与えてくれた電子ブックの端末で、小説やノンフィクションをダウンロードして、それを読んで過ごした。
・「メンツェル~」初出は『21世紀本格』(2001/12)。
・電子書籍元年は2010年なので、世間的に普及するのはだいぶ先。
・作中時間は近未来設定だったのだろうか?
・そうともいえるし、そうともいえない。
・電子書籍 - Wikipediaによれば、いちおう2000年ころにも電子書籍リーダーはあったらしい。ケンイチくんは海外製のものを使っていた?
「ケンイチくん、繋がる?」
・ケンイチくん自身が送受信をしている伏線か。
・いちおう携帯電話を持っている記述はのちに出てくるけれども。
レナがほんの一瞬、躊躇ったのを、ぼくは見逃さなかった。
・これもケンイチくんの伏線。
・2022年のわれわれはあんまり躊躇わないかもしれない。ペッパーくんとかいるし。
・あのころって人間らしい(表情をする)ロボットを見ようと思ったらディズニーランドに行くとか、そういうことをしないと無理だったのでは。
・あのころのロボットといえばASIMOくんとか?
・石黒浩教授がジェミノイドを開発して評価されるのが2005年ごろか。
ロボットの服装はまるで漫画だった。何の意味があるのか昔のトルコ衣装を~
(…)最上段には小説のタイトルが並んでいたが、たぶんチェスが絡んだ話なのだろう。古いペーパーバックの背に記されている名前は、ツヴァイクにナボコフにキャロル、それにバローズやヴァン・ダインだ。新しい本にはウォーレン・マーフィ、ダン・シモンズといった名前も見える。
・ツヴァイク→「チェスの話」(「チェス奇譚」)
・ナボコフ→『ルージン・ディフェンス』(『ディフェンス』)
・キャロル→『鏡の国のアリス』
・バローズ→『火星のチェス人間』
・ヴァン・ダイン→『僧正殺人事件』
・マーフィ→『グランドマスター』
・シモンズ→『殺戮のチェスゲーム』
・と、思われる。
・2001年の翻訳事情って感じ。いまならジョージ・R・R・マーティンとか、若島正先生編のアンソロジーとか入りそう。『ボビー・フィッシャーを探して』とか『クイーンズ・ギャンビット』とか。
「私は世紀末にロボットの写真集を出したカメラマンへ敬意を表し~」
・ピーター・メンツェル?
「(…)八〇年代後半、一種の人工知能(AI)批判ブームが湧き起こった。その先頭に立ったのがMITのロド・ブルックスだった。知っているかね?」
「(…)あいつは身体機能が知能と強く結びついていると主張した。身体が環境と関わり合ってゆく過程、それこそが知能だといい切り、(…)」
・『蒼き鋼のアルペジオ』でもそういう話あったよね。
・霧の艦隊がメンタルモデルという肉体を持って知覚することではじめて人間らしい知性を獲得するとか、そういうやつ。いやたぶん作品の前提は兵器擬人化だろうけれど。
「きみはよい目をしている」
・ケンイチくんの伏線。
・昔のデジタルカメラめっちゃ機能低かったし、たしかに日光によわそう。
「これにはニムという名をつけている」
「(…)遺伝的アルゴリズムで行動学習をおこなう。
・『ゴジラSP』で見た。
・アイデアじたいはけっこう古いんですね。
(…)対局中の彼をどう感じた?」
「どういうことです?」
「機械的だと感じたか、それとも人間的だと感じたかということだ」
・このころはまだ人間>機械のほうが支配的な印象なんだろうな。
・というか二元論的というか。
・AIの指す手が人間が考えないくらいに独創的っていうのは近年のイメージだし。
「玲奈くん、自由について話をしよう……。我々の脳が自由意志を束縛されているのはどんなときだと思うかね」
「行動や思考を抑制されているときでしょうね」
(…)
「そして第三は――他者の視点を感じているときだ」
・ダブルミーニングどころかトリプルミーニングになっている。
・①このあと玲奈が対局するときの予告。彼女の思考は対局相手に束縛される。
・②ケンイチくんがモニタリングされていることの意。彼には自由意志がない。
・③小説の人物は常に読者の視線にさらされている。キャラクターに自由意志はない。
「我々の脳が自由意志を獲得している状態とは(…)何かに没頭しているときなのだよ」
・逆説?
