雑記はつづける意味があると思うのでつづけている。いまのところ二、三日に一回ペースだけど、月末は忙しくてそんなこと言ってられないかもしれない。
ウォルター・テヴィス『クイーンズ・ギャンビット』
ネットフリックスのドラマになったときに観ようとしたのだが、アニメの24分くらいの尺になれている人間にはアベレージ一時間の映像連作は重すぎ、途中で挫折した。小説は買っていたのだが、忘れていた。最近になってTwitterで複数人のフォロワーが「おもしろい」と言っていたので、ようやく腰を上げた次第。およそ二年ぶりの挑戦。
自分はチェス小説には2021年ごろから興味がわき(創作の参考にしようというもくろみがあった)、『チェス奇譚』、「成立しないバリエーション」、『モーフィー時計の午前零時』、『ディフェンス』あたりを読んできた。どれも面白かったのだが、『クイーンズ・ギャンビット』は群を抜いてエンタメをしているという印象になる。両親が死んで孤児スタートから用務員さんのやっているチェスに興味を持ち、手ほどきを受けて才能を開花させるのとか、薬やアルコールにおぼれるのとか。
孤独な主人公ゆえの描き方も面白い。序盤では自分が魅入られた薬を養母からかすめとるし、チェスの雑誌や金も盗む。チェスの大会に出るにはさらに参加費用がかかるので、自分の才能を見出してくれた恩人に無心もする。このあたりのギリギリで生きている感じはわかる。なにかを為すためにもまずはお金がかかるんだよね。めっちゃわかる。
ほかにも終盤、対局に主人公が盤面にのめり込んでいる記述から、ふとした瞬間に相手を思い出すようにして見つめるシーンが、たしかにありそう、という感じがしてすごくによかった。盤上だけでなく、盤面の向こうの敵に視線を向ける、というだけなのに、そこでキャラクターが読者の前に出てくれる。
(…)最高の手。本当に最高。ベスはためらいがちにルチェンコの顔を見上げた。
それまで一時間近く、彼のことを見ていなかったが、その見た目にベスは驚いた。ルチェンコはネクタイを緩めていて、ねじるようにして片方の襟に巻きつけていた。それに髪の毛はくしゃくしゃで、親指を噛んでいて、顔は驚くほどにやつれていた。
長引いた対局の苛烈さによって、相手がめちゃくちゃなまでに疲弊しているのに気づき、同時に自身の優位を理解する、という、わざとらしいくらいに説得力に満ちている。こういう場面の切り取り方がほんとうにできたらいいなあ、と思う。
これよりも前になるけれど、勝利を核心するときの穏やかな感情を示す描写もいい。これも、集中していたところからふと顔を上げて、状況を俯瞰するという記述のひとつだ。
(…)ベスはチェス盤から顔を上げて周りを見渡した。他の対局は全部もっぱら進行中で、見物人たちが声を潜めるようにして見ていた。立ち見をしている人の数は増えていて、みんなベスとベニーの試合が見える場所に立っていた。ディレクターがやってきて、ふたりのテーブルの前に置かれたデモ用のチェス盤のキング・ポーンをキングの4に進めた。見物人たちは、ボードを食い入るように見ている。ベスは部屋の反対側に目をやってから窓の外を見た。美しい日だった。木々の新緑と雲ひとつない青い空。彼女は自分が大きく膨らんでいくような気持ちになった。気分が和らいで、心が開いていくのを感じた。勝てる。ベニーをこてんぱんに打ち負かしてやる。
『クイーンズ・ギャンビット』が面白いのは、たぶん、ただ戦いそのものを緻密に書くのではなく、対局者自身に見えるものを読者に伝えるべく実況していく、その緩急の手つきが上手いのだと思う。だれだって白熱した盤面をこれでもかと書いておいて、そこから一歩引いて俯瞰していくカメラワークをする、といった間合いの取り方をされては心を掴まれてしまうはずだ。
ちなみに、自分の手元にはまだ未読のチェス小説がひとつ残っている。フレッド・ウェイツキン『ボビー・フィッシャーを探して』だ。今月中に読めるかな。ちなみに映画は観ていないので、まったく知らない状態。
BOSS DS-1X
ところで今朝起きると、外では、また浅い雪が積もっていた。今年は雪がよく降るなあ、と思いながら当然のように『きんいろモザイク』のいわずとしれた名曲「きみいろスノウフレーク」を聴いていた。そこで思った。
そうだ、今日はこれをコピーしよう。
というのも、さいきん、中古でBOSSのDS-1X、つまりコンパクトエフェクターを買ったからだ。これの感触を確認したかった。
これまで自分が使っていたメインの歪みエフェクターはKensei Ogataさんがモディファイした、BOSS SD-1 Tranceparent Modというもので、これは、もともとのSD-1よりも出力も歪みのレンジも広くなっており、使いやすい。
のだけれど、自分が宅録するさいにリードギターとして使っているSquier Jazzmaster (J Mascis Signature)で鳴らすと、どうもTONEを絞っても高音域を拾いすぎて、キリキリした印象になってしまう。たぶんギターのせいだと思う。ふつうのジャズマスターよりも高音成分がいくらか強い。なので、もうすこしミッドが重く、粒立ちのいいディストーションがほしかった。
まあProco RAT2というド定番の歪みエフェクターも手元にはあるんですけど*1、電源供給プラグを専用のものに差し替える作業がめんどくさすぎるので……。
そんなことを考えながらなんかいいのないかな、とYOUTUBEの機材動画をサーフィンしていると、DS-1Xをcinema staffの人たちが試奏する動画をみて、これまんまほしかった音だ!!! となった。ジャズマスターで試奏されているのも助かった。かゆいところに手が届いたのだった。
音については上のYOUTUBEを見ればいいとして、じゃあじっさいにどういう感じでコピーするか、と考える。
というかなんかこの曲のイントロのかんじ、どっかで聴いた感触があるんだよな……と考えていると、そこで思い出した。土岐麻子のビートルズカヴァー「Lucy in the sky with diamonds」だ!!!
『きんいろモザイク』の一期のエンディングも土岐麻子&中塚武による「Your Voice」をカヴァーしたものだったし、参照元としてはけっこう合っているじゃないだろうか、まあ最初のフレーズが近いってだけで、以降の構成とかはぜんぜん違っているんですけれども。
ほんとうだったらこれにならってエレアコで鳴らしたいのだけれど、あいにくマンション暮らしなのもあって、機材の持ち合わせがない。じゃあそれこそDS-1Xをごりごりに使った、オルタナっぽい感じでどうだろう、と考える。あ、いけるかもしれない。
というわけでやってみた。
歌っています(ギターも歌も英語も下手くそです)。
主にDS-1Xを使っているのは右側のギター(左側のリズムギターはBacchusのテレキャス)。自分はギタリストとしてはひよっこなのでとりあえずサビではオクターブを鳴らすしか発想がない。二番のサビからはギターをさらに足してエモくなっています(申し訳程度のオルタナ成分)。
いや、これは、一度でいいからスマッシング・パンプキンズの「Today」のあのリフのフレーズをアレンジに使いたかったんです。信じてください。
というわけで、この調子でギターももっと練習したいですね。知り合いが『ぼっち・ざ・ろっく!』の影響でギターを買ったりしているので、自分も実家から高校時代買っていたスコアを実家から取り寄せました。これがゼロ年代ギターロックの力だ……。完全にキッズになってしまう……。
というわけで、みなさんもよきオルタナっ子ライフを……。