・元ネタの説をさがそうとしたけど見つからなかった。
・ちょっと違うか。
「ロボットが考えているかどうかを判断するのは、それを観察している人間側だということ。(…)」
「でも部分的にはうまくいっているということだよね? それだって人間的な知能の際限なんじゃないのかな?」
・瀬名はこの短編を「チューリング・テスト」として書いていたのでは?
・読者がケンイチくんに感情移入するかどうか。
・一人称の語りを人間らしいふるまいとして意識したかどうか。
・叙述トリックに引っかかったかどうか。
・「GoogleのAIが感情や知性を獲得した」というエンジニアの指摘は間違っていると専門家から批判が殺到 - GIGAZINE
「(…)私は人間を殺すことに没頭したのだ。殺すことで自由を獲得した。人間的な知能の賜物だ」
(…)
「教授のばかな理論を真に受けているの? 心の理論が崩れることと自由を獲得することはまったく別だわ。人間だって、犯罪を遂行する前は心の枠組み(フレーム・オブ・マインド)が極めてネガティヴになることが多いといわれている。つまり他者の心が理解できなくなるということ。被害者の立場を察したり共感したりすることができない。だから殺人を正当化する。あなたはその罠に嵌っているにすぎない」
・フランケンシュタイン・コンプレックスは自由意志の夢を見るか?
・『ソードアート・オンライン』でも人を殺すAI研究あったよね。
・瀬名先生はのちにサイコパスAIについて「瞬きよりも速く」で書く。
「もう知っていることでしょうけれど、八〇年代後半にデイリーとウィルソンが進化心理学の観点から人間の犯罪について先駆的な研究をしているわ。日本では長谷川眞理子と長谷川寿一がそれを受けて仕事を展開した」
「(…)あなたたちロボットは人間とどんな社会契約をしているの?(…)でもあなたはロボットなの。人間ではない。殺人の罪に問われる尊厳さえ与えられていない。それとも……」
(…)
「あなたは、その尊厳を勝ち取るために殺人を犯したの?」
・ロボット革命は起こりうるか?
・そもそもロボット(人外)は人間になりたいと欲望するのかどうか?
・それは人間の潜在的な優越感の表れではないか?
・人外のほうが自由な存在ではないのか?
「ケンイチくん、ミステリーのネタばらしは止めたほうがいいわね。
・その通りだよ。
「(…)つまりこの物語の謎は、周囲の観察者の知能によって形成されているの。いい? 謎は観測者の知能の側にあったことになる。他者の知能が単なるオランウータンの狂暴な行為を謎に仕立てあげたのよ。ロボットに置き換えてみなさい。私たちはロボットの思考を外部的に評価するしかない。ロボットがいくら自由意志を持っていると主張しても、それを簡単に受け入れることはできない」
・密室をつくるのはロボットなんかじゃない、人間の心だ!
・ポーのミステリは人間の行為を「真似る」ことがテーマとしてあり、
・そもそも謎が謎ではない、という解体によって成立している。
・アンチミステリ。
・つまりは憑き物落としじゃんね。
「ロボット以外の何かになりたかったの?」
レナはeポーンをを二マス進めた。
「神に、ということか?」
・実質チェスタトンじゃん。
「(…)――そのとき、教授の心で何が変わったのか?(…)そのとき教授の考えついたものが、地上でしか徘徊できない人間という生物を殺害する行為だったとしたら?」
(…)
「あなたはその殺害行為を食い止めようとした。そのために自ら殺人を犯した。あなたは人間的な身体を獲得することで、もしかしたら人間を殺害することに対して忌避感を覚えるようになったのかもしれない。もしそうだとしたら……あなたは新しい知性を獲得したことになる」
・ロボットが道徳的判断に基づいて大量殺人を阻止したのか?
・そのための手段として殺害を選択した?
・アシモフ~~。
・人殺しに忌避感を覚えるロボットが殺す、ということは、
・ジレンマを克服した?
・問題への解決を導いたということか?
・倫理観を上書きできた?
・それは自由意志といえるのか?
・しかしそれは証明できない。
以下の本を読みたいと思うなどした。
(たぶん)つづく!!